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第103話
指定された駐車場の、教えられた色と車種、そしてナンバープレートの車を探す。
その車の中で、見つけたのはキスをしているシンとその恋人だった。
また呆れる。
シンのキスシーンなど飽きるほど見てきたが、キスなんかでこんなに夢中になってるシンというのも、珍しいが、ミサキにしてみればどうでも良いことだった。
キスだけじゃなく、シンは助手席の恋人のスボンに手を入れて、そこでイカせていたことも確かだったが、それもどうでも良かった。
「何?オレ帰っていい?」
思い切り嫌な顔をして、窓を叩いてシンに言った。
シンが邪魔するな、みたいな顔をしたけれど、呼び出したのはそっちなのだ
でも。
確かにおかしかった。
あの常識的なシンの恋人、アルファともオメガとも違う、生真面目そうなこのベータが、人にキスシーンや扱かれているところを見られていても平然としていたからだ。
ミサキを見ても、フワフワ笑っている。
確かに。
まともじゃない。
シンは心の中に逃げ込んで閉じこもってしまった、と表現していたが、そうなのかも、と思った。
心が半分しか無いような。
そんな感じだった。
可哀想に
この世界で、アルファから逃げるには、もうそこしかなかったのだろう。
心の中に閉じこもり、シンから逃げたのだ。
そこならアルファも入りようがないからだ。
可哀想に。
逃げられないのは同じだけに、ミサキは同情した。
「ピアス、外してきたんだね」
シンが後ろのドアのロックを運転席から操作して外して、後ろの席を指さす。
もちろんピアスは外してきた。
シンと会うと分かれば、アキラはめんどくさいし、何よりそういうのが分かる理由の1つがあのピアスだとわかったからだ。
あのピアスは。
ミサキがフラリと寄った店でたまたま気に入って、肌身離さず付けていた。
どうやってアキラが何かを仕込んだのかは全くわからないが、そうなら仕方ない。
トラックの荷台に捨ててきたから、今頃アキラは何故ミサキがそんな所へ向かっているのかわからなくて慌てているだろう。
ミサキはシンにため息をつきながら目をやった。
シンは平然と手についた恋人の精液をウエットティッシュで拭っていた。
それはシンが学園でオメガを犯してた頃みたいで、ミサキは眉を顰めた。
それでも、その車に言われるがまま乗り込んだのは、アルファはオメガに何かを無理強いできないし、やはり、シンの恋人が気になったからだ。
シンの好きなように扱えるお人形さんをシンに与えるために、ミサキはシンの嘘を暴露したわけではないのだ。
まともな人にはまともに生きて欲しい。
アルファと違ってオメガはベータがベータらしく生きることを素晴らしいことだと思っているのだ。
ベータとして生きられなかったからこそ。
「どこにいくんだ?」
ミサキはシンに尋ねた。
「オレの持ってるマンションの1つ。そこでキョウちゃんが自分から出てくるようにするのに協力してもらう」
シンの言葉にミサキは首を傾げる。
「どうやって?それになんでオレ?」
ミサキの言葉にシンは苦く笑った。
「向こうについてから説明するよ」
シンがそう言いながら恋人を見つめる目は、今まで見たこともないほど痛々しく、ミサキはそれを滑稽に感じた。
だが。
ミサキはもっと説明を求めるべきだったのだ。
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