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第61話
ミサキは引き裂かれた心のまま叫んだ。
ミサキの悲鳴は心を引き裂くためにするどく尖っていた。
ズタズタに引き裂かれながら出す声だった。
好きだったのだ。
淡い夢を見た。
オメガとしてではなく、シンが愛してくれる夢。
それがかなうとも思って居なかったけれど。
アキラに犯された後、シンはそれでも心の支えだった。
少なくとも。
友達だと思ってた。
でもシンはアルファだった。
オメガを求めないだけで。
ベータの少年を愛してることだけが例外で、自分のこと以外はどうでもいい化け物で。
友達などアルファには要らない。
シン自身もそれを知っていた。
だから、目の前で傷ついて少年が泣いてることに、シンは喜びを隠さない。
少年を傷つけたことより、少年を手に入れたことこそが大切なだという歪みをシンはあっさりと受け入れている。
「キョウちゃん・・・そんなに泣いて・・・」
シンの声は喜びに満ちている。
ミサキは振り払われた腕をそれでもシンへと伸ばす。
「好きぃ」
叫んでしまう。
こんな悲鳴に意味はない。
シンには雑音でしかない。
そう、振り返ったシンの目は無機質だった。
シンにはやらなければならない事がある。
シンへの気持ちを自覚した少年を完全にその手の中に収めることだ。
もうミサキには興味がない。
意味がない。
いや、オメガへの欲望より、少年を手に入れる願望の方が強いだけだ。
少年を手に入れたなら、どこかのオメガ相手にその欲望を吐き出すだろう。
少年では満たせない欲を。
少年には綺麗な顔だけをみせながら。
シンがミサキの身体に手を触れた。
こんな酷い時なのにミサキの身体は触れられただけで反応して、またトロリと孔から滴らせた。
シンもこの身体の甘さは欲しいはずなのに。
でもシンは。
一番欲しいものは知っていて間違えない。
シンはミサキを片手で抱き上げた。
そのまま、ベットの下に落ちたミサキの服も拾い上げる。
ミサキは部屋の外に放り出されるのだと思った。
酷い。
こんなに身体に火をつけて。
ここまでされたなら、鎮静剤等を打たない限りおさまらないのに。
ヒートが来てないとはいえ、この身体のオメガをこのまま打ち捨てるのは酷すぎる。
どこかのアルファに迫られても、今のミサキには拒否が出来ないかもしれない。
アルファ達はそうするだろう。
何ならミサキが番になることを引き受けるまで性に未熟なミサキを責めて迫るだろう。
アルファはチャンスを見逃さない。
ミサキは絶望に泣いた。
でも、シンは幸せそうに笑っていた。
少年だけは呆然と何も分からないまま、でも、涙を流し続けていた。
「ミサキ。ごめんね」
シンは確かに言った。
それはあまり軽い謝罪だった。
そして。
シンはドアを開けた。
立っていたのは。
アキラだった。
ゆらゆらとした怒気が立ちのぼる中、悪鬼のような顔をしたアキラがそこに立っていた。
アキラの目は、あの時以来、ミサキの目をまともにとらえていた。
ミサキはその目に傷を見た。
誰よりもアキラが傷ついているように見えた。
そんなバカな。
ミサキ以上に傷つく人間がこの場合いるわけがないのに。
「ほら。最後まではしてない。番にもしてない」
シンは淡々と言った。
アキラがいることをわかっていたようだった。
そして。
荷物のようにミサキをアキラに渡した。
アキラは壊れモノのようにそっとミサキを抱きしめた。
「嫌!!!」
ミサキはシンに向かって叫んだ。
アキラの腕の中でもがきながら。
そう言えば全てがなかったことになる気がして。
でも。
「ごめんね」
シンの微笑みは明るかった。
シンはドアを閉めた。
一刻も早く泣いてる少年を完全に手中におさめるために。
ドアが閉まる音が、ミサキの中の何かをまたひとつ。
殺した。
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