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ちょっと休憩 シンの学園補食時代1
最初に喰ったオメガは同級生だった。
アルファになってから飢えていた。
これがどうにもならないことはアルファだから知っていた。
何も知らないオメガと違い、全員が共通の記憶を持つアルファはアルファであることを受け入れるのは容易い。
身体が変異する数ヶ月を過ぎて、アルファになったアルファにはベータだった頃など前世のようなモノになる。
普通の少年だった身体は大人よりも大きな人間外のモノになり、自分のモノではなかったアルファ共通の知識や記憶が流れ込む。
同じ存在で居られるわけがない。
大抵のアルファはそれまでの家族とも疎遠になる。
どこか遠い世界だったように感じられて。
求めるのはオメガだけになる。
だけどシンは違った。
身体を変えられるあの苦しみの中、自我が焼き尽くされアルファに書き換えられていく時も。
シンは幼なじみ、いや、自分にはその人しか居なかった存在のことを思い続けた。
アルファになることがシンからその思いを奪えなかったのは、シンが自分の自我以上の存在としてその人を認識していたからだろう。
いなければならない。
もう一人の自分。
切り離せるものではなかった。
アルファがオメガで埋めるはずの穴はとっくに埋まっていた。
でも。
身体はそういうわけにはいかなかった。
思う人はオメガではなかったから。
アルファが本気で求めたなら、普通の人間は死んでしまうのだと、分かっていた。
でも抱きたかった。
快楽のためじゃない。
繋がりたいからだ。
だってその人は自分以上に大切だから。
そして、可愛がりたかった。
快楽でとかして、ドロドロにして、溶け合いたかった。
でも。
そうするにはあまりにも飢えていた。
アルファになってからずっと飢えていた。
このまま抱けば、殺してしまうのでは無いかと恐れた。
他のアルファが遊びでベータを抱くのとは違うのだ。
本気すぎるからこそ。
その身体を求めているからこそ。
殺すわけにだけはいかない。
飢えを抱えたまま、その人に手を出すわけにはいかなかった。
処理用のカウンセラーを紹介されたけれど、気がのらなかった。
その頃はまだ。
その人以外を抱くのが裏切りだと思えたし、他のアルファと「共用」というのもちょっと。
「お前そんな偉そうなこと言える立場だとおもってんの?」
セラピストには小馬鹿にされた。
顔半分が醜くく焼け爛れているオメガで、なるほど、これなら「処理」だと思えるな、とは思ったけれど、その頃はまだ。
アルファになったばかりだったから。
病院でアルファになったばかりの身体の調整をしていた頃だったから耐えられると思った。
「辛かったなら、抑制剤もあるよ。アルファの本能を抑える。寿命は縮むけど、これを使ってアルファとしての能力も封じて、ベータとして生きているアルファもいる」
カウンセラーは親切だった。
アルファのために存在するこの世界で、アルファにならないですむ方法を教えてくれる者はそんなにいない。
カウンセラーの仕事は変化したアルファをアルファとしてこの世界に送り出すことなのに。
だが断った。
寿命が縮む?
大切な人を置いて死ぬ気はない。
置いて死んでたまるものか。
抑制剤を使えば30歳で死ぬのだと。
そんなのダメだ。
置いていけない。
それに、アルファなら。
もう誰にも二人を引き裂いたりはなしたりされることはないし、何からも大切な人を守れる。
何も持たない子どもだったのに、自分を守ろうとしてくれた、幼なじみ。
遺棄された子供が二人。
あの心細さはシンがアルファなら二度とない。
アルファになってしまって戻れないなら、その人を守りきれる者でいたかった。
「耐えられなくなるよ。好きなら余計にね。アルファはそういうモノだから」
カウンセラーは言った。
心配していた。
シンではなく、相手のベータのことを。
シンが殺してしまうのではないかと。
だから自分を抱け、とカウンセラーは言った。
「飢えは満たしてその子に会うんだね。その子で飢えを満たさないように」
その言葉をシンは断った。
だって。
欲しいのは。
その人だけだったから。
それが甘い考えだと知るのはすぐだった。
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