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第10話
まず、メイドを襲った。
気の毒にとは思ったけど、年老いたメイドを閉じ込めた。
ドアを人魚が楽々と押さえつけいるあいだに、ドアの前に色々積んでメイドが出れなくした。
一応、部屋に水と食料はおいて置いた。
数日は持つし、部屋にトイレもある。
だが、このまま誰も探しに来なかったら?
とは思ったが、このメイドもあの子を閉じ込め酷いことをするのに加担していたのだから男と同罪だな、と思ったので少年は考えないことにした。
あの子を閉じ込めて。
舌をきり、犯して。
それに関わった連中はどうなっても知ったことか。
メイドは泣いて助けてくれと言ったが、無視した。
そう、車椅子が無くても人魚は自在に動けた。
尾鰭を器用に使って立ち上がりさえする。
アシカが陸を歩くように、でももっと滑らかに速く軽々と動く。
するすると滑るように階段まで昇り降りする。
海水を飲んだあの子は、それまでの身体とは全く違っていた。
人魚は恐ろしいモノとして語られてきた。
例え船の中に居ようと、怒った人魚からは逃げられないと。
海辺であろうと人魚からは逃れられないのだと。
まさか肉食だったとは思わなかったけれど、そんな風に人魚が船乗りたちに恐れられている理由は今、良くわかった。
凄まじい怪力と身体能力なのだ。
今のあの子は少年とは比べ物にならないくらい強い。
でも。
あの子は少年がいないと、海へは帰れない。
2人で屋敷を出る
その前にその子が玄関のドアの前で、声にならない声で何かを呟いた。
舌を恐らく声帯も切られて奪われた声。
でもその言葉には今は力があった。
海水を飲んだことであの子は完全に力を取り戻していた。
「室内に大きなプールがある」
そう聞いていた
何のためにかはあの子を見て納得したけれど。
男はたまにあの子をそこで泳がせていたのだろう。
そのプールの大量の水が自ら動いていくのが見えた。
生きた津波のようだった。
それは階段を登りメイドがいる部屋へと向っていた。
その子の力だとわかった。
その子は。
許す気なんか無かったのだ。
メイドはその子が男に陵辱されるのを許していたのだから。
水はドアの隙間から部屋に満ち、メイドを溺れさせるだろう。
少年はそれを当然だと思った。
だから、振り返り無邪気に笑うその子に笑いかえした。
みんな死ね。
この子を閉じ込めた奴は。
車椅子は必要だったから自動車に載せた。
そしてその子はするすると自分から自動車に乗り込んだ。
少年は運転の仕方は知ってた。
多分できる。
出来るはず。
行かないと。
夜が明ける前に村を出る。
そして、2人で海を目指すのだ。
少年は緊張しながらエンジンをかけた。
車は快調に動き出し、その子と少年は声を立てて笑った。
車は海へと向かう。
遙か遠い海へと。
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