114 / 120
09
ーーあのピアス、間違いなく灰田の物だ。
生徒会室の入口に落ちていたということは、昨日のこともあるし、俺に話をしようとしていたのだろう。だが、あそこまで来てなぜ帰ってしまったのだろうか。
ーーーあ、そういえば、
『ーーてかさ、やっぱ咲良ちゃんと久々にヤりたくない?』
先程類がそんなことを言っていた。灰田はそれを聞いたのかもしれない。俺が"生徒会全員と寝ている"という噂が本当であることを知ってしまったから、灰田は嘘をついた俺に失望して帰ってしまったのだろう。
せっかく仲良くなれたのに最低だ、俺·····。
ーーちゃんと、話さないと。本当のことを。
校門を抜けると、街がある方へ向かって行く灰田の背中が見えた。なんとか見失わないように、走ってその背を追いかけた。
ーーのは、いいんだが。
今の時間帯、仕事や学校から帰宅する者が多く、灰田は人混みと共にどこかへと姿を消してしまった。
そして灰田を探そうにも、俺の身長では限界があったのだ。流れゆく人に押されながらも背伸びやジャンプをして灰田の姿を探していた時、突然、後ろからぽんっと肩を叩かれた。
ーーもしかして、灰田か?
あいつの大きい身長なら人で溢れかえっているこの場所でも、知ってる奴を見つけることは可能だろう。
背後にいる奴が灰田であることを確信した俺は勢いよく振り返った。
「ーーーはい、·····だ、」
だがそこにいたのは、知り合いですらない、おそらく成人しているであろう二人の男だった。
すると、俺の正面にいた男は「ほらー!」と隣にいるもう一人の男に顔を向けるのだ。
「やっぱかわいーじゃんこの子。後ろ姿でなんかもう分かったし、俺」
「でも学生じゃね?あの有名なとこの制服だし」
「あー!確かにそうだ!·····ま、大丈夫じゃない?この子が静かにしててくれればさ」
「え·····、と·····、誰··········?」
人の波に押されていたことから、俺の背後にはシャッターが閉まっている店。目の前には見知らぬ男二人。さっさと解放して欲しかったことから恐る恐る口を開くと、正面の男は「えっ」と声を上げ、目を見開くのだ。
「君、もしかして男?!·····あ、そっか、あそこって男子校かー!·····なあ、どうする?」
「いや、これだけ可愛ければ俺は男でも全然イける」
「やっぱり?!俺も!·····ね、誰か探してたんでしょ?もしかしてカレシ?おにーさん達も探すの手伝ってあげるよ」
「いや·····、一人で大丈夫なんで·····」
この流れでついて行く奴があるか。すると、
「人数は多い方がいいじゃん。·····ね、行こ?」
と手を掴まれるのだ。
これは、灰田を探す以前の問題かもしれない。
「ーーなあ、もうそろそろ·····」
もう片方の奴が俺の正面の奴に目配せすると、「分かってるって」と、そいつをちらっと見やるのだ。
そして、にこっと作ったような笑顔で俺に向き直った。
その貼り付けたような顔が、なんとも不気味で仕方なかった。
「はーい、ちょっとごめんね」
すると突然、目の前の男が俺の背後に回り込んで来たと思えば、「静かにしてね」と下腹部に手を回してくるのだ。
服越しに這う他人の指先に、ぞくぞくと寒気がしてかなり気持ち悪かった。
「っ…!」
男から逃れようと体を捻るが、暴れられないようにかもう一人の男に手を掴まれてしまうのだ。
「·····おにーさん達さ、あんまり気が長くないんだよね。大人しくついて来てくれる?」
「あんまり暴れられたら·····、勢い余ってここで服脱がしちゃうかもしれないしさ」
耳に手を当て囁いてくる男に背筋が震えたと共に、こんな厄介な奴らに絡まれるなら、最初から朝日に正直に話してついて来てもらうべきだったと、酷く後悔した。
「そーそー。大人しくしててね。とりあえず、あっちの人が少ないところに、ね」
行こうか、と腰を抱かれた時だった。
「ーー咲良!!」
やけに聞き慣れた声が二つ重なって聞こえたと思えば、横から伸びてきた手に、力強く手首を掴まれたのだ。
ーーこの声、間違いない。
振り返ると、そこには息を切らしている朝日と灰田がいた。なぜ二人でいるのか疑問に思ったが、まずは助けてもらえる、ということに酷く安心した。
「誰だ、こいつら」と灰田が男二人を睨むと、そんな鋭い視線を向けられた奴らは完全に怖気付いたようだった。
そして「クソ···ッ」と朝日と灰田を悔しそうに睨んだ奴らは、そそくさと人混みへと消えて行った。
ともだちにシェアしよう!