101 / 122
第98話
アキラはどこに家があるのだろう。
気にしたことはなかった。
ここはミサキの家で、アキラの家ではない。
アキラは毎晩ミサキを抱いて、ミサキの身体を綺麗にし、シーツを変えて洗濯までするが、ミサキが目覚める時にはもういない。
ミサキの家にはアキラの身体は毎晩いるが、アキラの持ち物など1つもない。
朝ミサキが目覚めるとアキラの気配は何一つ残されていない。
だけど。
抱きしめられて寝ていた感覚だけは肌に残ってる。
アキラの家がどこなのか何も知らない。
アキラの家族についても。
アキラはミサキの家族については知ってるだろう。
ミサキはアキラを連れて実家に行っている。
「レイプされて番になった」なんて家族に言えなかったからだ。
番は解消できないのだし。
簡単に報告だけはした。
仲の良いふりはしていないけれど。
オメガになってから家族は遠い。
家族からも遠い。
それでも。
たまには電話する。
アルファも家族と疎遠になりがちだと言う。
アキラもそうなのだろうか。
アキラについて、ミサキは何も知らなかったことに気付く。
アキラはミサキについて知らないことなど無いだろうに。
ちゃんと憎んでいたなら。
本当に消し去るためになら、知るべきだったはずだ。
番を殺したオメガもいる。
アルファはオメガにだけは甘いからだ。
みすみす殺されるアルファはいないが、それでも。
殺すことに成功したオメガもいるのだ。
そこまでするべきだった。
憎むなら。
調べ尽くし、殺すべきだった。
ミサキは半端だった。
半端すぎる。
アキラの過去で動揺してしまうのだから。
ああ、どうすればいいんだろう。
ミサキは久しぶりに物語を書こうと、キーボードを叩こうとしてみたが、止めてしまった。
ミサキは今。
物語さえ書けない。
諦めて立ち上がろうとした時、部屋の暗がりにもうアキラがいた。
部屋の端に立っていた。
こんな巨大な身体が気配一つなく立っていることに、ミサキはもう驚かなくなっている。
しかし、いつからいたのか。
「書かないのか?」
そうとだけ言った。
ミサキが書き終わるまで、待ってるつもりだったらしい。
「いいんだ」
ミサキは言った。
アキラは無言で近寄ってくる。
先程まで気配すらなかったのに、今は圧が凄い。
抱かれるのだ、と分かる。
抱き上げて、ベッドに連れ込むつもりだ。
いつものミサキなら、走って逃げようとしたり、ものを投げつけたりしただろう。
アキラはミサキを簡単に捕まえて、のしかかり、ミサキに触れるだけでミサキの抵抗を奪っただろう。
だけど。
今日は違った。
ミサキは逃げなかったし、罵声も投げつけなかったし、何かを投げたり、殴ったりもしなかった。
ミサキは自分に近寄り、そして見下ろすアキラを見上げた
アキラの金色の目が訝しげに揺れる。
ミサキがいつもとは違ったから。
「アキラ、話をしよう」
ミサキは言った。
ともだちにシェアしよう!