87 / 122

第84話

「ついてきてくれる?シンに邪魔されたくない」 ミサキはシンの恋人であるベータに言った。 ベータは素直に頷いた。 その素直な感じにも腹が立った 本当に普通の青年で、オメガと違って男らしい骨格で、平均的なオメガより背も高い。 それはミサキがベータだったらならこうなっていただろうと思い描く、普通の青年の姿だった。 ミサキがベータだったなら普通の大学生になり、ベータの女の子と付き合い、平凡に生きられただろう。 夜が来る度にアルファに奥まで貫かれ、喘がされ、鳴かされ、中に出されて悦ぶ毎日なんか知らずに。 そう昨夜も何度も何度もアキラにそうされた。 なのに、このベータはわざわざ自分からアルファと繋がるのだ。 アルファに飼われて、アルファの性欲も満たせないくせに犯されて。 アルファに飼われているベータはいる。 ほとんどがその場限りの遊びがほとんどだけど、所有欲を満たせる遊びは面白いと考えるアルファが、番のオメガに内緒で特定のベータを飼ってたりはする。 番にバレた瞬間手放すが、セックスで拘束し、理性まで壊されたベータを作り出すのは一部のアルファにはタチの悪い楽しい遊びなのだ。 ベータだからこその遊び。 そんなアルファやベータの存在がオメガをさらに苦しめるので、ミサキもそういうことは知っている。 決して相入れることのないアルファ同士と違い、オメガ達は繋がっている。 連絡を取り合い支えあうことも多いのだ。 「浮気」がバレた番のアルファに、どんなに土下座されて謝られようと、もう理性が壊れたベータをアルファが放りだそうと、オメガの傷はいえない。 そんな番と離れることは出来ないのだし。 アルファは番のためならなんでもするし、番のオメガを傷つけたとわかったなら二度と【浮気】という遊びはやめるが、 そんなものオメガには何にもならない。 そして何があろうと、番とセックスすることになる。 オメガにはそれが必要だから。 アルファはベータを壊すまで抱いた身体で、オメガを抱いて愛を語るのだ。 逃げられない地獄。 アルファは何一つ気にもしない地獄。 何故アルファは番に執着するのか・・・ オメガだけにしか分からない地獄。 「こっちに来て」 ミサキはそう言いながらベータを誘導する。 ベータは無防備について来た。 分かってない。 オメガは必要ならベータなど簡単に殺せる身体能力を持つのに、見かけの華奢さや儚さに安心しきっている。 それにもまた腹が立つ。 見下されているようで。 ミサキが目指すのは1階の奥にある一見、それと分からない倉庫だ。 パッと見には壁にしか見えないドアがある。 そこでなら。 このベータを犯せると思った。 アルファに犯されて、馬鹿になっているのだろうこのベータに、オメガを教えてやろうと思った。 アルファが単なる獣に成り下がる程の、オメガの良さをこのベータは知ればいい。 アルファより良くしてやり、ミサキの中で出すことに溺れさせてやる。 そう、シンですらオメガの身体にはあがらえないのだから。 アルファに狂わされたベータが、次にオメガを知ったらどうなるか。 これはあまりにも例が少ない。 アルファに狂わされ、さらにオメガに喰われたベータは流石に聞いたことがない。 だが、本気でオメガがベータを相手にすれば、ベータがおかしくなるのは確かだ、ということは知ってる。 番を無くしたオメガがそういう仕事をしていることはあるからだ。 ベータから全ての財産を奪うオメガは存在している。 オメガと一度でもセックスしたら、ベータはその為になら全てを投げ打つのだ。 だから、世間で番のいないオメガへの偏見は強いのだ。 ベータ達はアルファにオメガを繋いでいて欲しいのだ。 その魅力に逆らえないからこそ。 ミサキはセックスでこの青年を壊すつもりだった。 狭い倉庫でこの青年がミサキに溺れて壊れるようにして、それをシンに見せつけてやろうと思った。 シンの恋人であるベータが、ヒート中のオメガみたいに、ミサキを欲しがるようにするのは、きっと楽しい。 ミサキはそう思った。 倉庫に連れ込み、後手でドアを閉めた。 このベータを食おう。 シンはミサキに食い尽くされたこの青年を泣きながら抱けばいい。 シンではなくミサキが欲しいと泣く青年を。 いくらシンが犯しても、壊れてミサキを欲しがるようにしてやる。 ああ。 やっと。 この胸の奥にいた腹の奥にいた何かが、外に出ることができる。 ミサキは微笑んだ。 青年には美しいだけの微笑みに見えただろう。

ともだちにシェアしよう!