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「・・結城、離せ」 「・・・俺、ただじっとしてるだけでいいって言いましたよね。何、勝手に動いてんですか」  そして壁に押し付けられる手にするっと指を絡められると、完全に身動きが取れなくなってしまう。  無防備な首にちゅっと甘く口付けられ、小さく体が跳ねると、結城は「咲良先輩」と切なく名前を呼ぶのだ。  咲良先輩、と何度も甘く呼ばれながらボタンをプチプチと外されると、あらわになった鎖骨に何度もキスを落とされる。口付けられる度にあ、あ、と声が漏れる俺を見た結城はにやっと口角を上げるのだ。  やめろと結城の肩を押してもびくともしなかった。体全体で扉に押し付けられているのもあるが、嫌でも感じてしまう体では上手く力が入らないのだ。 「っ、・・ぅ、」 「・・気持ちいいですね、先輩」  可愛い、と呟くと同時に、シャツの上からでもぷっくりと膨らんでいるのが分かる突起を指の腹ですりすりと撫でられる。 「ぁ・・ッ、やだ、ゆう・・き、・・ッぁ、」 「っ、あー・・・、それ、やばい。・・・もっと俺の名前呼んで、先輩。好きなだけ感じていいから、」 「ーーーッぁ、あ・・・、ぅ・・・ッ」  耳たぶに舌を這わせてきたと思えば、そのまま中にまで侵入してくる舌に、背筋が震えた。  音がくちゅくちゅと脳にまで響くようで、耳元で感じる結城の息が熱かった。それだけで俺の頭もなんだかくらくらしてくるのだ。  そんな時、下腹部からカチャカチャと音がした。  嫌な予感がしてぱっと視線を移すと、制服のズボンが緩められ、下着ごとずり下ろされていたのだ。  ーーこれは、やばい。  片足を持ち上げられ、ぱんぱんに膨張している性器をぴとっと宛てがわれる。どくどくと脈打つ先は、少しでも力を入れられれば簡単に中に入っていきそうだった。 「ぁ・・・、や、・・だ・・、」 「・・先輩、力抜いて、」  キツいのか、思っていたよりも中に入っていかないようだった。  少しずつ、でも確実に、結城の性器が入ってくる。  ーー嫌だ、嫌だ、  すると震える俺に、結城は再び唇を近付けてくるのだ。  ーーごめん、朝日。  心の中で朝日を想い、ぎゅっと目を閉じた時だった。 「・・・は、」  笑う結城の声がかすかに聞こえた。  なかなか触れてこない唇に疑問を感じ、恐る恐る目を開けると、悲しそうに俺を見つめる結城の顔が目の前にあった。  俺の視線に気付いた結城は、密着していた体をぱっと離すのだ。 「っ、え・・・、」  すると結城は乱れた俺の服を直し始めた。  ーーなんで、途中でやめたんだ?  あそこまでしたら、余程のことでもない限り中断などするはずないだろう。  すると、そんな俺の考えを悟ったのか、結城は口を開くのだ。 「・・・咲良先輩って、やっぱり頭悪いですよね」 「・・・・・・・・は、」  今の俺は、おそらく今までで一番腑抜けた顔をしているだろう。  結城はそんな俺を見るとぶはっと吹き出すのだ。 「なんですか、そのあほ面」 「ッな・・・!」 「・・・ほら、逃げるなら今の内ですよ、先輩」 「それとも・・・、続き、されたいんですか?・・・ま、俺は大歓迎ですけど」  結城の切れ長の目が、じろっとこちらを見やる。  目が合った瞬間、気付けば俺は結城の部屋を飛び出していた。    あのままあの場所にいたら、間違いなく俺は食われていただろう。なぜ途中で止めてくれたのかは、分からない。  そして、角を曲がった時だった。  ーードンッ  向こう側から来た人物に勢いよくぶつかってしまったのだ。  互いにはね飛ばされてしまい、いてて、と腰を上げた時、「咲良・・?」と聞きなれた声が飛んできたのだ。  まさか、と思い顔を上げると、目の前にいた人物は顔を確認するよりも先に、勢いよく抱き着いてくるのだ。  突然のことで受け止めきれなかった俺はどたん、と後ろに倒れてしまう。  覆いかぶさってきた相手は俺の胸にぐりぐりと顔を押し付けるのだ。 「せ、背中、痛いんだけど、朝日・・」 「ごめん・・・、ごめんな。咲良。嫌な態度取って、本当ごめん、」  何もされてないか?と体を離した朝日は俺の姿を確認すると、顔をしかめるのだ。 「・・結城のところ行ってくる。先部屋戻ってて」  服装は先ほど結城が直してくれたから、おそらく俺の顔が赤かったことから朝日は何かを察したのだろう。  ともあれ、ここは一年のフロアだ。二年の俺達がいれば目立つし結城とのことで事を荒立てれば生徒会の評判も危うくなる。  結城には何もされていないからと必死に朝日を説得し、説得の甲斐あってなんとか朝日の部屋に二人で戻ると、俺はこれまでの説明を朝日にした。男子生徒二人に襲われたこと、それをダシに結城に脅されたこと。  心苦しいが、結城には何もされていない、と嘘を付いてしまった。怒った朝日が何をするか分からないから。  こうして互いに謝り倒した俺達は、無事に仲直りをすることができたのだ。  最初から俺なんて眼中にないことなど、もちろん分かっていた。  でも、汚い手を使ってでも、もう一度抱きたいと思ってしまったのだ。  あのまま無理やりにでも抱けば良かったのだろうが、それはできなかった。あんな震えている咲良を抱くのは、どうしても嫌だった。  ーー俺、めちゃくちゃ咲良先輩のこと好きじゃん。  咲良が出ていった扉を背にずるずると倒れ込んだ俺は、しばらくその場から動けなかった。

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