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昨晩のことがあってか奴は妙に肌ツヤが良く、修羅場のような状況の俺にとって、それがなんだか腹立たしくて堪らなかった。
類は俺の視線の先にいた奴に視線を移すと、てかさと笑うのだ。
「那智ウケるよね。昨日AV見てたんだって。咲良ちゃんにしか興味ないと思ってたのに意外なんだけど」
「え"·········っ」
思わず喉から出てしまった声にバッと口を手のひらで押さえると、そんな俺を見た那智は俯いて笑いを堪えていたのだ。
そんな俺たちの光景に朝日は少し首を傾げるがそこまで気にならなかったようで、そうなんですよ、と類に視線を移すのだ。
「俺昨日那智先輩の部屋行った時まじでビビりました。だって高い女の人の声漏れてんですもん」
「え、女性ものなんですか、見てたの。意外過ぎる」
「社会勉強をしてたんだ。視野を広げるのも大事だろう?」
「ま、咲良ちゃんばっか追ってたからそんなんなっちゃったんだもんねえ」
「おい類そんなんってなんだ···ッ!」
「アホってことだよ分かるでしょフツー」
朝日に続いて結城と類がAVの話題に興味を持つとわいのわいのと騒がしくなってきた。
那智はどうせ朝日にAVのことはツッコまれるだろうからと自分から見ていたなどと事前に類達に言っていたのだろう。
それにしてもわざわざ自分で面白おかしく言う必要ないだろうとひやひやしながら聞いていた俺の心臓の鼓動は速まっていく一方だった。
「咲良先輩、大丈夫ですか·····?顔色悪いですよ」
「·····あ、ああ、大丈夫··········」
そして俺は、生徒会室に入った時全員揃っていることをこの目で確認したにも関わらず、先程から口を開かないで突っ立っている人物をどうしたのかとちらっと横目で見た。
するとそいつも俺を見ていたようで、視線がぱちっと重なった。しかもその男は俺と目が合ったにも関わらず目を逸らすことはなく、逆にその目は俺をじっと捉えていたのだ。
その視線に、昨晩生徒会室に泊まっていたという俺の嘘を見透かされてるように感じ、その人物からぱっと視線を逸らした。
そしてこれ以上そいつに見られるとボロが出そうに思い、朝日に具合が悪いからと帰ると伝えると、朝日も様子がおかしい俺を気にかけていたようで、それなら部屋まで送ると言い出したのだ。
お前は業務が忙しいだろと朝日を説得し、じゃあ俺が送ると言ってきた他の3人にも大丈夫だからと伝えると、すぐに俺は生徒会室を出た。
とりあえず生徒会室から離れなければと、足早に階段を下りていた時だった。
「ーーそんなに急いでどこ行くんだよ、兄さん」
その声が降ってきたと同時に、後ろから手をぱしっと掴まれた。
振り向くと、案の定そいつは先程俺をじっと見ていた、弟である弥生だった。そして今も尚俺の目を捉えて離さないのだ。
「具合悪いんでしょ?ならそんなに急ぐと危ないよ。俺が送ってあげるから」
「い、いらない··········っ」
俺よりも大きな手でがっしりと手首を掴まれ、振りほどくことは適わなかった。
離せよと睨むと、弥生は兄さん、と俺をじっと見やるのだ。
「ーーねえ、生徒会室に泊まったなんて、嘘だよね」
確信を持ってそう言っている様子の弥生は、俺の手首を掴んでいる手に力を入れるのだ。俺は弥生の言葉に思考が固まり、その場から動けなくなってしまった。
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