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第6話
少年は海を目指していた。
山中の村から海までは遥かに遠い。
少年は海など、テレビや何ヶ月に1回学校に村人が集まって観る映画でしか見た事がなかった。
時折訪れる街の人達が、「ネットも繋がらない」とキレる村なのだ。
文明からは取り残されている。
村人は滅多に外に出ていかない。
海をみることなく、人生を終えるのだろう、となんとなく思っていた。
だが、今少年は海を目指していた。
海までは何百キロもある。
そう。
海を目指すのだ。
どうあってもそれをしなければならなかった。
当然。
お金もない。
あるのは自慢の身軽さだけで。
少年は貨物列車に駅から忍び込み、海への方角を目指したのだ。
不安だったが、あの子がしてくれたキスだけが少年を支えた。
あの子はしてくれようとした。
唇へのキス以外も。
白い手をスボンの股間に伸ばしてきて、パジャマの前を開けてくれたから。
男にたくさんつけられた跡をむき出しにして、でも、その男が吸って色付いた乳首はとてもいやらしくて。
でも。
真っ赤になって眼をそむけた。
その子が少年に渡せるものがそれしかないからだと分かったからで悲しくなった。
だから、勃起してたけど、その子の手を止めた。
「いい、いいんだ。そんなことしなくて」
と言った。
あの男と一緒にはなりたくなかった。
その子から何かをもう奪いたくなかった。
一生、犯されているその子の姿でオナニーしてしまうような醜い自分でも、本当にその子から何かを奪ってはいけない、そう思った。
その子は驚いたように目を見張り、でも、キスをまたしてくれた。
それは。
そっと触れる、優しいキスで。
その子の気持ちなのだとわかった。
これで十分。
生命がけでやれる。
そう思った。
その子ののぞみは。
「海の水を汲んできて」だった。
海の絵を指さし、ベッドサイドの水差しとコップを指さして、そう伝えてきた。
その子は何も食べてない。
水だけしか飲んでないことを少年は気付いていた。
生きるために人間の精が必要だと男は言っていた。
でも、水だけは飲んでいた。
それは男も飲んでいたから真水なのだろう。
その子は海水を欲していた。
手に入れてあげなければ。
少年は海へと向かった。
重ねられた唇の感触だけで、どんなことも出来る気がした。
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