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第35話

ミサキは学園の外れにあるベンチで本を読むのが好きだった。 そこで本を読んでる時は魂が自由になれる気がした。 ミサキ達オメガもアルファもこの学園に閉じ込められているようなもの。 アルファは普通の少年達が急激にアルファへと変わった身体のコントロールを学ぶために、ベータと切り離している、ということがこの学園にいる建前になってはいる。 オメガ達は未熟なオメガ達の保護、と「番探し」のためにこの学園にいる。 ここは社会から切り離された場所だ。 もう既にアルファとしてビジネスを始めているアルファ達は学園からたまに出ることもあったが、番を得て学園を出ることを希望しない限りオメガは基本的に、休み以外は外に出ることはない。 番のいないまだ若いオメガを狙う不届きなベータもいるからだ。 ある程度の年齢になれば、オメガはベータの男性以上の筋力を持つし、学園では武道が必修なので暴力でベータが支配できるようなことはなくなるが、それでも「保護」という名目で学園にオメガは閉じ込められる。 番を得たオメガはアルファと共に学園を出ることもできる。 でも、番を得ても、そのまま学園に留まることを希望するオメガが多い。 学園を出てしまったら、アルファに用意された綺麗な檻に入れられるだけだからだ。 まだ、学園の方がオメガ達にはそれでも自由なのだ。 学生としての生活。 オメガの仲間達と居られる。 番がいても、寮なのでアルファから夜は離れられる。 昼にどんなに抱かれても。 18までの限定された自由だとオメガたちは考えていた。 18を過ぎれば大学に進むオメガもかなりいる。が、番のアルファと暮らしながら通うものがほとんどだ。 完全にアルファに繋がれる。 オメガ達だって。 恋がしたかった。 自由が欲しかった。 アルファと違いオメガ達はベータに憧れる。 自分達からは奪われたものを持っているから。 いかに美しくても。 ベータよりつよくても。 優秀で美しいアルファに望まれても オメガはあまりに不自由すぎた。 だからオメガ達はシンの手の中に落ちていく。 恋とは呼べないとしても。 それは自由な意志だった。 微笑みかけられ、支配ではない欲望を向けられ、その場限りのセックスを求められる。 でも、支配されることのない。 対等な関係だ。 それはオメガたちには逃げ場のようなものだったのだろう でも、ミサキはそんなのは嫌だった。 逃げ場はいらない。 それでもできることを。 それでもミサキとして生きられる場所を。 だから小説を書いた。 そしてそれを発表した。 そこではミサキはオメガではなく、ただのミサキだったから。 ミサキの小説はかなり読まれるようになっていた。 ミサキはそれを仕事にしようとは思わなかったが、書くことが出来る時間を得れる仕事を見つけようと思っていた。 番を得るにしろ、経済的には自立していたい。 大学にも進むつもりだった。 アルファに飼われるつもりはなかった。 ミサキはミサキとして歩いていた。 シンのことは気になり続けたし、シンがあちこちでオメガを口説いているのは見てしまうけれど、でも、関わらないように気を引き締めた。 このまま、ミサキは卒業までシンと関わることはないだろうと思っていたころだった。 その日、ミサキの座るいつものベンチの隣りに誰かが強引に座ってきた。 大きな身体。 アルファだ。 ミサキは驚く。 アキラの手前、こんな強引なことが出来るアルファがいるとは思えないからだ。 オメガですらアルファの本当の生態はわからない。 アルファはベータはもちろん、オメガとも違う化け物なのだ。 わずかひと月で身体を作り替え、沢山の知識を共有する化け物なのだ。 アルファはアルファの中だけで、彼ら独自の価値観も共有しあっている。 アルファ達が本当に何をしているのかは、アルファ達だけにしかわかない。 1つだけわかっているのは。 彼らはアルファ間の「闘争」のためだけに生きている。 そして、アルファには彼ら内での明らかな順位があり、それが絶対なのだ。 その順位をあげるために戦っているのだ。 アキラは抑制剤を使っていて、能力を制御しているにも関わらず、この学園では最上位のアルファで、だからアキラの執着しているミサキに簡単に近寄ろうとするアルファはいないはずなのだ。 排除のためにアキラは努力を惜しんでいないというのももちろんあるが。 驚いて顔を上げたミサキが見たのは、困った顔をしたシンだった。 さらにミサキは驚く 何でシンがここに? ミサキの隣に何故座る? しかもミサキをだきそめる? 「悪い・・・ちょっと助けてよ」 アキラが困ったように言う。 何のことなのかミサキにはさっぱりわからない。 「ちょっとだけ話を合わせて?お願い、何もしないから」 シンは言った、 その言い方はアルファというよりは、年下の少年ぽくて、ミサキは思わず頷いてしまったのだった。 「ごめんね、本当に何もしないから」 シンはそういうと、がばっとミサキを抱きしめてしまった。 アキラがやって来る、とミサキは思ったが、アキラはこの日は珍しくどうしても抜けられないビジネスの話があるらしく、いないことを思い出した。 アルファ達にミサキのベンチに近寄るな、と圧をかけるだけかけて、学園をでたはず。 それを知ってて、ミサキを抱きしめる? アキラが怖くないの? ミサキは抱きしめられたことより、それに驚いてしまった。 「お願い、なにもしないから、ちょっとだけこのままでいて」 シンが囁く。 そこへ、複数の男たち、アルファ達の声が近付いて来る音がした。 シンは追われているのだと、ミサキは理解したのだった。

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