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第107話
「ミサキ、お前がオレとセックスしたらアキラはどんなに苦しむかな?傷付けてやりたいと思わない?」
シンが耳元で囁いてくる甘さ。
アキラを許したことなどない。
許せるわけなどない。
だからこそ、その言葉は甘い。
「アキラを苦しめるなんて簡単。ミサキがオレとセックスしたらいい。アルファにはそれが一番利く」
シンの言葉は真実だった。
アルファの番を奪うこと。
これ以上にアルファを苦しめることはないはずだ。
アキラ。
アキラ。
どうしても許せないアキラ。
毎夜肌を合わせて貪り合うのに、心の奥に刺さった氷のような杭があって、どんなに快楽に溺れていても、その存在を忘れることができない。
死ぬまで続く絆のために、関係性を変えた方が良いのが現実的だと、思っていても。
アキラの過去を知っても。
アキラが言い訳しないことを知ってても。
それでもミサキは許すことができない。
ミサキはシンの恋人とは違うのだ。
アルファやベータになる前から、逃げられない程に依存し合っていた、幼なじみの間柄ではない。
アルファ、オメガだからこその絆なのだから。
だからこそ、生きていくためにこの関係性を変える必要があるとわかっていても、どうしてもミサキにはできない。
できないのだ。
「傷つけられたんだ。傷付けてやれよ。ミサキ、お前に手を出せるアルファなんか、オレしかいないぞ」
シンの言葉は真実だった。
アルファは他の番に手を出すことはない。
だが稀に、番のいないアルファが、他のアルファの番のオメガに横恋慕して奪おうとすることは少い例だがあるにはある。
だがその前に、邪魔モノの番のアルファをまず消し去る。
その場合、消し去られる前にアルファはオメガを奪われる前に殺してしまうので、成功例は少ないし、成功しても、そんなヤバイアルファと共に暮らしたいと思うオメガはいない。
それに。
オメガは生涯1人しか番をつくることはできないのだ。
アルファはオメガを番にしたいと望む本能がある。
だが、それをそのオメガでは叶えることが出来ないのだ。
ほとんどない例でしかない。
シンはあらゆる点でイカれたアルファだが、そのシンだって、今、他のアルファの番に手を出す理由は、自分の中に引きこもってしまったベータの恋人を引きずり出すための苦肉の策で、倫理のないシンだって、こんな真似は本来なら絶対しないことなのだ。
シンが、色んなオメガを抱いていた時も、番のいないオメガを選んで抱いてきたのだから。
しかもミサキの番は、上位アルファのアキラなのだ。
普通のアルファ達が挑むには厳しすぎる相手だ。
ミサキに手を出せば確実に殺される。
実力が近いシンだけは、そう簡単にはいかないだろうけれど。
シンですら、そんなトラブルは不必要に持ち込みたくはなかっただろう。
シンは恋人との毎日を守りたいだけだからだ。
だが。
だが。
シンも切羽詰まっているのだ。
恋人を取り戻すためになら、ミサキを目の前で抱いて、その結果起こる、アキラとの衝突すら引き受けるつもりなのだ。
シンくらい、だ
ミサキを抱こうとするアルファなど、ミサキに執着するアキラの存在を知りながら、それでもミサキを抱こうとするのは。
シンだけだ。
ミサキはわかってた。
この先、アキラから解放しようとしてくれる存在は現れない、ということ。
誰からもアキラは恐ろしいからだ。
だが。
シンはアキラの存在を知ってて、それでもミサキを抱こうというのだ。
それはミサキの解放のためではなかった。
なかったが。
でも。
ミサキにチャンスを与えてくれることは確かだった。
「アキラはお前がオレにだかれたなら、どんなに苦しむかな?」
シンの笑いは下卑てはいた。
だが。
だが。
それは確かに。
それだけが確かに。
アキラを一番苦しめることだとミサキも納得していた。
「閉じ込められて、大人しく諦めて受け入れる、そんなのミサキらしくないだろ?」
シンの言葉は。
その通りだった。
そんなの。
ミサキらしくなかった。
「オレを食ってみろよ、ミサキ。美味いぞ。今までの復讐の味がする」
シンの綺麗な顔は目の前で。
その吐息は確かに甘かった。
ミサキにもできる、いや、ミサキでしか出来ない復讐。
その味を知りたい。
ミサキはそう思ってしまった
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