47 / 122
第47話
目が覚めた時には医務室のベットにいた。
そして。
ユキ先生が傍にいた。
「・・・」
ミサキはユキ先生の名前を呼ぼうとして、声が出ないことに気づく。
オメガの強い身体でさえも、限界になっていたのだとわかる。
「話さないで、初めての時は誰でもそうなる」
ユキ先生が優しく言った。
慣れたなら、もっと上手く身体を使えるようになる、と。
ユキ先生は触れようとしなかった。
触れたなら、まだミサキが感じてしまうと分かっているからだ。
鎮痛剤を打ってるから身体はそのうち収まる、と先生は言った。
ハジメテのオメガの興奮状態は、中々おさまらないことが多く、ヒート中と似たような状態になるそうだ。
だが、ヒートではないので鎮痛剤で済む。
ヒートなら、その期間ずっとアルファと交わり続けるしかない。
「先生。オメガって何。アルファとオメガって何」
ミサキは何よりも先にそれを聞く。
かすれ切った声で。
アルファを受け入れた時に得た、あの世界から認証されるようなあの感覚。
あれは。
あれは。
「・・・・・・オメガの心を守ための防衛機能だとか色々言われている。だけど、本当のことはわからない。何より、アルファについて研究することは禁じられていて、オメガについても研究は限られてしまっている。何故人間だけが全く違う存在になってしまうのか、は未だに謎だ。ただ、昔、文字が出来た頃にはアルファもオメガも存在しなかった時代があったことは分かっているけど、これは大きな声では言えない話なんだ」
ユキ先生は教えてくれた。
「オメガがアルファを憎みきれないのは、システムが存在していると知ってるからだ。アルファ個人の意志もそのシステムの中では意味がない、と分かってしまっているから」
ユキ先生の言葉は分かった。
でも。
「オレはアキラをゆるさない」
ミサキは掠れる声でやっと言い、涙を流した。
許せるわけがなかった。
番にされるのを恐れるあまり、行為を「承諾」する言葉を与えた。
だけど、そんなの。
レイプでしかない。
どんなにオメガの身体が悦び、精神がどこかへ繋がることで精神的な安定が与えられるとしても、こんなの屈辱でしかない。
「許さなくていい」
ユキ先生は優しく言った。
ユキ先生の手を求めて手を伸ばす。
その手を捕まえてくれたから握り返す。
「オレは。アキラを。信じてたんだ」
ミサキの声は痛切だった。
アキラはミサキを傷つけないと思っていた。
そんなのただの思い込みでしかなかった。
アキラにはそんなミサキの信頼など、大したものではなかったのだ。
それが悔しくて悲しかった。
すすり泣くミサキの手をユキ先生は黙って握ってくれた。
ミサキは知らない。
窓の外で。
大きな身体でうずくまり、声も立てずに泣いているアキラのことなど。
それはミサキが知らなくても良いことだった。
ともだちにシェアしよう!