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第12話 これだから目立つのは嫌なんだよ
「お願いお願い!」
授業が終わった放課後。帰りの支度をしていた俺に響が手を合わせて頭を下げて拝むような体制でそう言ってきた
マジでこれ以上目立つようなことするな。ってかそもそも
「主語を言え!主語を!」
「お願い、お願い、お願いします」
「だぁーもう、わぁったよ!話を聞いてやるからさっさと言え」
「え、マジ。よっしゃ」
俺が話を聞くと言った途端さっきまでの必死な様子から一転していつもの軽い感じに戻った。切り替えが早すぎて一瞬狙ってやったのかと疑った
だが少なくとも今目の前のコイツの顔は純粋に喜んでるように俺には見える
早変わりというか、調子がいいというか。話を聞くって言ったの失敗だったか?
「今日この後って時間ある?」
「あぁ、別特に予定はねぇけど何のようだよ」
「じゃあさ、後で俺のバイト先に来てくれよ」
「え、嫌だ。お前なんか碌なことしなさそうだしな。それに今日はもう疲れたし、これ以上は疲れたくねぇ」
今日だけで何度か余計な事を口走りそうだったし、それに加えてこいつの相手と周りの注目を集めたりして面倒だったんだ。もう疲れたから今日はこれ以上こいつの相手したくない
「え、いやそんな事言わないでくれよ」
即答した俺にあからさまに狼狽した様子を見せる。………実は困ってる様子を見れば少しはスカッとするのかと思っていた。正直なところただただ、どうでもいいとしか思えない
………言ってから気づいたが響を困らせたいから断ったみたいになってるが別にそう言った意図は俺には無い。響に伝えた理由はまごうことなき俺の本心だ。今日はもう帰って寝っ転がりてぇ
「なぁ、話は聞いたからもうこれでいいよな。それじゃ、さようなら」
そう言って俺が早々に帰宅しようと荷物を持って歩き出す。だがそれは叶わなかった
「おわっと!?」
俺が足を踏み出そうとしたら後ろから何かに引っ付かれてバランスを崩しそうだったがなんとか踏ん張った。そして原因が何なのかと後ろを見ると
「ってお前何してんだ!?」
「た~の~むよ~」
俺の腰に響が引っ付いていた。いやマジで何してんだコイツ?
「とりあえず離れろ」
「え~。やだ」
「やだじゃねぇんだよ!いいからとっととは~なせ~」
その隙にとっとと退散させてもらうけどな
「だって離したらすぐ逃げるだろ~」
「………そんな事はない」
何故バレた?確かにそのつもりではあったけどそんな分かりやすく顔に出ていたのか?いや、多分コイツは変な鋭さがあるからだろうな
俺は気づかなかったけど透に教えてもらってから気づいたんだよな。こいつのズレてるところと同じでコイツが鋭い事は気づきづらい
「いや今明らかに間があったよな?」
「…っち」
「いや、舌打ちって酷くね?てかそもそもやっぱり逃げるつもりだったんだろう。なぁ、頼むよ~サービスするからさ~」
「分かった!分かったからちゃんとこの後お前のバイト先に行くからとっとと離れろ!」
周りの視線が気になったのとこいつのしつこさから俺は折れた。決してサービスに釣られてた訳ではない。と思う
「よっしゃ言質とった!それじゃあ俺は先に行って準備してくるからゆっくりしてて大丈夫だからな。また後でな。」
そう言って響は上機嫌な顔で教室を去っていく。そして教室には周りのクラスメイトから注目されたまま放置された俺
やばい。クラスメイトからの視線が痛い。特に女子達の視線が恐いんだが。響は女子人気が高くこのクラスどころか学校内にも結構な人数狙ってるらしい
けど毎回毎回付き合っても別れてばかりなんだよな。まぁ、それでも人気は衰えないけどな
でもってそんなんなら普通は男子からは嫌われたりしかねないが響の場合はその人懐っこさから男子とも仲が良くてそんな事にはなってないんだよ
………あぁー透が言ってたのはそういうことか。いや、今はそんな事を考えて現実逃避をしてる暇は無さそうだな
とりあえず現状把握をしよう。周りを見回すと今俺は女子に囲まれてる。別に俺がモテてる訳じゃない。普通なら嬉しい状況かもな
けど俺興味ないしな。いやそもそも男はプライドが高い奴が多いから寧ろ嫌がるのか?まぁ、どうでもいいか。まずは
「ねぇねぇ灰谷君って響君と仲がいいんだね?」
「い、いや別にそんな事はないと思うぞ」
この状況をどう切り抜けるかが先決だな。とりあえずは否定はしたけど
「そんな事あるでしょう」
「だって今日一日ずっと2人で戯れ合ってだじゃん」
こうなると嫌だからあんまり関わりたくなかったのに
「それに響君のバイト先を知ってるんでしょ?」
しかもあいつ去り際に爆弾置いて行きやがった。あいつのバイト先に行くのばっくれてやろうか。……でも約束しちまったしな。クソが
「いや、偶々知っただけだ」
「でもバイト先知ってるんだよね?」
「あ、まぁそうだな」
「しかも仲がいいしさ」
こう言う時の女子の結束力ってやばいんだよな。どうやって切り抜けるか。
「ねぇ、灰谷君お願いがあるんだけど」
「えっとなんだ?」
何を言われるかは何となく想像がつく。けど俺は現実逃避をしたくてわからないふりをした
「響君のバイト先教えくれない?」
現実逃避をしていてもやっぱり結果が変わる訳ないよな。そんな風に俺が考えてるとある一言で女子達の結束に亀裂が走る
「というか紹介してよ?」
その言葉が出た瞬間は僕の女子達が殺気立つ。おいおい怖えな
「ちょっと抜け駆けしないでよ!」
「こう言うのは早いもの勝ちでしょ!」
なんだか自体が変わってきた。さっきまでは協力し合うって感じの雰囲気だったのにたった一言で場の空気は反転して、お互い睨み合い威嚇し合う女子達。女って面倒だな
俺は女子の会話を聞きながら秋人と春人に視線を送っていた
(助けてくれ!)
2人は俺の視線に気づいたみたいだが反応は芳しくなかった
秋人の方は俺の視線に気づいて首をブンブンと横に振っていた。うんまぁ、秋人の性格を考えたら無茶言ったな。すまない
対して春樹の方は俺の視線を受けてから女子達を見てまた俺を見て気まずそうな顔になり俺に向かって手を合わせて申し訳なさそうな顔をしていた。いやお前ならまだ何とか頑張ってくれよ
まずいな。救援は望めそうにない。後は助けを求める相手としては透しかいねぇ。けど、あいつの性格からして絶対無理だな。確実に今の状況を楽しんでるだろうな。
………ダメだ積んでるわ
俺が絶望的な状況に悲嘆していると救世主が現れた
「おーい駆。先生が呼んでるぞ」
旭が俺に声をかけてきた。お前が神か!
「えっ、あぁ分かった。そういう訳で俺いくな」
「えぇ、ちょっと待ってよ。もう少しはなーーー」
俺は女子が喋り終わる前に俺は女子達の間をすり抜けて旭の元に行って話を聞きに行く
「教えてくれてありがとうな。それで誰が呼んでるんだ?」
「あぁ、あれ嘘だから大丈夫だぞ」
え?ってことはもしかしてこいつ俺の事助けてくれたのか
「困ってたみたいだからな。余計なお世話だったか?」
「いや、そんな事はない助かった。ありがとう」
俺は素直に感謝を伝える。俺の反応に旭満足そうな笑みを浮かべる。そして思い出したような顔をする
「気にするな。困った時はお互い様だろ。それに図書室で言っただろ。頼れよって」
確かにそんな事を言ってたがまさかこんな直ぐに頼る事になるのは予想してなかったな。それに
「あれは悩みの相談をするって話じゃなかったのか?」
少しだけ茶化した俺に旭は肩を竦めてなんて事のないように言う
「さて。そうだったか?すまないなよく覚えないんだ。でもまぁ、別に問題はないさ。相談をするのと指して変わらない事だ」
「えぇ、さっきあった事を直ぐに忘れたりするなら別の意味で問題があるんじゃないか?」
引き続きの俺の茶化しに対しても旭は特に何ともない態度だ
「問題ないだろう。ボケや記憶力の低下は日々のトレーニングである程度は改善できるものだからな」
「ぷっ、あっははは!あっははは!まさか、そんなマジレスすんのかよ。あははっ。やべ腹痛い」
さらりとマジなのか冗談なのか分からない返しをされてしまい、俺は久しぶりに大笑いしてしまった。笑って腹が痛くなるなんていつ以来だ。天然な旭の性格からして本気で言っててもおかしくないし。どっちなんだろうな
笑いまくったおかげなのかいい具合に肩の力が抜けた気がする。昨日からついさっきまで響に心情を引っ掻き回されていていたからか変に気を張っていたんだな
「はぁー。笑った笑った。マジでこんなに笑ったのは久しぶりだ」
「そこまでおかしな事をいったか?」
ボケた旭本人は笑い疲れた俺に不思議そうに首を傾げながら聞いてくる。その様子を見てさっきのマジレスは本気だった事が分かり更におかしくなった笑いそうになったが堪える事にした。さすがは天然だ
これ以上笑うと腹だけじゃなくて喉まで痛くなりそうだし、響のバイト先に行くまで余計に疲れ過ぎるからだ
「ふっ、ふふ。まぁ、気にするな」
「いや、笑いを堪えきれていないぞ。それに俺は別に笑ってもらっても構わないんだが」
笑いが漏れてるのは自覚はしてるがそれを他人に指摘されると更に笑いそうになるから勘弁してくれ
「ふっふふ。いや、さすがにこれ以上笑うと疲れるから我慢するさ」
そう言って俺は深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたがまだ余韻が残っており、笑いそうになるが気合いで耐える
「まぁ、別にお前がそうしたいなら止めないが」
「はぁ。今回助けてくれた事といいありがとうな旭。少し申し訳ないが甘えさせてもらう。頼りにしてるぞ旭」
俺は旭へと元の話題へと戻して感謝と信頼を口にする
「そう言えばそんな話をしていたな。あぁ、俺はいつでも力に」
「俺が笑いまくったせいだな。なんか悪い」
「別に謝られる程の事でもないさ。それに俺は別に大した事。した訳じゃないから本当に気にしないでいい。それに友達を頼りにするのは当たり前だろ」
そう恥ずかしげもなく言う旭の顔はまるで物語の主人公のようだった。漫画だったら絶対にキラキラとしたエフェクトがついている奴だ
俺は本当になんで響と付き合うことにしたんだろうな。お試しとは言え自分でも不思議だ。正直なところ響は俺の好みとはかけ離れるている
俺の好みというと今目の前にいる。旭みたいなタイプだ。まぁ、さすがに銀髪は考えてなかったが、それを含めてもやっぱり俺は旭みたいなタイプに惹かれるはずなんだがな。我ながら不可解な事だ
「俺にとってはマジでありがたかったんだよ。透は頼りになりそうになかったからな」
俺の言葉に旭は笑顔で返しそうだったが、何かを思い出したような表情となり直ぐに苦笑いへと変化した
「まぁ、助けになったならよかったさ。それと透に関しては仕方ないだろ。あの場に居なかったんだし」
「……は?」
透が教室にいない?今日一日中話しかけないだけでも不審だってのにあの場にもういない?あいつの性格からしてさっきの俺が女子に囲まれてるところを眺めたりするだろうに
一体今日のあいつはどうしたんだ?
「だから透の事はあまり攻めてやらないでくれないか?あいつは駆の事を大事な友達だと思っているからな」
「………そうだといいんだけどな」
俺は旭の考えに頷けなかった。他の奴よりは近しい間柄だとは思っているし、俺自身あいつを友達だと思っている。だけどあいつが俺と同じように考えているとは思えない
いや、分からないって言うのが正直なところだ。あいつは俺だけじゃなくて他の奴を見透かすし、何より自分の本心をそうそう掴ませない。というよりも掴めないって感じか
そんな俺の心情を知らずに旭は快活な笑顔を浮かべて俺を励ます
「そうさ今回は無理だっだけど透は本当に駆と響の事を心配してたからな。透にしては珍しくずっと難しい顔をしていたくらいなんだからな」
「えっ?それ本当か?」
俺は驚いて気づいたときには聞き返していた。今日は面倒くさい事になりそうなので顔を合わせないようにしてたのと響の対応で透の顔を見てなかった
だから透がどんな反応をしていたのかは見ていなかったし透がそんな反応をするとは俺は思いもしていなかったのでつい聞き返してしまっていた
その俺の反応に一瞬不思議そうな顔をしていたが直ぐに笑みを深めて旭は説明をする
「何せ朝の2人を見てからずっと何か考え事をしていたし、俺や響といる時にだって何度かお前の方に視線を向けていたんだ」
「マジか」
正直驚きよりも戸惑いが大きい。俺と同じようにあいつも俺をちゃんと友達だって思ってるんだろうか
はぁ。俺の頭じゃ答えを出すのは難しいな。本当に面倒だ
……今日は驚かされたり疲れさせされてばかりだな。朝から秋人に俺の心情を見抜かれて、響は余計な事を口走りそうになるし、誰も来ないと思ってた図書室には予想してなかった旭が来た。そして場所を教えたのが透だった。それに旭から聞いた話で予想外な透の反応と
これから響のところに行くっての気疲れが酷いな。ったく諸々含めてどうすればいいんだかな。かんがえるのも面倒でしかない
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