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「ごめん、朝日·····!」
類の発言により生徒会室を沈黙が襲ったが、あまりの静けさに耐えられなくなってしまった俺の声が、シーンと静まり返った生徒会室に響いた。
その間、俺は相変わらず朝日の顔は見ることはできなかった。
「言わないとって思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて·····。浮気って思われても仕方ないことをした。本当、ごめん·····」
泣きたいのは朝日のはずだ。なのに、目頭が熱くなってきてしまう。
泣かないようにしなければと思えば思うほど込み上げてきてしまう涙が呆気なく頬を伝って零れ落ちると、ふわっと温かい体温に優しく体を包まれるのだ。
「咲良。大丈夫だから、落ち着け」
「っ·····、ぅ·····っぅ········」
な?と優しく頭を撫でてくる朝日の優しさに嗚咽が漏れると、灰田が「俺のせいなんだ」と、重々しく口を開くのだ。
「咲良は、嫌がってた。部屋に泊まりに来た時も、俺が悪かった」
「·····は、やっぱ泊まった時してたのか。嫌がる相手に無理やりやって、悪かったで済まされるわけ?」
「··········てか、ちょっと待て。"時も"ってなんだよ。·····まさか、体育館倉庫の時もやったのか··········?」
ーー朝日、めちゃくちゃ怒ってる。
ごしごしと頬を拭った俺は、歯をギリッと噛み締めながら、灰田を今にも殴りそうな勢いの朝日の服をきゅっと掴んだ。すると、朝日は俺に顔を向けるのだ。
「まって、朝日······っ、灰田のせいじゃなくて··········っ」
「··········咲良もさ、灰田にはなにもされてないって言ってただろ、なんで未だに庇うんだよ。もしかして·····、灰田のこと好きなのか?」
「違う·····!好きじゃないから·····ッ!」
「·····倉庫の時は本当に事故で、泊まった時は寝ぼけて朝日だと思って灰田に抱き着いちゃって·····」
「·······入れられては、ないから、それは本当だから…ッ。嘘ついて、本当ごめん·····」
「入れられてない、か·······。正直、信じられないんだけど?だってさっきもさ、灰田こと追いかけて出てったんだろ」
「本当だから·····!俺はただ、灰田に嘘付いたことを謝りたくて·····!」
すると、灰田と視線が重なった。
「·····やっぱり、"生徒会と全員寝てる"って噂は本当だったのか、咲良」
「え、と··········」
灰田の返答に困っていた俺は咲良、と脇から伸びてきた手にぐっと腕を捕まれて振り返ると、朝日の顔が目の前にあった。思わず後ろに一歩下がると、掴まれている手を力強く引かれてしまうのだ。
「·····今は俺と話してんだろ。なに他の男と目ぇ合わせてんだよ」
「え、ーーんん·····ッッ」
後頭部に手を回され引き寄せられると、熱い唇が重なった。
「は·····、ぁ、っ·····」
逃げられないようにか腰に腕を回され、ついばむような短いキスを何度も落とされてしまう。
朝日の熱い息に口内を埋め尽くされると頭がぼうっとしてくるが、視界の端で灰田と目が合い、はっとした。
「っ、まっ·····、て、あさひ········っ」
ぐっと朝日の肩を押すと、朝日はなんだよ、と分かりやすく顔を歪めるのだ。
「ここじゃ、ちょっと·······」
「·····俺に言われたら見られながらでもいいってさっき言ってただろ」
「っ、それは·········っ、」
先程から終わる気配のない俺と朝日のやり取りを、他の奴らは黙って見ているようだった。すると、同じく傍観していた類は、仕方ないなあと息を吐くのだ。
「ほらこれ、空き教室の鍵。灰田くんには俺達から説明しといてあげるから、ちょっと二人で話してきなよ」
珍しく気を利かせてきた類はこちらに鍵を投げると、ちっと舌打ちをした朝日はそれをパシッと手で取り、深く息をはくのだ。
「行くぞ、咲良」
手を取られ、戸惑いながらも朝日にぐいぐい手を引かれながら、俺と朝日は生徒会室を後にした。
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