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08

 ーーまた、やってしまった。  咲良は俺の部屋に泊まったことを忘れていて、俺の事を朝日だと勘違いしていた。それを咲良には朝日しか見えていない、という現実を突き付けられたように感じた俺はイラついたと同時に、俺に体を擦り付けて感じている咲良に理性が効かなくなってしまった。  勢いで寮を出たが幸いにも俺の家はここからそう遠くはないし、俺の親は突然俺が帰っても何も言わない。親が学校に高額な金を納めているから、警察沙汰にでもならない限り、俺は何をしても許される。  遅刻早退を繰り返し、何度喧嘩をしても同じことだ。  ーー身を安全を保証されたこの生活が、つまらなくて仕方なかった。  不良という部類の俺には誰も近付かないし、親しい相手がいなかった。  そんな俺の退屈な日常に割って入ってきたのは、何かと話題になっている同じクラスの咲良だった。  見た目は綺麗と可愛いを足して割ったくらいで、周りの奴らと比べて容姿は整っていた。ある日、その咲良のある噂を耳にした。  ーー咲良は生徒会全員と寝ている、と。  まあ、あんな見た目だ。男には困ってなさそうだとは思ったが、まさか恋人がいるにも関わらず他の男も食ってるとは。  馬鹿な俺はそのくだらない噂を鵜呑みにした上に、先日咲良と共に倉庫に閉じ込められた際に手を出してしまった。咲良は事故だからと言ったが、抑えられなかった俺の責任だ。  今回のこともそうだ。咲良には本当に悪いことをした。 一日学校から離れたこともあり、頭は冷えた。明日学校へ行ったら謝ろう、と家にいる間考えていた。  ーーいや、謝るなら早い方がいいか?  夕方になってから、ふとそう思った。時間が経てば経つほど顔を合わせづらくなるだろう。なら、早めにケリを付けたほうがいいかもしれない。咲良は生徒会の仕事があるだろうし、まだ学校にいるはず。  ふと思い起こした俺は家にあった予備の制服に着替え、足早に学校へと向かった。  ーー生徒会室入口  来てしまったが、いきなり入っても大丈夫だろうか。というか、咲良は中にいるのか?  考えるより先に体が動くタイプの俺はいつもそうだ。後になっていろいろ考えてしまう。もしいなかったらどうする?  ーーーまあ、ここまで来てしまったのなら、ごちゃごちゃ考えるよりも入るほかないか。  そして、扉に手を掛けた時だった。 「ーーてかさ、やっぱ咲良ちゃんと久々にヤりたくない?」 「ああ。朝日はずるいね、咲良を独り占めして」 「·····おい、あんたら、咲良本人の前でその下世話な話はやめて業務に集中しろ。仕事溜まってんだよ」 「そーそー、俺達溜まってんだよ、咲良ちゃん。·····ね、抜くだけでもいいから、今日とかどう?」 「咲良、俺は抜いて欲しいなどと我儘は言わないよ。とりあえず今この場で全裸になってもらえれば俺は俺で勝手に始めるから、それなら問題ないだろう?」 「わ、セルフでやるなんて那智エコだね~。環境に優しい~」 「「エコだね~」じゃない·····ッッ!!朝日の前でセクハラも大概にしろあんたら·····ッッ!」 「咲良ちゃん見るとどーしてもヤりたくなるんだからさ、しょうがないじゃん。健全な高校生なんだよ?俺ら」 「効率アップの為に性欲は発散するべきだ。そうだろう?朝日」  なあ、と那智はにやっと朝日を見やると、それまで黙っていた朝日はダンッ!と机を勢いよく叩き、二人をギロッと睨みつけた。  そんな二人はやば、と互いに顔を見合わせたが、朝日はずんずんと二人の背後にまで来ると、 「おい、廊下出ろ、あんたら」 と低い声で首根っこを掴むのだ。 「わ、ごめんって朝日くん·····!俺今日この後撮影だからほどほどしてして欲しいんだけど·····!」 「俺は特に何もないが顔は止めてくれないか·····ッッ!!」 「やかましいわ!!ちょっとは静かにできないのかよあんたら·····ッ!」  朝日はぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を入口まで引きずり、扉を蹴って開けた。  すると、何かを見付けたのか、床に視線を落とした朝日は「ん?」と落ちている何かを拾い上げるのだ。 「·····ピアス?一体誰の·····」  朝日の気が逸れている間に類と那智は朝日から逃れると、俺の背後に隠れるのだ。ひっつくな、と二人を引き剥がして俺は朝日の元へと駆け寄った。  朝日の手のひらを覗き込むと、リング状の黒いピアスがあった。  ーーあれ、これって····· 「ーーごめん、朝日」  朝日の手の中にあるピアスを取ると、朝日は「咲良?」と俺を見やるのだ。 「これ、届けてくる。すぐ戻るから」  入る時は落ちてなかったし、先程までここにいたのなら、追いかければまだ間に合うかもしれない。  戻って来たら朝日にも話をしなければとピアスをポケットに入れ、朝日の制止を無視して、俺は廊下を駆け出した。

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