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第37話

凄まじい怒気をミサキは感じる。 怒り狂ったアルファ達に囲まれたのだ。 耳もとで怒鳴られるような圧が3つ、激しい火柱のような熱と共にある。 凄まじい怒りにミサキは怯えた。 オメガはアルファの感情を感じ取るのだ。 それは執着と嫉妬と、憎しみと、そして奇妙な高揚だった。 アルファ達は。 怒り、憎み、嫉妬しながら。 それでも戦うことに高揚していた。 戦いが始まることに。 それは人数がいるから勝てるから、とか、これで相手を打ち負かせるから、とかいう結果のためではないことまで感じとり、ミサキはさらに怯えた。 アルファ達はただ、戦えるというそのことだけで、そこに喜びを感じてるのだ。 単に戦いたいだけの生き物なのだ。 アルファは。 アルファの順位を重視すること、戦うためのルールにこだわることは、戦いが好きすぎて殺しあって誰もいなくなることを止めるための本能なのだ。 そうミサキは理解した。 アルファは高潔なのでベータと違って卑怯なことはしない、と言われていた。 違う。 と今わかる。 それは互いに殺しあい、破滅を防ぐための本能なのだ。 いや、それでも。 アルファに支配されていなければ、卑劣に殺しあっていつか破滅していただろうベータよりはマシなのか。 ミサキは怯えながらも、グルグル色んなことを考えてしまう。 「シン、今日という今日は決着をつけよう」 唸り声。 アルファが仮面を外した声だ。 いつもの取り澄ました完璧な存在のフリなどもうしてない。 狙ってた雌を奪われた雄だ。 「同意の上だよ?あの子達がしたいって言ったんだ。お前らが口出す話じゃない」 ミサキを見せつけるように抱きしめながら、シンは言う。 ミサキは抱きしめられて身体を硬くしたが、でもその手を振り払わなかった。 シンが今アルファ達に殺されるのは、嫌だったのだ。 だがこれがシンでなくても、そう思ったかどうかは自信が無い。 むしろ、オメガで遊ぶ存在は許せないはずなのだ。 同じオメガとして。 なのにシンを今死なせたくないと思ってしまってる。 「ああ、だからお前を見逃してきた。オメガが選ぶことだからな。どのアルファを選ぶかは」 違うアルファが言うが、こちらももう、獣のような唸り声だ。 「でもな、三人まとめて抱くとかな、そういうのは違うんだよ。それはアルファを選んでるのとかじゃないだろう。お前はオメガをモノみたいに扱ってる。それは、もう許せない」 もう一人の声も獣の声でしかない そして、アルファ達はシンがオメガを大切に扱わなかったことに怒っていた。 それの怒りは当然のように思えた。 シンはオメガに全く敬意がないのだから。 だけどシンはミサキを抱きしめたまま笑った。 面白くて仕方ないかのように。 「モノにしてるのはお前らだろ?大体、番とか気持悪いんだよ。オメガを鎖で繋いで犯してるのと同じようなもんじゃないか。そんなお前らが、合意で楽しくセックスしてるオレとオメガ達のことをとやかく言うなよ。大体お前らオメガ3人相手できる?さすがのオレも死ぬかと思ったよ」 シンの声は明るかった。 どこまでも。 「ごめん、オメガ4人までいけるって言ったけと嘘だね。流石のオレも金玉、空っぽ。オメガ3人は・・・いや、マジもう無理、無理無理」 シンは小さな声でミサキに囁いた。 低く笑いながら。 そう言いながらもそっとミサキの肩甲骨のあたりを指でシンはそっと撫でたから、ミサキはゾクリとしてしまった。 シンの言葉にひくい唸り声か3つあがる。 ミサキは震える。 凄まじい怒気がさらに燃え上がっている。 シンはこんなにもアルファを怒らせてどうするつもりだ。 互いに協力するつもりはなくても、今すぐにも三人同時に襲いかかってきそうだ。 「おっと、動くなよ?ここにいるのはあの【アキラ】のミサキちゃんだ。お前らが下手に動くとミサキちゃんがケガしちゃうよ?」 シンはアルファ達にとんでもないことを言い出した。 本気でミサキを人質にしてるのだ。 アルファとして有り得ない行動だ。 だが、シンは狂った壊れたアルファだ。 だから有り得る。 シンはアルファ達にあてつけるように、ミサキの背中をゆっくり大きく撫でていく。 こんな時なのに、ミサキはその感触に酔った。 その手は。 夢見たように甘かった。 「アルファの争いでオメガを傷つけていいのか?何より【アキラ】が黙っちゃいないぞ、ミサキちゃんを傷つけられたなら」 シンは本当に楽しそうに笑った。 そして、シンもまた、ミサキの背中を撫でる感触を楽しんでいた。 背骨を辿り、肩甲骨を撫でる。 優しく脇腹を撫で上げられ、ミサキは声を出しそうになる。 だが耐える。 アルファ達が自分を見ているのを背中で感じていたからだ。 アルファ達は怯んでいた。 オメガを傷つけたくないのはアルファの本能だからだ。 ここにミサキがいなければ、彼らは怒りのままにシンに襲いかかっただろう。 他のアルファと一緒になって襲うつもりではなくても、そうなっただろう。 だが。 ミサキがいて。 ミサキを傷付けたくはない。 オメガを守りたいのはアルファの本能だ。 そして、それが【アキラ】との対決につながるとなると。 そうアルファ達は戦闘狂だが、愚かなどではない。 アキラと戦うなら、自分が勝てる状況を作り出してからだ。 「勝つために」戦うのがアルファだからだ。 学園最高位のアルファとやり合うなら。 それなりの準備もいる。 「オレとやり合った後で、アキラも相手するかい?アイツ今ここにいないとしても、すぐに来るぞ、そんなに長い時間じゃない」 シンの言葉はリアルだった。 アルファ達はアキラが今日は学園にいないことを知らないわけではない。 でもその分、アキラは脅しているはずだ。 ミサキに手を出したらどうなるか。 何かあったら、直ぐに駆けつけてくる、それだけは確かで。 ミサキを傷つけたくない、そしてアキラを今、ここに呼ばれたくない、アルファ達はそう思った。 アキラとやり合うなら。 万全でないと。 それはアルファ達を冷静にさせた。 「シン・・・覚えとけ、改めて話はつけるからな」 一人が言った。 「てめぇは殺す」 もう一人も言った。 「殺してやる」 もう一人も。 怒りのエネルギーはそのままだったが、彼らはゆっくり離れて行く。 アルファらしく後日、シンと一対一でやり合うことになるだろう。 正々堂々と。 少くとも。 シンは今、三人をまとめて相手にすることから逃れられたのだ。 足音が消えた時、シンがため息をついた。 そして、笑った。 「助かったぁ!!!!」 そして、子供みたいに笑った。 ミサキはその笑顔に見惚れてしまったのだった。

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