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第91話

アキラは飛び込んで来たものの、混乱したように目を見開いた。 顔には感情が出にくいが、その目は感情を隠さない。 金色に光る目がアキラの動揺を示していた。 静かに泣いてるベータ。 そのベータを抱きしめながら怯えているのが誰も見たことがないほどに【怯えている】シンだというありえない光景。 2人の前で楽しげに微笑むミサキ。 アキラはその光景をどう理解すれば良いのか分からなかったのだろう。 「シンにオレがどこにいるのか教えたの?」 ミサキは不安げな色をしたアキラの金色の目にその事実を読み取る。 なるほど。 シンは敵対していて、絶対に手を借りたくないはずのアキラにさえ助けを求めたのだ。 アキラがミサキの居場所を把握していないはずがないからだ。 「・・・オレがどこで何をしてるかは、いつだって把握してるってこと?檻に入れてはいないけど、長い鎖で繋いでいるんだよね」 皮肉たっぷりにアキラにミサキは言う。 「俺は・・・」 何か言いかけてアキラがやめる。 正しい。 言い訳なんてクソがすることだからた。 アキラは最悪なアルファで絶対に許さないけれど、シンほどクソじゃない。 まあ、そんなの。 「拷問」が好きか?「処刑」が良いか? みたいなどちらも嫌でしかない中での選択でしかないけれど。 どうせ。 今夜も抱かれる。 アキラが納得するまで。 明日は仕事に行けないだろう。 そしてそれにミサキも狂ったように応えるだろう。 それが嫌だった。 でも、今のアキラは不用意にミサキに近付かないし、戸惑ったまま見つめるだけだ。 その金色の目で。 こんな時のアキラは出会った頃の、ミサキに嫌われたくなくて必死だった、嫌いではなかったアキラを思い出させる、から余計に腹が立つ。 そんな険悪な空気の中、 「キョウちゃん・・・キョウちゃん・・・」 不安でたまらないシンの声だけが響く。 シンもこの後このベータを抱いてイかせて誤魔化すだろうか? それなら面白い。 そんなことをすればベータは壊れてしまう。 このベータが完全に壊れてしまったなら、シンはどうなるのだろう。 ミサキは笑ってしまう。 なんて気持ちがいい。 なんて楽しい。 声を上げて笑うミサキをシンが凄まじい目で睨みつける。 だけどちっとも怖くない。 ミサキはもう何にも怖くない。 シンにできるのはミサキを殺すこと位だろうし、そんなことではこのベータとの間に出来た亀裂を直せはしないのだ。 ベータがシンから離れればいい。 身体がアルファか欲しくて疼くなら、ミサキがいくらでもオメガの方が良いことを教えてやれる。 騙されてまで、一緒にいる必要なんかないのだ。 シンのために、もう「抱かれる側」になる必要もない。 アルファ無しで生きられるなら、そうした方が良い。 ミサキには罪悪感は一ミリもなかったし、シンに対してはザマアミロとしか思えない。 アキラ? アキラはミサキを抱くが、ミサキはアキラのものじゃないし、ミサキがベータとセックスしたからといって、相手を傷つけることも許さない。 今までは、他とセックスしたいと思わなかっただけ。 アルファを欲しがる身体のために、ミサキもアキラを許容していただけ。 もう。 いいや。 何かがミサキの中で吹っ切れていた。 ミサキは笑ってた。 シンか睨みつける目も、ベータのすすり泣きも、アキラの困惑も。 面白いだけだった。 「ミサキ・・_ミサキ・・・」 アキラが恐る恐る手を伸ばしてくる。 その手を払いのけた。 「ミサキ・・・」 アキラがミサキの前で膝をつく。 ついたところで身体がデカすぎる。 それほどミサキの視線は下へはいない。 それでもミサキはアキラを見下す。 アキラはアルファとは思えない程に、懇願するようにミサキを見上げる。 まるで奴隷のように。 支配されてるのはミサキなのに。 居場所を把握され、毎夜組み敷かれているのに。 「ミサキ・・・お願いだ、帰ろう?ここから出よう?」 アキラが懇願する。 ミサキの手を握ろうとして、躊躇する。 毎晩押さえつけて、ぶち込んでくるくせに。 ミサキは苛立つ。 ああ、楽しい気分がなくなってきた。 アキラから顔を背けて、シンと目があいニッコリ笑う。 シンの形相はなぜ自分を今殺さないか不思議な位だったからだ。 「・・・ミサキ」 アキラの震える指をもう一度振り払わなかったのは、そのシンの顔に満足したからだ。 そのままアキラに腕を引かれて倉庫を出た。 シンのウソを壊したことに。 心が歓喜していた。 これでよかった。

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