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第98話

アキラはどこに家があるのだろう。 気にしたことはなかった。 ここはミサキの家で、アキラの家ではない。 アキラは毎晩ミサキを抱いて、ミサキの身体を綺麗にし、シーツを変えて洗濯までするが、ミサキが目覚める時にはもういない。 ミサキの家にはアキラの身体は毎晩いるが、アキラの持ち物など1つもない。 朝ミサキが目覚めるとアキラの気配は何一つ残されていない。 だけど。 抱きしめられて寝ていた感覚だけは肌に残ってる。 アキラの家がどこなのか何も知らない。 アキラの家族についても。 アキラはミサキの家族については知ってるだろう。 ミサキはアキラを連れて実家に行っている。 「レイプされて番になった」なんて家族に言えなかったからだ。 番は解消できないのだし。 簡単に報告だけはした。 仲の良いふりはしていないけれど。 オメガになってから家族は遠い。 家族からも遠い。 それでも。 たまには電話する。 アルファも家族と疎遠になりがちだと言う。 アキラもそうなのだろうか。 アキラについて、ミサキは何も知らなかったことに気付く。 アキラはミサキについて知らないことなど無いだろうに。 ちゃんと憎んでいたなら。 本当に消し去るためになら、知るべきだったはずだ。 番を殺したオメガもいる。 アルファはオメガにだけは甘いからだ。 みすみす殺されるアルファはいないが、それでも。 殺すことに成功したオメガもいるのだ。 そこまでするべきだった。 憎むなら。 調べ尽くし、殺すべきだった。 ミサキは半端だった。 半端すぎる。 アキラの過去で動揺してしまうのだから。 ああ、どうすればいいんだろう。 ミサキは久しぶりに物語を書こうと、キーボードを叩こうとしてみたが、止めてしまった。 ミサキは今。 物語さえ書けない。 諦めて立ち上がろうとした時、部屋の暗がりにもうアキラがいた。 部屋の端に立っていた。 こんな巨大な身体が気配一つなく立っていることに、ミサキはもう驚かなくなっている。 しかし、いつからいたのか。 「書かないのか?」 そうとだけ言った。 ミサキが書き終わるまで、待ってるつもりだったらしい。 「いいんだ」 ミサキは言った。 アキラは無言で近寄ってくる。 先程まで気配すらなかったのに、今は圧が凄い。 抱かれるのだ、と分かる。 抱き上げて、ベッドに連れ込むつもりだ。 いつものミサキなら、走って逃げようとしたり、ものを投げつけたりしただろう。 アキラはミサキを簡単に捕まえて、のしかかり、ミサキに触れるだけでミサキの抵抗を奪っただろう。 だけど。 今日は違った。 ミサキは逃げなかったし、罵声も投げつけなかったし、何かを投げたり、殴ったりもしなかった。 ミサキは自分に近寄り、そして見下ろすアキラを見上げた アキラの金色の目が訝しげに揺れる。 ミサキがいつもとは違ったから。 「アキラ、話をしよう」 ミサキは言った。

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