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第7話 背中を押してくれる友達

「なぁ、弘そんなに拗ねんなって悪かったよ」  口では誤ってはいるものの歩の表情や態度は飄々としたもので大して悪びれていないのは見るからに明らかだ。結局あの後もしばらくの間俺は歩に頬を引っ張られれ続けていた  当然やめろと何度も言ったが俺のその行動に対して 「こういうのって何を言ってるのか全くわからないか、何となく分かるタイプの2パターンがあるけど弘は分からないタイプだったな」  と呑気に笑ながら頬を引っ張り続ける歩にそろそろ本気で切れようかとも思った俺の心情を察したのか 「俺に心配をかけさせて、しかもその理由がやらかしだってんだから俺が満足するまで付き合えよ」  と言われてしまえば抵抗は出来なくなる。歩の言うように心配をかけさせてしまった罪悪感や申し訳なさで俺は強く出れない。それに軽い調子で笑顔のままで喋っているけど目だけは真剣なものなんだ  それでも遊ばれてるこの状況は面白くない訳でもう何も考えないようにしてたら不意に歩が 「あっ!」  と声を出し、スマホ取り出して冗談だと思ってた写真を撮るって言うのわ本当にやりかけやがったんだ!まぁ、当然直前で止めたんだけど  そしてさすがに我慢の限界なので歩の手から逃げて睨みつけた俺に流石にやりすぎたと思ったのか歩が俺に謝ってるところだ。まぁ、本心なのか怪しいけどな!それと一つだけど言わせてもらいたい 「拗ねてねぇし、怒ってるだけだっつうの」  長い時間引っ張られていて遊ばれたり、頬が筋肉痛気味に痛かったりはしたけど全然拗ねてなんかはない 「いや、それを拗ねてるって言うんだぞ」  苦笑いをしながら言う歩。その態度に俺はまたも腹が立ってくる 「うっせえ。ってからしょうがないなぁみたいに言ってるけど全面的にお前が悪いだろ!」  まるで駄々をこねるわがままな子供を見るような目を向けてるけどお前が人で遊んでるからだろうが! 「そんなすね……じゃなくて怒んなって。マジで撮ろうとはしてねぇからさ。お前の面白い反応が見たくて撮る振りを振りだけなんだって」  それはそれでどうかと思うけどな。てかこいつ俺で遊びすぎだろ。それに 「本当か?もし俺が止めなかったらお前実は写真を撮ってたんじゃないか?」 「…………そんな事はないと思うぞ。多分」 「おい、お前今秋人らかにまがあっただろ!」  少しだけ真面目な顔を作ってるけど誤魔化されねぇぞ。このタイミングでそんな顔しても逆に怪しいんだよ! 「はっはっは!さて何のことやら」 「そのらしくない笑い方してる時点で絶対にやるつもりだったな!」  こいつやっぱり全然悪いと思ってねぇな。こいつ本当にどう仕返ししてやろうかな。やられっぱなしってのは面白くねぇ  俺が歩の態度にどうしてやろうかと考え始めるがそれはすぐに中断される 「冗談だ。やりすぎた。マジで悪かった」  意外な事に少しだけど今度は本当に言葉通り申し訳なさそうにしてる。珍しい光景だな。こいつがここまで言うなんて  急変化した歩に俺はさっきまでの気持ちはどこかに行ってしまって調子が狂ってしまった。あっでも 「そうだ。ちゃんと反省しろ」  これだけは言わせてもらった。毎度さっきみたいに弄られまくるのはさすがに疲れるし、悔しい。まぁ、やられたら俺もやり返してやるけどこう言うのは歩の方が大体上手くやるからちょっと苦労するんだよな 「へいへい。あっでもやっぱり俺あんまり悪くねぇと思うんだよな~」 「はぁ?」  こいつは何を言ってるんだ?さっき自分で悪かたって言ってたのに速攻で逆の事言ってんぞ。早すぎる掌返しだなおい。てかニヤニヤすんな 「いやだって、お前を弄るのって面白いしな」 「ざっけんなよ!?この腹黒眼鏡!このバカ!アホ!えーっとアホ!」 「ぷっ、あっはは!」  俺の言葉を聞いた歩は何故かいきなり吹き出して笑い出した。何でこいつは悪口を言われて笑い出したんだ? 「なんでお前は今のやりとりで笑い出したんだ?」  俺は思った事をそのまま口に出していた………えっ、まさかこいつそういうのが好きなのか?と考えたら 「おい、こらなんか変な勘違いしてるみたいだけど多分違うからな」  と言われてしまった。どうやら分かりやすく顔に出ていたらしい 「俺が笑ったのはお前の反応だ。直ぐにムキになって怒り出したりしたとこだ。あと相変わらずボキャブラリーしょぼいよな弘」 「うるせぇ。なんでどいつもボキャブラリーについて触れんだよ」 「そんな怒んなって。お前のそういうところが可愛くて仕方ねぇんだよ」  こんの野郎性懲りもなくまだ俺の事を弄るのかよ。弄るにしてももっとまともなのにしろ! 「お前なぁ。これ以上揶揄うのはやめろ」 「えぇー、揶揄ってねぇんだけどな。それに俺がこういう奴だって知ってるのはお前だけだし、お前のこういう面を知ってるのは俺だけだろ。だから何つうか優越感?って言うのかまぁ、嬉しいんだよ」  何の恥ずかしげも無く、なんて事のない事を言うかのよう喋る歩に俺は途轍もなくむず痒くなる感覚を覚える 「あっ顔が赤くなった」 「ちょっ、お前本っ当に黙れ!」 「あのなぁ、こういうのは恥ずかしいって思うから恥ずいんだよ。別に変な事じゃねぇだろ。恥ずかしがってるのを指摘されるよりは素直になった方がまだ羞恥心はないだろ。」 「えぇ、そう言うもんか?」  俺は分かりやすく怪訝な反応をするがそれに対して歩は特に気にした様子はなく肩を竦める 「そんなもんだ。それに気持ちを伝えるのは大事な事だろ。日本は察する文化だけどな。誰でも彼でもそれができる訳じゃないし、それが原因ですれ違う奴とか沢山いるだろ。特に恋人とか夫婦間ならな」 「そりゃそうかもだけど」  それでもやっぱり素直になるってのは今まで中々してこなかったから中々抵抗感が抜けないと思うんだよな 「まぁ、今は別にいいだろ」 「………てか何でこんな話題になったんだ?あと逸れる前は何の話をしてたんだっけ」  なんかこいつに弄られまくってた気がするんだよな。俺は元の会話を思いだそうとしたが 「あっ」  何かを思い出したかのような歩の声に遮られた 「どうしたんだよ。急に声を出して」  言ってから思った。あっ、失敗した。聞かなきゃ良かったと。何故ならまたあのムカつつくニヤケづらをし出していたからだ 「いやな、さっきの続きなんだけどな。ほらよく言うだろ好きな奴は虐めたくなるってな。だから俺はついついお前を弄っちまうんだよ」 「嘘つけ!」 「ひでぇな」  何がひでぇだ。どう考えてもそんな訳ねぇだろ。顔が緩んでるし絶対に面白がって俺で遊んでるだけだろ。てか 「もう何なんだよ!お前まだ弄りたりねぇのかよ!?マジで今日どうしたんだよ。いつもこんな長くねぇだろ!もう本当なんだよ!」 「まぁまぁ、落ち着けってとりあえず余計な話はここまでにするとして」 「主な原因はほぼお前だけどな!」  何さらっと自分は関係ないみたいに言ってるんだ。てか寧ろお前が嬉々として話を逸らしていったんだろうが 「まぁ、それは置いといて。悠真のことどうするんだ?」  歩の顔はさっきまでのふざけたものと違って真剣かものになっていた 「どうするってのは?」  歩の言葉に俺はそれしか返せなかった。実際何を聞かれてるのかわからなかった 「あいつと付き合うのかどうすんのかって話だ。試しに付き合ってみようって言われたんだろ?」 「あ、あぁそういうことか」  そういえばそうだったな。自分の事でいっぱいいっぱいで完全に頭から抜けていた 「はぁ、お前なぁ。いつまでも避ける訳にはいかねぇだろ。お前自身の為にもな。それに俺ら高校も同じだろうが」 「っ!?」  歩の言葉に俺は思考が止まってしまった 「おい、待てお前まさか?」  歩は俺の反応から察したのか呆れた表情になっている。やばいなんか気まずいな。いやまぁ、自分でもさすがにどうかと思うけど。そんなあからさまに顔に出さなくてもよくね? 「正直俺としては、ノンケのあいつと付き合うのはやめとけって言いてえ」  その言葉は本心なんだろう。その証拠に見るからに嫌そうな表情を歩は浮かべてる。さっき俺が告白をしたのを報告した時に見た苦虫を噛み潰したみたいな顔をしてるから間違いない 「俺らと違ってあいつはノンケだろ。それで別に嫌悪感とかは向けられなかったし、拒否はされなかった。そんでお試しで付き合ってみるかって提案されたんだよな」 「あぁそうだな」  確認するように聞いてきたので俺はそのまま頷く。そうすると何故かどこか諦めたような表情をしている 「お前もどうせ分かってんだろうがあいつは彼女欲しいとか言ってた奴だ。もしかしたら潜在的なバイって可能性はある。けどそんなん期待しない方がいい。それで試しに付き合った結果やっぱりダメでしたっていうオチにならねえかが俺はきにかかる」  何故か自分の事じゃく俺の事を言っているのに歩は苦しそうな何かに耐えるような顔をしている 「俺はそれでお前が傷つかないかが不安だ。お前は俺と同じでノリでなんとなく付き合いたいってわけじゃないだろ。だから付き合ってみて結局最後にはやっぱりダメでしたって言われてお前が傷つかないかが心配だ」 「歩」  そんなに俺の事を心配してくれたのか。それであんな表情をしてたのか。本人が嫌がるから言えねぇけどやっぱりお前は優しい良い奴だよ。自分の事でもないのにこんなに心配してくれるんだからな  悠真とどうするかなんて考えてはなかった。だから正直めちゃくちゃ戸惑ってるし、どうするのが正解なのかなんてわかんねぇ  それに確かに悠真の言う通りの結果になるかもしんねぇ。けど、それでも俺はさっき歩の言われた通りに、自分が後悔しないようにするなら 「歩。俺はー」 「はぁーーー」  俺が自分の気持ちを伝える為に口を開こうとすると歩は盛大にため息を吐いて俺は驚いて固まってしまう。そんな俺に気づかなかったのかそれとも気にしてないのかは分からないが歩は俺の方を向き口を開く 「どうせお前の事だから結果的にダメになるとしても悠真が良いっていうんなら付き合いたいって言うんだろ」  その声はとても優しげだった。そして俺が言おうとした内容を当てていた。驚く俺とは対象的に歩の表情は穏やかで諦めの色が浮かんでいた 「まぁ、良いんじゃねえの。やらなかった後悔を延々と引きずるよりはまだ納得行くだろうしな」 「あ、あぁ」  俺は自分の考えを言い当てられた事と歩の反応でそれしか返す事が出来なかった 「今度は茶化したりすんなよ」 「わかってるっつうの」

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