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第75話
ミサキはヒートを迎えてオメガであることを思い知らされた。
ユキ先生がシンとしていたこと。
それをミサキは責められない。
ミサキも大嫌いなアキラをヒートの間求め続けたからだ。
ヒートに入れば嫌いな男の身体が欲しくて欲しくてたまらなくなる。
あれを耐えることは出来ない。
それを痛感した。
オメガの身体はアルファを求めるように出来ている。
その事にゾッとした。
アルファとは遺伝子的にも異なるオメガが何故アルファの子供を孕めるのか、そもそもオメガとはアルファとは何なのかさえ、今の科学は解明できてないし、何よりそれはアルファによって禁じられている。
ユキ先生は。
番がいない。
だからこそ、アルファとセックスすることを仕事にしなければならない。
番のいないアルファの実質上のパートナーになることはユキ先生はできる。
番にはなれなくても、子供は産めなくても、パートナーにはなれる。
それで、ヒートも身体の飢えも満たされはするだろう。
が、一度アルファの番になったオメガが他のアルファのパートナーになることを選ぶことはとても少ない。
理由は様々だが、アルファという生き物の執着に夜昼問わずさらされて、それを愛と呼ぶか、支配と呼ぶかはともかく、絆なのか、共依存なのか分からない関係を、もう一度違う相手と結ぶのは、相当な覚悟が必要なのだ。
アルファは死ぬまで番を離さないし、ほとんどが死ぬ場合も番を連れていくし、オメガの方が寿命が短いため、番のいなくなったオメガというのは本当に少ないのだけれども。
だから先生が仕事で不特定多数のアルファとセックスすることを選ぶその理由はミサキは理解した。
そして。
たしかに。
ユキ先生が言う通り、
番はいる方がいないよりはマシなのだ。
あのヒートを一人で乗り切ることは出来ない。
ミサキはヒートを迎えたことで、しぶしぶアキラを受け入れることになった。
ヒートの時の道具だと。
そう思うことにして。
ヒートの時以外も抱かれることも受け入れた。
仕方なく。
アキラを憎みながらも。
アキラは決してミサキを欲しがることを諦めることはなかった。
夜になれば求められ、感じさせられ、最終的にはミサキもアキラを求めさせられた。
数ヶ月に一度のヒートの時はミサキが形振りかまわず、アキラを求めた。
唇へのキス以外は何でもしたし、された。
何故キスだけしないのか。
その意味は分かっていたけれど、ミサキにはどうでも良かった。
そんなのアキラの勝手な罪悪感のためでしかない。
身体はどんなに重ねても、ろくに会話などないまま、日々はすぎていく。
ミサキはそれでも、オメガではない人生を見つけようと必死だった
アキラの承認などいらない。
アキラなど関係ない。
アキラなど、勝手に自分の周りをウロウロしていて、夜になったら犯しにくる、そう、取り憑いた悪霊みたいなものだ
そう思うことにした。
ただの呪いだと。
ユキ先生はシンとの関係がバレたと分かっても何も言わなかったし、ミサキもなにも言わなかった。
ユキ先生を慕ったし、ユキ先生もミサキを可愛がった。
オメガというのは。
理不尽を生きるしかない、とミサキは学んだのだ。
ユキ先生の家にシンがいるとわかることは多くなり、そういう場面に出くわさないようにミサキはした。
ユキ先生以外のオメガのカウンセラーが学園に入ってきた。
身体中に死んだ番だったアルファの名前をデザインした刻印がタトゥーで刻まれたオメガで、この仕事に適していた。
アルファ達が執着しにくくなる、という意味で。
番のいないアルファ達は、そのカウンセラーで処理をした。
刻まれたアルファの名前を見ながらだと、【処理】だと冷静になれるので、アルファ達には都合が良かった。
ユキ先生の仕事は主にオメガ達の心のケアのみになっていた。
ユキ先生のアルファの処理用としての仕事はシンだけになっていることにミサキは気付かないフリをした。
学園にいながら実力者のアルファになっているシンがそうしているのだと分かっていても。
ユキ先生が。
シンの【オメガ】にされている。
そのことに、ミサキもユキ先生も気付かないふりをした。
18になり学園を出る。
ミサキはどう生きるかは決めていた。
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