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第34話
ミサキは本や話を書くことに逃げるようになった。
そこだけがミサキが自由でいられたからだ。
でもいつまでもそこに居られるわけではない。
それは分かってた。
オメガの肉体はいずれアルファを必要とする。
オメガが番無しで生きるのは難しい。
ヒートによる危険と共に生きるのは。
それが出来たとしても。
ヒートを鎮めるためにはどうしても。
アルファが必要なのだ。
あの辛さをオメガは耐えられない。
オメガの自死が多いのは確かで、そのために、ユキ先生達のようなカウンセラーが若いオメガにはついているのだ。
とりあえず、ミサキは問題を先延ばしにすることにした。
ユキ先生の言うように、オメガとしてじゃなくて、ミサキ自身として生きることをまず考えることにした。
話を書くこと。
読むこと。
これがミサキの人生だ。
18にならないオメガは番を得ない限りは、成人としては扱われない。
但し、番を得れば何歳であろうと、成人扱いになる。
まだ番を得てもいないミサキは学園でインターネットへ繋がることも制限されてはいたが、投稿サイトの種類によっては小説を投稿することもできた。
ミサキはSF小説を書いて投稿し始めた。
アルファもオメガもいない世界で、少年達が冒険する物語だ。
機械生命体や、他の惑星の人間達とも出会う、そして世界を変える物語だ。
ミサキはそこに救いを見出していた。
せめて物語くらいは世界を変えたかったのだ。
そんなミサキの作品に少しづつ読者が集まり始めていく。
それもミサキには嬉しかった。
ミサキは自分の身体を切り離した物語の中へ逃げることを好むようになった。
ミサキにはそここそが現実だったから。
本を抱え、暇があれば本を読み、物語を書く。
ミサキはそうすることで、やっと息ができるようになる。
アキラと本の話はする。
その時だけはアキラが怖くない。
アキラは当たり前のようにミサキの読者になっていた。
投稿してることを教えてもいないのに。
だけど、アキラからの感想を聞くのがミサキは好きだった。
そして、シン、あのアルファ。
ミサキはあのアルファをできるだけ避けるようにした。
ミサキにはわかっていた。
アキラより遥かに、ミサキにはあのアルファが危険なのだ。
何より、あのアルファはミサキが生きていくために、何のプラスにもならない。
誰の番にもならない。
オメガを処理用にしか使わない酷い男だから。
でも。
でも。
本当に危険なのは。
もうミサキがあのアルファ、シンに惹かれてしまっているということだった。
酷い男だと分かっているのに。
シンを思って毎夜孔を自分で慰めた。
唇を舐めながら、華奢なオメガをくみしき、激しくその孔を抉るシン。
獣のように吼え、唸る。
その姿を想いながら。
シンとのセックス。
それはきっと、ミサキの身体を粉々に、ぐちゃぐちゃにするのだとわかっていた。
焼き尽くされ、その激しさと甘さに狂うのだろうと。
だからこそ、ミサキはシンを避けていたし、シンもミサキには見向きもしなかった。
面倒なアルファが付きまとうオメガより、もっと簡単にさせてくれるオメガの方が良いからだ。
アキラはただ黙って、ミサキを見守るだけだった。
そんな張り詰めた関係が壊れる日が来た、
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