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第76話
ミサキは大学には進まなかった。
学力的にも問題はなかったが、大学へ進めばまたアキラがついてくるのかとおもうと気が重かった。
絶対について来るのはわかっていた。
ベータが多くいる大学でただでさえ目立つオメガが、アルファを周りにウロウロさせてるのでは普通の大学生活はありえなかったからだ。
ミサキが選んだのは特殊作業員だった。
オメガはアルファに囲われて就職しない者も多いが、そんな風にミサキはなるつもりもなかった。
社会に出ることにした。
番付きのオメガに手をだすベータはいないが、それでも防犯カメラや、セキュリティがいるマンションに住む。
ここはオメガが1人で住むなら安全だった。
子供の頃に襲われたことのあるミサキには安全は絶対条件だった。
高校までの学歴しかないミサキがそういうマンションに住むためには、特殊作業という肉体労働で稼ぐ必要があったのだ。
オメガはアルファほどではないが、通常の人間以上の身体能力を持つ。
そして、その肉体の耐久力はアルファ以上。
ベータでは不可能な労働をオメガが請け負う、そういう仕事の需要はあった。
オメガ達ばかりの、社長もオメガであるその会社に就職した。
その傍ら、ミサキは物語を書き続け、それをネットに投稿していた。
アルファもオメガもいない世界の物語は沢山の人たちに読まれるものになっていたが、ミサキはこれをお金に変えるつもりではなかった。
ミサキは。
物語は物語であることを大切にしていたのだ。
自分にはない、アルファとかオメガとか、そういうもののない、人の繋がりがある世界の物語を創ることがミサキの心の均衡を保った。
オメガの仲間達と過酷な作業、深い海底での作業だったり、普通の人間では出来ない高所での作業だったりしたが、それらを作戦を立てて行うことも楽しかった。
警察等の依頼で行われる人命救助等もあった。
ここではミサキは人間の身体以上の能力を持つヒーローであり、アルファの欲望の対象ではなかった。
そうじゃないと耐えれない。
耐えられない。
卒業した後のことを何一つ教えなかったのに
最高のセキュリティのマンションに住んでいるのに。
アキラは毎晩。
厳重なセキュリティを難なくすりぬけ、
当たり前のようにミサキのベットに潜り込んでくるのだから。
そして身体に火をつけられて。
アキラを求めるようにされるのも。
何も変わらず。
ヒートが始まればアキラを求めて狂って、アキラに与えられて。
そんな日々を。
ミサキはそれでも、生きていた。
物語と。
仕事があった。
少なくとも。
数年が過ぎた。
そんな時、ミサキは街でシンをみかけたのだった。
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