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第32話

「匂い?」 ユキ先生は不思議そうに言う。 「いや、カプセルを入れてるオメガからフェロモンは出ないし、オメガもアルファから匂いとして欲望を感じたりはしないよ。・・・番になれば別だけど」 ユキ先生は言った。 番になれば、相手の感情や欲望を匂いとして感じたりすることもあるらしい。 だが、それはミサキとアキラの間にはありえないという。 だがミサキは匂いをアキラから感じるし、アキラも「匂い」について言っていた。 恐らく。 ミサキもアキラも互いにずっと匂いについては感じていて、ミサキがアキラを怖がる要因の1つにはなっている。 「・・・・・・特別、相性が良いのかもしれない。【運命の番】とか言うけどね。ものすごく相性の良い組み合わせがあるらしいって。まあ、ちゃんとした研究もされてはいないし、都市伝説みたいな扱いだけど」 ユキ先生は首を傾げて言った。 オメガとアルファには大して意味がないことだ。 知能や体力に勝るアルファがオメガを攻略して、番にしてしまうので、選ぶ権利はオメガにあったところで、実質的にはないようなモノなのだ。 オメガはアルファを選ぶしかない状況下に置かれるだけだ。 むしろ、オメガを得るためのアルファ同士の水面下の争いの方がアルファとオメガが番になる為には大きい。 アキラが他のアルファを遠ざけているので、ミサキの周りにはアルファがいない。 そういうことだ。 「ミサキ・・・アキラはだめ?なんか流石にオレも気の毒になってきた」 ユキ先生は言った。 ミサキはユキ先生のカウンセリングルームにいた。 ソファの上で横になっている。 鎮静剤でまだぼんやりしているけれど、身体の熱は引いていた。 ヒートではないから鎮静剤で済んだが、本物のヒートはあんなものではないし、アルファに中で出されないと熱がおさまることはない。 「オレ・・・嫌だ。やっぱり嫌だ。・・・オメガなんか嫌だ・・・」 ミサキは泣いてしまう。 ミサキはアキラに突き上げられたいと思ってしまった。 アキラのぺニスで孔を広げられ貫かれたいと。 それはアキラと重ねた時間は関係なかった。 小さな折り紙や花や、本についての話など、なんの意味もなく、ただただ、欲望だけがある、そんな肉の、生の、感覚、本能だった。 そう。 アキラじゃなくても良かった。 そして、初めて欲望を覚えたアルファ、シンで無くても良かった。 アルファなら誰でも良かったのだ。 あんなの嫌だ。 オメガなんか嫌だ。 泣いてるミサキをユキ先生は困ったように見て、そして隣に座り、優しく髪を撫でてくれた。 「先生。オレ、誰かを好きになりたい」 ミサキの言葉の痛切さは、ユキ先生にはわかるだろう。 オメガであり、アルファの処理を仕事にしている、もう番を得ることのないオメガだからこそ。 どれだけのオメガが、誰かを「好き」になったことがあるのだろう。 オメガに「恋」はあるのだろうか。 籠絡されて、アルファの番にされても。 それが本当に恋なのか。 アルファのオメガへの「執着」は「恋」等と呼べるものではない。 あれは本能。 「難しいね・・・好きになっても、離れてしまうこともある」 ユキ先生は言った。 ユキ先生はそれでも。 恋をしたのだと、ミサキはわかる。 それは失った番になのだろうか。 ミサキが書く物語で、主人公は恋をする。 恋は主人公に力を与え、乗り越える力をくれるのだ。 オメガにそんな恋は出来るのだろうか。 「そうだね。ミサキ。・・・ミサキはミサキの好きにしていいんだよ?」 先生は優しかった。 「アキラじゃダメかなんて言ってごめんね」 先生は謝ってくれさえした。 確かに。 ミサキだって。 アキラじゃダメなのかなんて考えなかったわけではない。 怖い、以外で明らかな拒否する理由はない。 アキラがアルファじゃ無ければミサキがオメガじゃなければどうだった?、というのある。 でも。 ミサキはオメガで。 アキラはアルファで。 それが始まりで全てである以上、それを見ないわけにはいかないのだ。 ただ。 ミサキは恋がしたかった。 アルファとかオメガとかじゃない。 恋が。 物語のように。

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