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第8話
男は慌ただしく戻ってきた。
廊下でなにかを罵る声と、急ぐ足音がした。
男が帰ってくる。
あの子を泣かせて、あの子の中で楽しむために
少年は窓の外へ逃げた。
その子は男か部屋のドアを開ける前に、水筒の水を一気に飲んで、水筒をベッドの下へと隠した。
海水を一気に?
喉が乾いてしまう。
そんなことを少年は思ったが、その子は平気なようだった。
平気どころか。
その子の髪の青さ。
瞳の青さが、さらに深く青く、輝くように青く。そうなった気がした。
そして。
その子が笑った。
それは力無く犯されるだけのモノが見せる笑顔ではなく。
美しい海の嵐のような。
恐ろしく美しい笑顔だった。
男はブツブツ言いながら部屋のドアをあけ、迷うことなくベッドへ戻る。
「仕事は片付いたから・・・今月はずっとお前を抱いていられるね。沢山沢山、お前の中に精を放ってあげようね」
男はそう言って、その子を組み敷こうとした。
細い華奢な肉体を捕らえて、思うまま陵辱するために。
嫌がり泣くあの子の中で何度も何度も放つために。
その孔を楽しみ、無理やり感じさせるために。
だが。
もう。
違った。
男はその子の顔を見下ろした時にわかっただろう。
細い腕を押さえつけ、その中に自分のペニスを突き立てようとした時に。
その子は笑って男を見上げていた。
舌を切り取られていても、その子の声は確かに聞こえた。
その強く輝く目が語っていた。
「お前は殺す」と。
男は悲鳴を上げて逃げようとした。
すぐにわかったのだ。
「誰かが海水を!!!」
男は迷わなかった。
明らかに男には知識があった。
あの子に海水を与えたならどうなるのかを知っていたのだ。
あの子は笑った。
わらった。
出ない声で笑った。
そして逃げようとした男の腕を掴んで、まるでパンでも千切るかのようにその腕をもいだ。
ブツン
ゴキッ
鈍い肉と筋が切れる音と、骨が碎ける音がした。
ちぎれた肩の付け根から血が噴水のように吹き出すのも。
男は絶叫した。
その子がその血を浴びて笑った。
その子は齧った。
千切とったその腕を。
歯は今は尖り、肉は引きちぎられ、その子の口の中に消えていく。
肉食、なのだ。
少年は窓の外で震え、悟った。
人魚は。
肉食。
男は残った手足でベッドから這い降りようとしたが、その子の腕に引き戻された。
その子がそうやって犯されていたみたいに。
そしてその子は男を犯す代わりに、その腹に向って牙を突き立てた。
男の絶叫。
何度も何度も叫ぶ。
その子は腹を引きちぎり、内臓を啜った。
顔を埋めて、口にいっぱい臓物を頬張る。
それはペニスを銜えさせられていた姿にも似ていた。
男はペニスの代わりに臓物を頬張られ、食いちぎられ、喰われていく。
男は中々死ななかった。
ヒクヒクと尻がゆれ、手足が痙攣していた。
犯されているあの子みたいに。
ああ、そう。
あの子はやり返したのだ。
もう窓の外ではなく、室内に入り、呆然としながら少年はそう思って見ていた。
恐ろしかったけれど、どこか当然だとも思ってた。
この男は。
こうされて然るべきなのだ。
少年はそこに納得していた。
ぐじゅる
ぐじゅる
血の滴る内臓を喰らうあの子は。
それでも美しかった。
メイドが悲鳴に現れなかったのは、どうせ主人がまた違う趣向であの子と楽しんでいると思ったからだろう。
男は大きな声を上げながらあの子を犯してきたのだから。
男が動かなくなるまで、あの子は男を喰らいつづけた。
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