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第81話
「ミサキ・・・」
シンのこんな顔を見れた人間が何人いるのか。
この社会で上位の支配者である、アルファの困りきった顔なんて。
途方にくれてオロオロしている、そう、まるで浮気がバレた最低男。
実際それと大して変わらないのだから、これこそシンの本当の姿だとも言える。
ミサキはおかしくてたまらなかった。
「シン・・・?」
シンの隣りでシンを見上げるベータの青年の無邪気さにも腹が立った。
この青年のためだけに何人ものオメガが犯されてきて、今もユキ先生がシンの処理を担っているのだ。
この青年をシンが壊さず抱くためだけに。
ベータでアルファが遊ぶのは良くある遊びだ。
性欲よりは支配欲のためにアルファはそうする。
オメガとするのとは違って楽しめないが、支配する喜びはあるらしい。
オメガの違ってベータはアルファに完全に屈服するからこその遊び。
アルファはオメガに嫌われたくないという本能があるからこそ、そしてオメガとする時はアルファはオメガを支配できるわけではないからこそ、ベータでなら残酷になれるという酷い遊びだ。
アルファの手管で心も身体も屈服させて、捨てる。
アルファが本当に欲しいのはオメガだからこそ。
暇つぶしのお楽しみだ。
捨てられたベータ達は手切れ金を渡されておしまい、だ。
女のベータより男を好むのも、アルファ達の質の悪さだ。
そちらの方が屈服させる楽しさがあるから、という。
捨てられて自殺するベータもいる。
身も心も支配欲されつくしてから捨てられるのだ。おもちゃのように。
だがシンはこの青年のためだけに、逆に沢山のオメガを処理用のオナホとして使って、今もユキ先生でそうしているのだ。
無条件に信頼した目でシンを見上げるベータの顔にムカつきが走る。
シンを愛してる?
そう。
へぇ。
ミサキの中でヘビがのたうち回る。
このベータを傷つけたいと。
ねぇ、君はどこまで分かってる?
ベータに聞こうと思った。
そして、ミサキを見て、青年の目に苦しさが生まれたのを確認する。
ああ、このベータは覚えている。
自分の目の前でミサキがイカされたことに。
ねぇ。
なんであんなことがあったのに、まだそんな奴といるわけ?
アルファとオメガでもないくせに。
逃げることができるベータのくせに。
シンも恋人があの日のことを思い出したのに気付いた。
シンにそんな顔が出来るのだというくらい必死な顔でベータの青年の肩を掴んでゆさぶる。
ベータの肩をそんなに掴んだなら内出血してしまうというのに。
「コイツとはあれから何も無いから!!本当に!!」
必死でシンは言い募る
まあその通りだが。
だけどそんなことを、ミサキの前で言うか、とミサキは呆れた。
シン、お前はオレに何をした?
そのくせ、心配してんのは自分の恋人が自分をどう思うかだけか?
それもこのオレの目の前で。
ミサキは怒りで唇を噛んだ。
血の味がするほど。
ゆるさない。
ゆるさない。
その気持ちはどんどん上がっていく。
シンはアルファのくせに。
支配者であるアルファのくせに、恋人の手を引いてほとんど走るようにして逃げ出した。
恋人は引きずられるようにミサキから引き離されていく。
引きずられながら、彼は何度もミサキを振り返っていた。
シンはこちらを見ようとしない。
ほんの少しでも。
怖いのか。
怖いんだね、シン。
そんなにも。
ミサキは確信した。
シンはミサキを恐れていた。
何よりも誰よりも。
ミサキは迷わなかった。
復讐しよう。
近くの水族館に二人が入るのを確認した。
シンへの復讐は簡単だった。
あのベータを使えばいい。
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