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第97話

ミサキは複雑な心を抱えて家へと帰る。 明日からは仕事だ。 アキラはいつもの時間に現れるだろう。 激しく抱かれるが、それでもミサキの身体はいつものようにそれを受け入れるだろう。 アルファと同じように、オメガもアルファが欲しいのだ。 番とセックスを拒否して生きるオメガもいる、ということだが、彼らがどうやってそれに耐えているのかミサキにはわからない。 ミサキがアキラが現れる理由が、ミサキの為でもある事を本当は知ってる。 アルファが欲しくてたまらなくなる前に、アキラに喰われる方がミサキの心は耐えられるからだ。 番に嫌われるアルファは、オメガに欲しがられたくて、オメガを飢えさせたりもする。 もちろん自分は他所で違うオメガを抱きながらだ。 番のいるオメガに手を出すアルファがいないからこそ。 シンですらそれはしない。 これもアルファの本能だ。 だからこそ。 ヒート中はどんなオメガでもアルファを欲しがるが、そうではなく、理性がある中で欲しがられるために、 オメガを飢えさせるアルファもいる。 執着故に。 だがアキラはそうしては来なかった。 毎晩、アキラがミサキを貪ることは。 ミサキがアルファを貪ることでもあった。 「すまない、愛してるんだ」 繰り返されるアキラの言葉の苦さ。 ユキ先生を初めて恨んだ。 こんなの。 知りたくなかった。 でも。 でも。 何故ユキ先生がそれを伝えてきたのかも分かっていた。 アキラとミサキの関係は切ることが出来ないからだ。 生きている以上、お互いに。 喰らい合う以上、どこかで、どこかで、それに何らかの折り合いをつけなければならない。 ユキ先生はミサキが、アキラを憎み続けるならそれはそれでいいと思ってる。 でも、ミサキの中の言い訳や誤魔化しによって、ミサキ自身がミサキを壊してしまうことを恐れたのだ。 憎むにしても。 何らかのケリをつけろ、とユキ先生は言っている。 実際。 ミサキは物語を書いたり、読むことをやめている。 それはミサキが少し壊れてきていることを示していた。 アキラと自分の関係に何らかのケリを。 「そんなこと・・・」 ミサキは呟く。 もう家で。 ミサキは食事をとり、風呂に入り、そして。 ベッドの中でアキラを待つだろう。 そして、アキラが来たならのしかかるアキラに抵抗して、でも、犯され喜ぶだろう。 アルファでしか埋めてくれない飢えを満たすために。 ミサキは唇を噛んだ。 アキラに突き上げられることを考えたなら、ずくんと孔が疼いたからだ。 「憎んでもいい。許さなくてもいい。でも、ミサキが壊れてしまうのはダメだ」 ユキ先生の言葉は、ミサキのためだけのものだった。 小さな、棄ててしまった折り紙。 何故かそれをもう一度。 この手のひらにのせてみたいとミサキは思った。 そして。 初めて。 アキラが現れるのを待った

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