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第83話
シンに気づかれないよう、水族館に入ってからは気配を消した。
アルファはオメガを侮りがちだが、オメガはアルファよりも優れた身体能力もある。
気配を消すとか、そういうところだ。
特にアルファ相手では。
アルファが常に敵として認識しているのは同じアルファなので、ヒートでもない限りオメガに対しては警戒が甘い。
逆にヒートのオメガはどんなに隠れてもアルファに見つけ出されてしまうが。
ミサキは素早く持ってる携帯端末から水族館のコンピュータにアクセスした。
違法だが捕まらない位の知識はある。
ミサキ達は肉体労働でありながら、現場で同時にコンピュータ等の操作を行うこともあるため、相当の知識を叩き込まれているのだ。
館内の設計図を手に入れて、頭に叩き込む。
シンにみつからない場所が必要だった。
こういう下準備も仕事で学んだ。
なんなら。
ミサキはあのベータとセックスするつもりだった。
それが可能なスペースを探す。
それを見つけた。
シンから見つからないようにそこまで誘導する行き方も。
準備は出来た
ミサキはシンとその恋人を見つけ出し、その後をつけて、チャンスを待った。
シンが恋人と離れたその瞬間を逃さなかった。
ミサキはシンの恋人の前に立つ。
平凡この上ないベータ。
大人しげで、穏やかな目をした、本当にどこにでもいそうな青年。
この青年のために、オメガ達が利用されたのだ、と思うと複雑だった。
今もユキ先生は、この青年のためにシンに喰われている。
目の前にまた現れたミサキに青年は驚いたように目を見張る。
その驚き方が、どうしようもなくムカついた。
どうして、シンに逃げられたくらいでオレが諦めると思った?
オレがシンにやられたことを見てたくせに。
何でオレがシンをゆるすと思った?
どこまでも人が良さそうな、そして、無邪気な様子が許せなかった。
「・・・・・・話できない?ちょっと」
ミサキは言った。
ああ、この青年を傷付けたい。
そうすれば。
そうすれば。
ミサキの苦しみや悔しさは、何でだか「報われる」ような気がしたのだ。
そんなの間違っている、と知っていたけれど。
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