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第38話

そのままベンチでなんとなく話をした。 シンと話をしたのは初めてだった。 「なんでオレの名前・・・」 言いかけてミサキはやめた。 学園の番のいないアルファなら、学園の番のいないオメガの名前は把握してるものだからだ。 シンはそれを察したらしい。 手をふる。 違う違うというように。 「やめてよ。オレ、オメガの情報漁ってるアルファ達とは違うから。オレはそんな調べたりなんかしないよ。ちゃんと名前を本人から聞くし。ナンパする時に。ミサキちゃんについてはね、アキラが学園中に圧をかけてまわってるから。【ミサキに近寄るなら、まずオレを殺してからだ】って言ってまわっているからね」 ケラケラとシンが笑う。 「ああ、・・・そう」 ミサキはどう答えれば分からなかった。 アキラが圧をかけているだろうな、とは思っていたが思ったよりも直接的な手口に呆れてしまったのだ。 「愛されてるねぇ・・・いや、囲いこまれてるねぇと言うべきか」 シンの言い方が、とてもフラットだったから。 それが事実だということだけを述べたから。 思わずシンの顔をみた。 シンは。 「番」というアルファとオメガの在り方が嫌いなのだともうわかってはいた。 そんなアルファ。 他にはいない。 「アキラはあんたに強要はしてない。だけど他の誰かを選ばさせたりもしない。まあ、そんなアキラを押しのけてまであんたに近寄るアルファは、アキラよりもあんたを囲いこむアルファだろうな」 気の毒そうに言うシンの言葉は、ずっとミサキが思ってたその通りで。 「あんたに残された選択肢は【選ばないこと】だけなんたよな。可哀想に」 シンは気の毒そうに言った。 その言葉は軽くて。 でも軽いからこそ、「気の毒」程度に本当に思っていることは分かった。 それだけでも。 ミサキには。 救われたような気持ちになった。 オメガとアルファのあるべき姿、番を否定している人間がいることが、ミサキには嬉しかったのだ。 それでも、シンはオメガを必要としているけれど。 処理のために。 でも。 シンはオメガを閉じ込めるつもりはないのだ。 あの出口のない執着の中に。 「綺麗で可愛い、可哀想なミサキちゃん。さすがにオレでも口説けないな。オレの遊びをアキラは許さないでしょ、【選ぶのはオメガ】だとしても、【その前に潰す】ってやり方があるからねアルファらしく。口説きたかったけどね。前にオレがオメガとしてるとこ覗いてたでしょ。あの時の顔可愛かったからね」 シンの言葉にミサキは真っ赤になる。 気づかれていたし、覚えられていたのだ。 真っ赤になるミサキをシンは面白そうに眺めていた。 肩にまわされた腕を外そうとシンはしないし、ミサキも押しのけようとはしなかった。 「聞きたかったんだけど・・・」 ミサキは前から思っていたことを言う。 「ん?何?」 シンは目を細めてこちらを見る。 ああ、こんなに気安い笑顔を向けられたなら、心を許してもらっているかのように思えてしまう。 少なくとも何かしら特別なんじゃないかと。 遊びだとしても。 そうやってオメガ達はシンに落ちていったとわかっているのに。 「君のベータの恋人は、君がオメガと遊んでいても平気なの?」 ミサキはそこが気になっていた。 ベータはオメガやアルファの相手にはならない。 それこそ、遊びで相手はしても、本気のセックスでベータは使えないのだ。 殺してしまうから。 オメガに絞り取られて殺され、アルファに身体を引き裂かれて死ぬだろう。 だから。 シンの恋人はオメガと遊ぶことを許しているの? それは苦しいことなのではないか、とミサキには思えたから。 仕方ないと割り切っていたとしても。 シンの顔が一瞬で冷たいものになる。 全ての感情か拭い去られたような。 「まさか。気づかせもしないよ。キョウちゃんが傷付く必要なんて何一つない。キョウちゃんはこれまで十分傷付いた。だから誰にも何にも傷つけさせない。オレが愛してることだけ知っていればいい」 淡々とした言葉だから本心なのだとわかった。 無表情だからこそ、その言葉に嘘はないとも。 「ミサキちゃんには助けてもらったからね、教えてあげる。オレに興味あるんでしょ?というより、オメガを番にしないアルファにかな?・・・オレはね、アルファになる前からたった1人に執着してるの。アルファになってから執着を知った奴らとは違うの」 シンは薄く笑った。 それはゾッとするほど冷たいモノだった。 だけど、美しい。 表面上だけの笑顔よりずっと。 「オレもキョウちゃんも親からネグレクトされててね。少し年上なだけのキョウちゃんがまだ赤ん坊だったオレの面倒みてくれたの。食べ物を置いていくのを忘れるような親達に閉じ込められた部屋の中で。まだ子供でお腹空いてるのに、オレが泣いてるからって食べ物をゆずってくれるの。自分もお腹がすいて泣いてるくせに」 シンの言葉は重かった。 人生を縛り付けてしまう程の重さがそこにあった。 「泣いてるくらいお腹空いてるのに、その食べ物をオレにくれるキョウちゃんがオレは好きなの。それ以外は誰もいらないわけ。オレを泣きながら面倒みてくれたキョウちゃんをオレはもう絶対泣かさない。だからキョウちゃんは何も知らなくていいし、オレはキョウちゃんを殺してしまわないようにオメガを抱き続ける」 シンはサラリと言った。 それはシンの中で当たり前のことなのだ、そうわかった。 「いいなぁ」 思わずミサキは言っていた。 シンが目を丸くする。 「何が?」 そういう感想が出てくるとは思わなかったようだ。 「君は他の誰かを選べてもその人しか要らないんでしょ」 ミサキが心から思ったことだった。 オメガを抱いてまわるのはトラブルの元だ。 オメガを番にした方が楽に生きれる。 シンは選べるのだ。 オメガと生きることも。 それでも。 シンはそのベータを選ぶのだ。 「オレも選んだ誰かと生きたいよ」 ミサキは言葉にして、それが自分の望みなのだと知った。 「そういうことを言われたことはなかったな・・・」 シンが微笑んだ。 それは。 それまでの。 明るい笑顔とは違った。 【オメガのミサキちゃん】にではなく、ミサキという一人の人間にむけた笑顔だった。 「ミサキちゃんは、変わってるね」 シンはそう言って立ち上がった。 「君こそ変わってる」 ミサキは言い返す。 そして二人で笑い合う。 不思議な親密さがそこにあった。 アルファとオメガではないような。 「またね、ミサキちゃん」 シンは軽く手を振り歩き出す。 ミサキもシンへと手を振った。 行ってしまうシンを胸の痛みとともに見送る。 ああ。 ダメだ。 恋してしまった、とわかった。 ため息をついてベンチの上で膝を抱えて丸くなる。 切なかった。 でも。 甘さもあった。 その中でミサキは浸っていたのだった だけど、それをゆるさないモノがいた。 ゆるすはずがないものが。

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