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 あれからさらに数日経った。俺は那智に従順なフリを続けている。勝手に抜け出すことも、反抗もしなくなると、那智は無理やり犯してくることはなくなった。  相変わらず学校には行けていないが、このままいけばもしかすると行かせてもらえるかもしれない。それくらい最近の那智は機嫌が良かった。  ーーただ、一つ困ったことがあるとすれば、 「ほら咲良、口開けて」  言われるがまま口を開けると、オムライスをすくったスプーンを、開けた口の中に入れてくる。  那智はもぐもぐと食べている俺を見ては満足そうな顔をするのだ。  ごくん、と飲み込むと、那智がまたも食べさせようとスプーンにすくって俺が飲み込むのを待っていたのだ。 「はい、咲良、あーん」  いや、あーんじゃなくて。  ーー那智が物凄くデレッデレになってしまった。  俺のことを人形か何かかと勘違いしているのではないかと思うくらい、那智は何かと俺の世話を焼いてくる。・・さすがに風呂やトイレに同行しようとした時は追い出したが。 「・・・あの、那智先輩。俺、自分で食べられるんで・・。冷めてしまうので先輩も自分の分食べてください」 「そ、・・・そうか?」  すると、那智は明らかにしゅん、と落ち込んで見せるのだ。  ・・・めんどくさっ。 「・・分かりましたよ、ほら」  あ、と口を開け、那智を見ると、すぐにぱああと表情が明るくなったのだ。  再び口に入れられ、もぐもぐと食べれば那智は幸せそうな顔をしていた。    ・・・本当、単純な奴。  仕方なく那智に餌付けされる俺は、結局皿が空になるまで那智にあーんさせられた。  その後で那智はすっかり冷めてしまった自分の分のオムライスを、なぜだか嬉々として食べていた。 「ねえ、咲良」 「はい」 「なあ、咲良」 「・・はい」 「咲良、咲良」 「・・・・はい」  なんですか、と机で勉強しながらも隣にいる那智に返事をすれば、那智はむっと唇を尖らせるのだ。 「こっちを向いてくれないか、咲良」  はあ、と息を吐き、ペンを置いて那智を見れば、ぎゅうっと抱き着いてくるのだ。  抱き着かれた拍子にどてん、と後ろに倒れてしまった。ちょうど頭の所にクッションがあり、床に頭をぶつけることは回避できた。  すると那智は俺に乗っかったまま顔を上げるのだ。 「・・・咲良、好きだと言ってくれ」  じっとこちらを見ると、那智は俺からの言葉を待っているようだった。  言葉の代わりに頬に手を添えてちゅっと口付けると、この単純な男はそれだけで満足する。 「・・・これで、伝わりませんか?」  ほら、またそんなに顔を真っ赤にさせて。俺からのキスがそんなに嬉しいか。  誰が好きだなんて言うか。    散々犯してきたくせに都合が良すぎる。お前は朝日の代わりに俺に愛情を与えるだけの存在だ。   俺は那智のことを好きにはならない。未だ朝日のことが好きだからだ。  朝日は今何をしているのか、何を考えているのか、嫌われていると分かっていても尚、朝日のことを考えてしまう。  朝日のことを考えていることは、那智に悟られないようにしている。もう、犯されるのは嫌だ。  しかしなぜだか分からないが、那智は俺と両思いだと思っているらしい。  ・・・どんだけめでたい頭なんだろうか。  まあこちらとしてもその方が扱いやすい。俺が那智を好きなフリをし、従順にさえなっておけば、那智は可愛いモンだ。  ・・・だがそれでも、ピンチは突然やってくる。  いつもはこの幼稚な口付けだけで満足するが、今回は、逆に火を付けてしまったようだ。  首筋にちゅ、ちゅ、と柔らかいキスを落とされると、シャツのボタンをプチプチと外される。  露わになった淡く色付いた突起を、熱い舌先でくりくりと転がされると背筋がびりびりっとした。 「っ、なち、せんぱ・・・、」  暴走を抑えようと那智の頭を両手で抑えると、那智にその手を掴まれるのだ。 「もう、いいだろう、咲良」 抑えられない、と呟くと俺を熱っぽい目で見つめる那智は、再びぺったんこな俺の胸に顔を埋めるのだ。  ・・・これは、止まりそうになさそうだと、俺は仕方なしに静かに目を閉じた。

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