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第53話
「ミサキをお前の番にしないか」
アキラは言った。
シンは心の底から驚いた。
アルファはそんなことを言わない。
絶対に言わない。
シンにはオメガの番はいないが、誰よりも執着してる幼い頃から一緒だったあの恋人が、もしシン以外を選んだなら、なんて考えることさえできない。
恋人にそうさせないために全力を尽くしている。
ありえない。
当たり前だ。
アルファは死ぬ時にオメガを連れていく者が多い。
オメガを離すことなど出来ないからだ。
シンも恋人をそうしてしまうかもしれない。
その気持ちはある。
だからアキラの言葉に驚いた。
この男からこんな言葉を聞くとは思わなかったのだ。
身体の下の幼いオメガが止まってしまったシンに、焦れて泣いてしまうほど、シンは固まってしまっていた。
それ程までにこれは驚くべきことだった。
アルファが番を一人しか作らないのは、その執着がアルファすらを蝕む可能性があるものなのに、二人も番を作ってしまったなら確実に精神が崩壊するからだ。
アルファはそこまでオメガに執着し、決して手放さない。
まだ番になっていないとはいえ、アキラがミサキを番として見ていることは誰でも知っていた。
そのアキラが。
ミサキを手放す?
しかも、誰かに渡すだと?
ありえない。
シンは固まったままで、シンの身体の下で悶えるオメガは、必死で一人で動くが足りなくて本気で泣き始める。
アキラだけは苦い顔のまま、シンを睨みつけている。
殺したい程憎い、それがわかる顔で。
「ミサキ、が。幸せ、に、なる、なら」
アキラの声はその喉を焼きながら出てくるかのようだった。
シンは固まっていたが、その声の意味を何度か頭の中確認し、それの意味を自分の中で確定させた後、
大爆笑した。
身体の下で笑って震えるシンの身体に連動して、オメガがヒクンヒクンと身体を痙攣させ、声をあげる。
やっと与えられた刺激に喜びながら。
「バッカじゃねぇ!?」
シンは大声で笑った。
そして、オメガを喰らうことを再開する。
このオメガのどこが美味いかはもう知り尽くしている。
そこを抉りそこを楽しむ。
気持ち良くて最高だった。
アキラとミサキなど、やはりどうでもよいことだ。
「ミサキは要らない。番ならね。遊びでだったら食ってもいい」
シンは言った。
本心だった。
オメガなど誰でも同じ。
どんなオメガでもそれなりに楽しめる。
楽しめなくても、ただひとりの恋人の愛しい身体以外は処理用でしかない。
いいっ
もっと
もっと
自分の下で鳴くオメガを押さえつけ、自分が楽しむためだけに突き上げる。
オメガは美味い
たまらなく美味い。
オメガでなければ満たされない。
だが。
だが。
そんなものではシンは足りない。
ただひとりのオメガより、もっと欲しい人がいる。
「大体、そんなのミサキは望んじゃいないだろ。誰かの代わりに使われ続けるなんて」
シンはそれだけを言っておく。
ミサキは愛されたいのだ。
可哀想に、とそこはシンも同情してる。
番にされるのではなく。
それは多くのオメガ達が通る道なのだろう。
アルファは執着する。
それは本能であり、愛ではない。
シンでさえ、今身体の下で使っているオメガに、感情が揺さぶられる瞬間がある。
特にその奥で放ち、オメガがしがみつく瞬間には。
だけど、それが「システム」だと理解して、シンはその感情を排除する。
それでも。
シンはそれなりに抱いてきたオメガ達に。
何かしらの執着を残してしまっている。
それは澱のようにシンの中で溜まる。
危険な匂いがする腐臭になる。
いつかこの問題を解決していかなけらばならない。
だがそれは。
まだいい。
シンは突き上げる度に呼応して、欲しがり搾り取るようなその孔と、細い脚を腰に絡めてくるオメガの必死さに喜悦を感じながら、それを危険と見なしていた。
執着しないように、多くのオメガを抱いてきたが、それは同時に何かしらの執着を多くのオメガに与えていることでもあるのだ。
これはいつか。
シン自身を危険にする。
シンはオメガの肩に歯をたてながら、その血を味わいながら思う。
「なんとかしなきゃな」 と。
だから、もうアキラのことなんて忘れていた。
アキラがそこで立っていたとしても。
「ミサキ、が。幸せ、に、なる、なら」
アキラは苦しげにまた言う。
その声に、ちらりとシンは振り返ったし、一瞬だけ考えた。
哀れなミサキ。
ミサキが憎むこの男だけが、ミサキをオメガとしてではなく「愛して」いるのかもしれないのにな、と。
だけどどうでも良いことだったので、またオメガの奥に吐精して、さらにもっと深く味わうために、また動き始めた。
そろそろ
オメガの使い方を考えなければならないかもな。
抱いたオメガのことは誰一人忘れてない。
それは執着だ。
そういったことも「処理」していかないと。
大切なのは、ただひとりなのだから。
シンは思った。
その傍らをアキラが力無く、歩き去る。
それはやはりどうでも良いことだった。
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