67 / 120

05

 そんな那智に痺れを切らした俺はばしっと手を取ると、驚いたのだろう、那智の肩がびくっと揺れたのだ。 「だーかーらー、行ってもいいって言ってんですよ、あんたの部屋に」 「··········え?」 「いや、那智先輩が誘ってきたんでしょ。今ちょうど退屈してたところなんで」 「·····あ、ああ·········、」 「ほら、行くならさっさと行きましょ」  面食らった様子の那智は未だ固まったままだった。  そんな那智の手をぐいっと引き、ちょっと待てという那智の制止も聞かずに、部屋へと引きずるように向かった。 ***  以前那智に監禁まがいなことをされた時以来、来ていなかった那智の部屋の内装は全く変わっていなかった。  テレビの向かい側にあるソファに座らせてもらうと、やはりどこかぎこちない様子の那智は人が一人座れるくらいの距離を空けた俺の隣に腰掛けた。  その距離がなんとももどかしいが、那智に何が見たいかを聞かれ、配信されたばかりで今話題の推理ものをとりあえず選んだ。  いずれ見たいとは思っていた作品なので、とりあえずは映画に集中することにした。  ーーーのは、いいんだが。  開始から30分足らずで犯人が誰かが分かってしまった。  ちらっと横目で那智を見ると、どういうつもりで俺を部屋に誘ったのか、那智は純粋に映画を楽しんでいるようで襲ってくる気配はまるでなかった。 「·····那智先輩」 「···ん?どうした、咲良」 「俺、もう犯人分かっちゃったんですけど」  すると那智はこちらにぐりんと顔を向けたと思えば「何··········?!さすが咲良だ·····!」 と目を見開くのだ。 「俺はまだ分からなくてね。あの警察官かと思っていたんだが、運転手もなんだか怪しいと思ってきたところだ」  そう言いながらもテレビに視線を戻す那智になんだかむっとしてしまった俺は、少し意地悪したくなってしまった。  那智の足のすぐ脇に手を付くと、ソファがギシッときしむのだ。  突然距離を詰めてきた俺に那智はぎょっとしているが、俺はそんなことは気にせずに那智の耳元にそっと手を添えた。 「あー··········、那智先輩、教えてあげましょうか?」 「犯人はーーー」  俺もさすがに本気でネタバレをするつもりはなかった。だが、先程からこちらをちらりとも見ない那智を、少しからかってやろうとしただけだったんだ。 「っだめだ······ッ!」  那智は咄嗟に俺の手を取ったと思えば、もう片方の手で口も塞いできたのだ。 「ッむぐ·······っ」  その那智の勢いにバランスを崩した俺は、那智と共にソファにぼふっと倒れ込んでしまった。  ゆっくりと目を開けると、俺を見下ろしている那智と目が合った。 「·······っす、すまない·········っ!」  俺の上から退こうとした那智の手首をパシッと掴むと、そんな俺に那智は目を見開くのだ。 「さ、咲良··········、どうしたんだ、今日、いつもと様子が·····」 「·····は、那智先輩こそ、はなっから"そのつもり"で俺のこと部屋に呼んだんですよね。なんで、何もしてこないんですか」 「俺からシてほしいなら、してあげますけど」 「っ、何言っーーーっん···ッ」  那智の後頭部に手を回しこちらにぐっと引き寄せると、濡れた唇が重なった。  ちゅ、と甘く唇を吸うと、驚いたのだろう、那智の唇が震えるのだ。  そんな那智の反応を見て調子に乗った俺は、唇を舌でつーっとなぞると、パシッと手首を掴まれてしまうのだ。  バッと顔を離した那智の頬は赤く染まっていて、熱持った目で俺を見下ろすのだ。 「·····っは、顔真っ赤ですけど、先輩」 「··········咲良、お前·····」  後悔しても遅いからな、と呟いた那智は俺の首に顔を埋めるのだ。  やっとその気になったかと思った俺は、にやっと口角を上げると、そんな那智を受け入れるかのように目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!