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 ーーこれほど空気が重苦しいことは、きっとこの先ないだろう。  俺も朝日も生徒会の業務の途中で抜けてきてしまったことから、まずは仕事をしながら朝日に説明をして、後日灰田とも話をしようとしていたのにーー  俺の隣に朝日、テーブルを挟んだ向かい側に灰田。この重苦しい空気の中、もちろん誰も口を開こうとしない。そしてそれは俺もだ。  朝日が、灰田に話があるから来いと生徒会室に連れて来てしまったことから、俺はまず何から話せばいいのか分からず、完全にパニックになっていた。  そんな沈黙の状態が数分間続いていた時だった。  ーーガチャ 「あれー?もう戻ってきてたんだ?早かったねえ」  タイミング悪く空気の読めない類と那智が入ってくると、朝日は怪訝な顔をするのだ。 「·····白々しいな。あんたらもあの場所にいただろ。俺らより先に来てたならなんで咲良のこと助けなかったんだよ」  すると、類と那智はびくっと肩を震わせた。そんな二人の額には変な汗が流れ出ていた。 「な、なんのこーー」 「咲良からそう遠くない所にいただろ。あれは間違いなくあんたらだった」 「·····大方、ぎりぎりのところで助けて咲良に恩売ってエロいことでもしてもらうつもりだったんだろ」 「っな··········ッ!」  正直、生徒会のあれこれに巻き込まれてそれなりのピンチには慣れてしまったところではある。  だが、さすがに今回ことは黙ってられなかった。ソファから立ち上がった俺は何も言えずに顔を逸らす二人の目の前まで行くと、キッと二人を見上げた。 「なんだよエロいことって·····ッッ!!具体的に言ってみろ··········ッッ!!」  ーーいやそっちかよ!!  この場にいる全員の思考が一致したが、誰一人として言葉にはしなかったのは、それほど咲良は真剣な表情をしていたからだ。  そんな咲良に向かってへえ、と那智は口を開くのだ。 「なんだ咲良、どんなことか興味あるのか」    にやっと口角を上げ妖しい笑みを浮かべる那智に、咲良は頬をじんわりと赤らめた。 「え、·····と·····、今後朝日とのことに、参考にさせてもらおうかと·····」  すると那智と咲良の間ににゅっと顔を出した類は、え~、と咲良と朝日を交互に見ると、口元に手を当て、不敵に微笑むのだ。 「俺達が咲良ちゃんのこと助けてたら、みんながいる前で全裸になってご奉仕してもらおうと思ってたんだけど、咲良ちゃん、朝日くんにお願いされたらそんなこともしちゃうの~?」 「··········っ!··········お、俺は········ッ、朝日がどうしてもって言うなら、その··········」  もはや咲良の顔は茹でダコのように真っ赤になっていたが、同じく頬を染めている朝日はガタッと立ち上がると、ぐっと咲良の手を引くのだ。 「·····咲良、そういうのは興味ないわけじゃないけど、俺らは普通にしよう。···な?」  ーー興味ないわけじゃないのか·····  あの那智と類でさえも朝日の性癖に引いている中、今まで黙っていた灰田が「なあ」と口を開いた。 「その感じだと、あんたらも咲良のこと好きなんだろ?そういう話目の前でされてなんとも思わないのか」 「しかも朝日の前で咲良に変なこと言うし·····」 「ん?あー··········、なるほどねえ··········」  灰田に視線を向けると、類は何かを察したように笑うのだ。 「灰田くん、だっけ?そりゃあ咲良ちゃんを自分の物にしたいなって思う時もあったよ?」 「でも俺らに付け入る隙はないから、たまーにちょっかいかけるだけで今は満足してるかな」  類の言葉にうんうんと頷きながらも那智はところで、と灰田を見やるのだ。 「"も"ということは、君も咲良のことが好き、ということでいいかな、灰田」  灰田はぴくっと肩を揺らすと、俺と視線が重なった。そしてぱっと顔を逸らされると、変な汗をだらだらとかき始めるのだ。  そんな灰田の様子を見た類は、 「俺、分かっちゃったかも」 と、俺と灰田を交互に見るのだ。  ーーなんか、かなり嫌な予感がするんだが。 「もしかして咲良ちゃん、灰田くんと寝た?」  類の発言に俺と灰田は凍り付いたと共に、どのような表情をしているのかは分からないが朝日から向けられている視線が恐ろしくて、俺は朝日を前に顔を伏せることしかできなかった。

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