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第90話

「キョウちゃん、キョウちゃん!!」 シンが駆け寄りながら叫ぶ。 そんなにも取り乱したシンをミサキは見たことがなかった。 怯え切った顔で必死で叫び、ミサキの前から奪うようにベータを抱きよせる。 そして、離さないというかのように抱えこみ、ミサキから隠すように大きな身体に閉じ込めてしまう。 ああ、本当に愛しているのだな、とミサキは思った。 乾いた感情で。 「キョウちゃんに何をした!!」 シンの声が震えていた。 恐怖だ。 ミサキが何を告げたのかシンはもうわかってる。 分かってて、でも聞かずにはいられないくらい怯えてて。 ああ、気持ちいい。 あのシンがこんなに怯えて、泣きそうだなんて。 ミサキの胸を引き裂いた時は、何も思わなかったくせに。 ミサキは微笑んだ。 思ったようにはいかなくても、復讐は甘かった。 だが。 目を虚ろに見開き、静かに泪を流していたベータの顔を思い出すと少し胸は痛んだ。 だが、このベータのためだけに、オメガ達はシンに喰われていたのだ。 彼らはオメガではあっても11才の子供でしかなかった。 アルファになった時点でもう完成されているシンとは何もが違った。 大人の判断力と知性を持つシンに利用されたのだ。 オメガにだけは愚直であるアルファたちと違い、シンにはオメガは単なる餌だったから。 このベータをくらい尽くさないためだけの。 このベータのためだけに、オメガ達は食われた。 なら、このベータもその責任を取るべきだ。 ミサキはそう思った。 このベータのためだけに、見せつけるようにイカされたあの日の屈辱も忘れてない。 わすれるものか。 そう思った、が。 「シンが嫌になったら、おいでオレが可愛がってあげる。アンタ可愛いし」 そうオメガに向けて言った言葉に、嘘は無かった。 シンに対する嫌がせではあっても。 シンに嘘をつかれながら暮らすくらいなら、ミサキに可愛いがられる方がいいだろう。 オメガをよそで散々抱きながら、愛してる他には誰もいないと言われ続けてきたのだろうから。 オメガを犯したぺニスを突っ込まれてイカされ続けてきたのだ。 ミサキならシンみたいな嘘はつかない。 それにシンよりもっと良くしてやれる。 シンが凄まじい目でこちらを睨みつけたが、恐くなかった。 アルファなど恐れてたまるものか。 その目に動揺と焦りが見えるのが面白すぎた。 いい気味だとしか思わない。 無音のまま、シンが抱きしめるベータが泣いてるのが気配だけで伝わる。 可哀想に。 ベータなのにアルファに捕まって。 アルファなんか。 アルファなんか。 本当に同情した。 でもミサキは知ってた。 シンから奪ってこのベータを可愛がってやったとしても、だ 「ミサキ!!」 深く低い声が響く。 ああ、ほら、やって来た。 シンより先に来るかもと思ってたのに。 飛び込んできたのはアキラだ。 どれだけ急いできたのかわかる。 いつもの完璧なスーツ姿ではなく、シャツも髪もぐちゃぐちゃだった。 そう、ミサキの番のアルファだ。 ミサキを他人に渡すはずがない。 ミサキがベータをシンから奪ったところで。 ミサキはこのアルファからは逃れられないのだ。 ミサキは死ぬまでこのアルファに犯され続ける。 「思ったより、早かったね、アキラ」 ミサキはつめたい声で言った。 ああ、せっかく楽しかった復讐に醒めてしまう・・・

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