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第62話

「嫌だ、嫌だ、いやぁ・・・シン・・・シン!!!」 ミサキは閉じたドアに向かって叫ぶ。 アキラの腕は暴れもがくミサキを絶対にはなさない。 「ミサキ・・・」 ひくい声で呼ばれて、ミサキの身体が波打った。 アルファの声。 しかも何度も何度もイカされながら名前を呼ばれた声を、身体は憶えていた。 アキラの声はその悲痛さと同時に、確かに欲望の匂いがして、それがミサキの耳から流し込まれて身体を濡らさせる。 アルファの寮の廊下には誰も人がいなかった。 アキラとシンが争う可能性を察したから、アルファたちはそこから遠ざかることにしたのだ。 アルファは他のアルファ同士の争い、戦いに関与しない習性がある。 アルファは。 ベータやオメガとも違う習性を持つ、独自の生きものなのだ。 アルファ同士の闘争にのみあけくれる。 例外はオメガだけだ。 アキラはシンと争うより腕の中のミサキを優先した。 「・・・ミサキ」 苦しげに抱きしめたまま、またその名前をその耳に囁く。 ひんっ ひうっ ミサキはまた身体を悶えさせた。 シンにされたことがひどくて。 とても傷付いていて。 でも、身体は焦らされつづけて、頭の中はそれで一杯だった。 大きいので貫かれてぐちゃぐちゃにされたい。 孔を埋めて欲しい。 その欲求だけで。 同時に壊れた心が、砕けた心が、何もかもを破壊したくてたまらない。 シンもアキラも。 あの少年も。 ミサキも。 この世界全て。 こわれてしまえばいい。 ミサキは泣き叫び、でも、目の前にあるアルファの肉体に本能的に縋り付いた。 熱い身体。 そこに自分のペニスを擦り付け、乳首を擦り付ける。 「・・・ミサキ・・・ユキ先生を・・・呼ぶから」 苦しげにアキラはそう言った。 でも、ミサキを抱きしめ、その髪に顔を埋めてしまう。 ミサキの匂いを。 確かめて。 「煩い!!オマエなんかキライ!!」 ミサキは泣いて叫んだ。 でも身体を擦り付けることをやめない。 ミサキのペニスも乳首もアキラの身体の熱を欲しがっている。 苦しげにその声に刺されたかのようにアキラは呻いたか、ミサキを離すことはしなかった。 壊されたい。 死にたい。 壊れたい。 屈辱と血を吹き出す心の穴がミサキを苦しめる。 嫌いな男に抱きしめられていることも、ミサキを追い詰めていく。 ミサキは自分を抱きしめるアキラの腕に噛み付いた。 オメガの歯でも跡をつけるくらいがせいぜいだと、さても。 「ミサキ・・・すまない。愛しているんだ」 噛まれながらそう言われて、ミサキはさらに激高した。 「ユキ先生のところに・・・鎮静剤で眠れば目がさめたら楽に・・・」 アキラは低い声で言う。 歯を食いしばり堪えている。 番のいないアルファがヒートを迎えてはいないとはいえ、ここまで性的に高ぶったオメガを目の前にして、何もしないのはありえないことだ。 ここまでされたオメガはアルファを拒むことはないからだ。 番になるならないとはまた別で。 オメガもアルファがオメガを欲しがるのと同じ位、アルファを欲しがる生きものなのだから。 ミサキを思いやるアキラの言葉はさらにミサキを怒らせた。 なら、どうして。 どうしてあの時。 何故オレを犯した。 何故!!! ミサキはアキラの頬を引っぱたいた。 音は高く響いたが、アキラを傷つけることはできないはずだった。 でもアキラは痛そうな顔をした。 アルファがオメガの攻撃で傷付くことなどないはずなのに。 その顔にさらにミサキは怒り、そして言った。 「アキラ、お前が何とかしろ!!」 そう叫んだのはミサキだった。 そう。 ミサキだった。 アキラがそれを断れることなどないと分かっていたのに。 アキラがその場でミサキを犯さなかっただけでも、アキラの理性は強かったといえる。 アキラは自分の部屋へとミサキを連れて行ったのだった

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