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04
あの後、灰田は俺の事を誤解していたようで、どこから広まったのか、一人歩きしていた噂が間違いであることの説明をした。
ーーまあ、その噂はあながち間違ってはいないが、それは黙っておいた。
悪かったなと謝る灰田はティッシュで俺の体を丁寧に拭いてくれた。灰田がティッシュを持っていることが意外過ぎて思わず笑いを堪えていると、「なに笑ってんだよ」と俺の表情から思考を読み取った灰田は頬をじんわりと赤く染めていた。
倉庫に閉じ込められてから十数分後、俺を探していた朝日により俺達は倉庫から出られることとなったが、先程灰田とのことがあり、顔が赤くなっていた俺を見た朝日は灰田を「咲良になんかしたのかよ」と睨むのだ。
そんな灰田も「あ?そんなに大切なら目ぇ離すんじゃねえよ」と朝日を見やると、灰田と朝日の間に見えない火花が散っているようだった。
このままでは喧嘩になると思った俺は何もないから行こう、と朝日の手を引いた。灰田にも教室に戻ろうと声をかけると、「先戻ってろよ。俺は後から行くから」と俺と朝日に気を使ったのか、灰田は眠いから倉庫で休んでから戻るとのことだった。
そんな灰田に「また後で」と声をかけ、俺と朝日は倉庫を後にした。
***
「おはよう、灰田」
「·····はよ」
次の日から俺と灰田は雑談を交わすほど仲良くなった。倉庫で共に閉じ込められた時に気付いたが、灰田は口調はぶっきらぼうではあるものの周囲の奴らが言っているほど怖くなく、親しみやすい奴であることに気付いた。
朝日から向けられる目が痛かったが、初対面の時より互いの印象が大分違うと感じてきた、そんな時だった。
***
「·····ごめん、朝日と喧嘩してさ·····。今日だけ泊めてくれない?」
「ーーーは?」
朝日と些細なことで仲違いした俺は、その勢いで朝日の部屋を飛び出して来てしまった。
だが俺の部屋はタイミング悪く改修工事中で、誰かの部屋に泊めてもらうしかないのだ。一番最初に頭に浮かんだのが灰田だったから、こうして来てみたのだがーー
灰田は間髪入れずにただ一言、「無理」とだけ言うと、扉を閉めようとするのだ。
俺はとっさに扉の間に足をかけると、閉まりかけていた扉の動きがピタッと止まった。
「·····おい」
扉の向こうから不機嫌な声が投げかけられるが、その後頼み込んでなんとか中に入れてもらうことができた。
俺の事情を聞いた灰田はそれでも無理と、またもバッサリと切り捨てるのだ。
「·····いや、泊められない理由なんて分かるだろ、お前·····」
おそらく灰田は体育館倉庫でのことを気にしているのだろう。
だがあれは事故のようなもので、もちろん俺も悪かったのだから、灰田は何も気にすることはないのだが。
「お願い·····!もう消灯時間だしさ、廊下歩いてたら怒られるだろ?今日だけだから·····!」
この通り!と手を合わせてちらっと灰田を見ると、少し間があった後に灰田は桜色の髪をくしゃっとかき揚げ、じろりと俺を見やるのだ。
「··········明日は泊めねえから。ちゃんと彼氏と仲直りしとけよ、お前」
全く、と息を吐く灰田に胸が温かくなり、ありがとう!と思わず抱き着くと、いちいちひっつくなと照れているのか頬を染め上げている灰田にべりっと引きはがされてしまった。
「と·····、とりあえず風呂まだなら、行って来たら」
確かに、ご飯は食べたが風呂はまだだった。
ほら、とタオルと着替えを渡してくれた灰田に礼を言うと、俺はバスルームへと向かった。
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