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第33話

朝、寮を出る。 寮を出たそこにアキラがいる。 当たり前のように。 ミサキがアキラを見たからアキラはこちらを見つめない。 目を伏せて。 ミサキをこわがらせないように。 ミサキから近寄ったり話しかけない限り、アキラからやってくることはなく、そして、アキラからいなくなることもないだろう。 ミサキは静かにアキラに近づく。 アキラに近づく度に、アキラの耳が赤くなり、アキラがこちらを見なくてもミサキを意識しているのがわかる。 アルファらしくない。 アルファはどうやってでもオメガを得ようとするものだ。 もっと狡猾に、計算高く、そしてつよい執着で。 こんな不器用なのはアキラくらいだ。 ミサキが目の前に立つと、アキラはやっと顔を上げた。 やはりその目は。 怖いくらい強くミサキを見つめるのだ。 怖くて。 でも。 ミサキはアキラを嫌いにはなれない。 でも。 「どうしてオレ?」 ミサキは聞く。 そんなの無駄なこと。 アルファがオメガを求めるのは本能で、選ぶのも本能だ。 1度良いと思ったオメガに執着する傾向がアルファにはある。 だからこそ、アキラはミサキの周りからアルファを排除し続けているのだ。 色んな手を使って 「俺は・・・」 何か言いかけるが、アキラは口下手だ。 黙ってしまう。 高い能力を持つのに、アルファにしてはめずらしい。 「俺を嫌わないでくれ。俺にしてくれ」 何度も言われた言葉は、切ない程の叫びだと知っている。 アキラは抑制剤を打ってでも、ミサキ以外を求めようとしない。 それが、ミサキにはツライ。 そんなに思われてもミサキには応えられないからだ。 それはミサキには重すぎる。 「昨日のことは助けてくれたと分かってる。ありがとう」 ミサキは言った。 あのまま欲情したまま歩いていたら、いつもならアキラゆえにミサキを遠巻きにしていたアルファ達が、本能を刺激されてやってきた可能性はあり、おかしくなったミサキは誘いに抵抗出来なかった可能性はある。 オメガの身体は。 アルファが与える快楽にとても弱いのだ。 もちろん、アルファもまたオメガが与える快楽に逆らえないのだけれど。 そのまま番にされてしまっていたかもしれない。 他のアルファはアキラみたいに我慢しない。 絶対に。 「俺は・・・俺は・・・」 アキラが何か言おうとする。 でもアキラは黙る。 何故なら、何か言えばそれがミサキに重荷になると分かっているから アキラは自分の思いさえ言わない。 それがミサキの苦痛にならないように。 自分の存在を消して見守ることさえする。 小さな折り紙や花や本。 そして、「選ぶなら俺を」以外では何も示そうとしない。 そんなアキラを嫌いにはなれない。 傲慢なアルファ達を見てきたからこそ。 「・・・他のオメガを」 ミサキは言う。 それが無理だと分かっていて。 アルファの執着はそういうものではない。 殺し合いをしてでもオメガを得ようとするのだ。 「出来ない」 アキラの答えは早い。 そうだろう。 ミサキをアキラは諦めない。 諦めてなどくれない。 「こんなの出口がない!!」 ミサキはその酷さを詰る。 ミサキはアキラに追われるだけなのだ。 アキラと殺し合うようなアルファが現れ、そちらを選ばない限り。 「・・・・・・すまない」 アキラはそういうと、目を伏せてしまう。 「出口がない。酷いよ、アキラ」 ミサキは泣いた。 アキラか。 それ以外か。 その時はアキラとそのアルファの殺し合いか。 そんなの。 ミサキには酷すぎた。 「すまない・・・」 アキラが目を落としたまま言う。 愛してるとさえ言わない、口説くことさえしないのは、アキラの誠意なのだと分かってて。 でも。 ここは行き止まりだった だから、そうなるしかなかったのかもしれない。

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