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08

 襲われた直後で一人にされるのが不安で、俺は結城を引き止めてしまった。  それ以上の意味はないんだ。なのに、なぜ、キスされた?さっきの結城の言葉も、まるで告白のように聞こえた。  そして、どうして朝日がここに・・・? 「結城、お前・・・、咲良に何してんだよ・・・ッ!!」  間に入ってきた朝日は俺と結城を引き離すと、結城の胸ぐらを掴むのだ。  すると結城は動揺するわけでもなく、黙って朝日を見やるのだ。  ーーもしかして、生徒二人に襲われたことを朝日に言いたくない俺に、気を使っているのか・・・?  襲われたことを朝日が知ったら、間違いなく俺に付いて行かなかった自分を責めるだろう。俺としても朝日ではない奴に触られたなど知られたくない。  先ほど、なぜか結城にキスはされたが。 「ーー朝日、結城は具合が悪かった俺を助けてくれただけだ」  離してやってくれ、と朝日の腕を掴むと、朝日は不服そうな顔をするのだ。 「じゃあ何でキスしてたんだよ。しかも、お前泣いてるし」 「してないから。してるように見えただけだろ。目は擦りすぎただけだ」  すると朝日はじっとこちらを見やるのだ。苦しい言い訳に聞こえただろうか。  俺は表情に出ないように、なるべく平然を装って朝日に目を合わせた。逸らすと絶対やましいことがあると思われてしまうから。  すると、少し間があった後に分かったよ、と息を吐いた朝日は結城から手を離すと、俺が羽織っていた結城の上着を取り、結城に返すのだ。 「・・誤解が解けたようでよかったです」  上着を受け取った結城はいつかの時のように胡散臭さを含んだ笑顔を朝日に向けたと思えば、きゅっと俺の手を取るのだ。  ぎょっとしたのもつかの間、繋がれている俺と結城の手を見た朝日は眉間にしわを寄せた。 「・・・何やってんだよ、結城」 「具合の悪い咲良先輩を、いつまでもここにいさせられないじゃないですか。部屋まで送ってあげようと思って」 「・・だって朝日先輩、忙しいですよね」 と、朝日に微笑む結城はなんだか挑発しているようにも見える。  朝日もそう捉えたのか、次の瞬間、体がふわっと宙に浮いたのだ。  そして近くにある朝日の顔に、心臓がどくんと跳ねた。 「・・生徒会の仕事は那智先輩に任せてあるから。咲良は俺が引き受ける。結城、お前の仕事もあるんだからな。早く生徒会室に行け」 「・・・厳しいなあ、もう。・・じゃ、咲良先輩、また明日」 すると結城は自然な笑顔でこちらに向けて軽く手を振り、きびすを返すのだ。 「ゆ、結城・・・、ありがとう、助けてくれて」  朝日に抱きかかえられ、連れて行かれながらも結城に礼を言うと、背を向けながらも結城はこちらに向かって手を上げていた。  結局キスのことも告白の詳細も聞けないまま、俺は朝日の部屋で、具合が悪いと言ってしまった手前、看病を受けていた。その間、朝日はあまり機嫌が良くなかった。  そして結城には気を付けろと再三言われ、面倒になった俺は寝たフリをして流してしまったのだ。 *** 「朝日先輩、こいつら退学にして欲しいんですけど」  放課後生徒会室で業務をしている俺の机に、生徒の情報が載っている書類を、結城はいきなり机に広げたのだ。 「・・・理由は?」 「言えません」  俺が問いかけても結城は表情一つ変えずに口を割らなかった。  それは二年の生徒二人の名簿のコピーだった。たまに素行が悪いとは聞いてはいるが、退学とまではいかないくらいくらいの奴らだ。 「あのなあ・・・」  いくら生徒会長と言っても、少し気に入らないくらいで退学にさせたら前会長の那智と変わらないだろう。  結城も咲良に対しては少々問題児ではあるが、そう簡単に人を貶めたりはしないはずだが。  ーーーーー待て、まさか・・・、咲良が、関係しているのか・・・? 「・・・昨日、咲良が泣いてたのと関係あるのか?」 「何で咲良は、俺に言わないんだ・・・・・」 「・・・さあ?朝日先輩が頼りないからじゃないですか?」  結城を見上げると笑っているのを隠すかのように顔に手を当て、口元を覆うのだ。 「・・お前、何隠してるんだよ」 「何も?ただ、一つだけ確信はあります」 「・・・咲良先輩は、自分の意思で俺の元に来ます。・・・必ずね」  あはっと声を上げて笑う結城は、一体何を考えているのか、俺には全く分からなかった。  すると結城はきびすを返すと、生徒会室の扉に手を掛けるのだ。そのまま出ていくのかと思いきや、結城はくるっとこちらに振り返り、朝日先輩、と俺を呼ぶと、 「咲良先輩は、俺がもらいますんで。そのつもりでいてください」 と、何ともまたも楽しそうに笑っていた。  この時、俺は何を言っているのかと思った。咲良は俺と付き合っているのだから、そんなことあるわけないだろうと。  ーー後日、咲良が結城に声を掛け、共に寮に向かって歩いている姿を見るまでは、俺はそう思っていたんだ。

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