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「·····え、と··········、これは、どういう·····、」
「ーーそれは俺が聞きたいよ、咲良。あれだけ愛し合ったというのに、まさか俺の他にも関係を持っていた奴がいたとはね」
類との会話を扉のところにいた那智はやはり聞いていたようだった。そうなると、もはや誤魔化しようがなかった。
「そ、れは········、」
「·····昨日さ、咲良ちゃんが具合悪いって生徒会室出てった後に、弥生くんが出て行ったでしょ?·····その後さ、帰るために俺も生徒会室出たんだよね」
類の低い声に背筋が凍った。
ーーということはまさか、
「ーー俺さ、咲良ちゃんが弥生くん誘ってんの聞いちゃってさ。·····なに、昨日は弥生くんとお楽しみだったわけ?」
「·····っ、」
じろりと俺を見やる類に続いて、那智も
「まさか本当に類の言う通りだったとはね」
と、俺に鋭い視線を向けた。
おそらく、俺が弥生と話していたのを聞いた類は、那智にも俺との関係の確認をしたんだろう。
今日、類が俺を呼び出したのは、俺が類や弥生と寝たのを信じられない那智に真実を見せつけるためだったんだろう。
ーーこれは、やばい。
とりあえずここから出なければ、
「っ·····!」
掴むのが緩んでいた類の手を振りほどき、入口に向かって無心で走った。扉に手を掛けたところで、後ろから声が投げかけられた。
「へえ·····、逃げんの?·····で、逃げてどうすんの?まさか朝日くんに助けてもらうつもりじゃないよね」
「それで、なんて説明すんの?都合の良いセフレ達に自分はそんな気さらさらないのにガチ恋されて困ってるとでも言うつもり?」
類の言葉に扉を開ける手が止まった。
俺はこの後どうすればいいかなど考えていない。朝日に相談するなどもってのほかだ。
この後どんな報復を受けることになるのか、考えるだけでこの二人と同じ空間になどいられなかった。
そんな俺は類の言葉を無視し、逃げるように生徒会室から出た。
とりあえず一時的に身を隠せる場所に行こうと、空き教室へ向かうことにした。そして廊下の角を曲がった時だった。
ーードンッ
「っ、」
人にぶつかった俺は派手に転倒してしまった。
いてて、と顔を上げると、今顔を合わせたくない奴らが俺を見下ろしていた。
「·····あれ、兄さん?どうしたの、そんなに急いで」
「危ないですよ、そんなに慌てたら」
大丈夫ですかと結城に手を差し伸べられるが、結城と弥生も俺が生徒会の全員と寝ているのを知っていて、生徒会室に連れ戻されるのではないかと内心かなりハラハラしていた。
ーーだがそれは杞憂だったようで、二人はなかなか結城の手を取らない俺に首を傾げているだけで、他に何も言ってこないのだ。
もしかしたらこの二人はまだ類と那智に俺のことは聞いていないのかもしれない。
ほっとした俺は結城の手を取り立ち上がらせてもらった。
「悪い、ちょっとぼーっとしてた。ありがとう」
那智と類が追ってくる可能性もあったので、じゃあ急いでるからとその場を去ろうとした。ーーーが、掴んだままの手をぐんっと引かれるのだ。
「ーーね、先輩。まさか、このまま帰すと思ってないですよね」
そんな結城のぞっとするほど低い声が降ってきたと同時に、逃げられないようにかもう片方の腕も弥生に掴まれたのだ。
「······嘘つき」
そう呟いた弥生の表情は、悲しみと怒りを含んでいた。
今朝俺に見せた穏やかな表情とは正反対な、怒りを押し殺しているような様子の弥生に俺は何も言えず、その言葉に対して俯くことしかできなかった。
今更になって俺はとんでもないことをしてしまったことを実感した。
こうして、嘘で塗りつぶされていたこいつらとの関係は、あっけなく終わりを迎えることとなった。
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