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第2話

 一日目。 「んじゃ、一緒に寝ますか?」 「お、おぅ……」  晩飯や風呂を済ませた後、一緒にリビングで映画を見終わり遼平からそう声をかけられる。  今日から昨日提案されたポリネシアンセックスなるものを試すのだけれど、今一どういうのか解らなかった俺は、仕事の休憩時に一人で検索してどういうものなのかリサーチしていた。  普通のセックスやスローセックスとは違い、精神的繋がりに重きを置いたものになるらしい。  それに期間が長く四日間はお互いにイチャイチャするだけで、遼平も言っていた通り性器に触れる事はNG。その他の部位を愛撫したり、会話したりを楽しんで今までよりもより絆を深めていくって感じなんだと。  で、五日目でやっと性器に触れたり行為に及ぶというワケだ。  その一日目が今日からなんだが……、今日から五日間俺は遼平の部屋で一緒に寝る事になっている。それはまぁ……、遼平の部屋のベッドがアイツサイズでデカい事が一番の理由なんだけど……。本当に最近は遼平と一緒に寝る事も無かったから変に緊張するというか……。  同棲を始めた当初、遼平から寝室は一緒にっていう提案があったんだが、俺はそれを丁重にお断りしていた。  俺が社会人になってからの同棲って事もあり、仕事でどうしたって遼平よりも遅くまで起きて、朝は遼平よりも早く家を出る事が多い。そうなるとゆっくり寝かせてやれね~よなとか、俺なりに色々考えて出した結論なんだけど……。  それに、もし遼平の友達やおじさん、おばさんとかが泊まりに来た時の事を考えたりしたらその方が良いって結論になったワケだ。  ケド、遼平はこの家に友達を呼んだ事は無いし、泊まりにも行った事が無い。遼平のおじさん、おばさんも中に入ってお茶を飲む事はあっても泊まりまではした事が無いし……。  前に一度遼平には『友達のトコに泊まりに行っても良いんだぞ?』と言った事があるが、そう言った途端に何故か不機嫌になって、泣いても離してくれなくて抱き潰された事がある。だからそれ以降は何も言わずに、遼平のしたいようにさせているけど……。  なんかさ、勿体無ぇって思ってしまうのは俺だけかな? 折角気の合う友達が出来ても、遼平の中では俺が最優先。そりゃぁそう思ってくれたり、思うがこその行動はメチャメチャ嬉しいんだけどさ、その歳でしか出来ない楽しみ方も勿論あるワケじゃん? 羽目外し過ぎるのもどうかと思うけど、遼平に限ってそんな事にはならないって信頼してるから、たまには目一杯友達と遊んで欲しいって気持ちもあるワケ。 『俺なりにちゃんと楽しんでるし、遊んでる』って言われてしまえば、それ以上俺的には何も言えないし……。 「郁哉? どうした?」  いつまでもリビングでまったりしている俺に、遼平が立ち上がって俺を見下ろしながら言ってくるから 「イヤ、何でも無い。寝るかぁ……」  ヨッコイショ~。と重い腰を上げて立ち上がり、遼平の後に続いて部屋へと向かう。  ドアを開けて中へと入ると、綺麗に整頓された部屋がお出迎えしてくれる。本当、俺の部屋とは大違いだよな。と、入る度に同じ感想を思ってしまう。俺の部屋は仕事の書類が散らばってたり、雑誌が山積みになってたり、テーブルの上には飲みかけのペットボトルがあったり……。  イヤ……、思い出すまい。  きちんとベッドメイクされている上に腰を下ろした俺の目の前で、遼平は早速着ていたスウェットを脱ぎ始めていて 「郁哉も早く脱ぎなよ」 「ん? ……おぅ」  スウェットから覗いた逞しい体躯。  運動部らしい鍛えられた腹筋、血管の浮いた逞しい腕に、ハリのある太腿。  久し振りに見る恋人の裸に目が逸らせなくなった俺の視線に気が付いたのか 「郁哉?」  遼平がキョトンとした顔で俺に呟いてきて、俺はハッとなり急いで遼平から視線を逸らす。  俺が不自然な感じで目を逸した事で何を勘付いたのか、遼平は側まで近付いて来ると 「脱がせて欲しい?」  ニコニコとした笑顔を浮かべながら俺が着ているパジャマに手を伸ばしボタンを外そうと指先を動かすので 「ッ……じ、自分で」  出来る。まで言う直前で遼平はパッと指先を引っ込めると 「早く入ろう?」  スッと俺の横からベッドへと上がり、イソイソと奥まで詰めると掛け布団を捲って俺が来るのを待っている。  俺は焦りながらモタモタとパジャマのボタンを外して、スルリと肌から布を滑らす。そうしてパンツも脱ぎ捨てると、遼平が空けてくれているスペースへと潜り込むと 「はぁ~……、なんか久し振りだなこうやってるのも……」  隣に俺が入るとすかさず遼平の腕が俺の頭の下に伸びて腕枕される。 「だな……」  ………………本当に久し振りだと思う。こうやって遼平と同じベッドに寝るのも。  クルッと俺は遼平の方へと向きを変え、ジッと俺を見ている視線と目が合う。 「へへッ」  嬉しそうに口元が緩みっぱなしの恋人の顔を見て、あぁ、遼平も寂しかったのかな? なんて思ってしまう。  結局、俺の事を優先させてしまうって事は遼平には我慢させている事が多いって事だ。  俺も久し振りに遼平の温もりに包まれ、安心している部分もあるし……。  ブワッと感情が溢れて、俺は腕枕されている腕にスッと手の平を置いてスリスリと撫でると 「ッ……」  途端に遼平の息が上がった感じがして、少し伏せていた視線を上げれば俺に対して欲情していると解る表情がある。  遼平のそんな顔を見るのも久し振りで、自然とゴクリと喉を鳴らしてしまった俺に対して、少し失敗した苦笑いを浮かべながら 「コレ……今日はキスも出来ないから……結構辛いな……」  欲求と理性のせめぎ合いを苦笑いで誤魔化そうとしている顔が、逆に可愛くて胸をギュウゥッと締め付けられる。  ぅ゛あぁ~~~ッ、ワンコがお預け食ってる顔って、なんでこんなに可愛いンだよッ!  あるはずの無いケモ耳が頭の上でペショッてなってるように見えるのは、俺だけか!?  ワックスでセットしていない色素の薄いフワフワな髪を撫で回したい衝動に勝てず、俺は腕から手を離して遼平の髪に指を差し込むとワシャワシャと左右に手の平を振る。 「チョッ、何だよ郁哉~」  構われて嬉しそうに声を上げる遼平の反応に気を良くして、俺が際限無くワシャワシャしていると笑顔の遼平に手を掴まれて逆にガバッと抱き込まれる。 「うぉッ、遼平苦しいって!」  腕枕していた手が俺の肩口を抱き込み、もう片方が背中に回って力強く俺を抱きしめるから、俺は笑いながらも苦しい事を投げ掛けるが、遼平は無言のまま脚まで絡めてきて身動きが出来なくなる。 「お~い、遼平。聞いてんのか?」  俺も片腕を遼平の背中に回してポンポンと叩くが、首筋に埋められた顔から何かを言う事無く暫く遼平は黙ったまま。  俺は恋人の好きなようにさせ、ポンポンと叩く動作から背中を撫でるように変えて甘えさせている。首筋の所が遼平の息で熱く感じられるようになってきた頃、やっと遼平は顔を上げて 「俺さ……、別れたくねぇよ?」  ボソリと呟いた突然の台詞に、俺はバッと顎を下げて遼平の顔を覗き込む。 「え? 何を……突然……」  視線を合わせた先に揺れている目とぶつかって俺は息を飲む。その台詞をお前が言うのか? と思ったが、次いではそう言わせてしまったんだと俺は眉間に皺を寄せて 「……ごめん、な?」 「なんのごめんだよ……。図星だったって事か?」 「イヤイヤ、ンなワケね~しッ! どっちかと言えば、俺の方が遼平に聞く方だろ?」 「そぅ、なのか?」 「そうなんですよ」  溜め息を吐き出しながら、俺は遼平の頭の上に顎を乗っけて今度は自分の方へと抱き寄せると 「お前に甘え過ぎて、今回遼平から意味深にコレの提案される時に別れ話かと思ったしな」 「マジで?」 「マジで。別れ話されたら全力で拒否ろうとは思ってたから、コレで良かったって安心したし……」  言い終わって頭の上に乗せていた顎を外し、再び遼平の顔を覗き込んでからここはキスの一つでもするところだろうと、俺は顔を近付ける。 「厶ッ……」  だが、近付く速度と同時に伸びてきた遼平の手の平で口を塞がれ 「だから、今日はキス出来ないんだって」  と、ニッコリ笑いながら言われてしまえば 「ムグムムッ、ンムム、グンムムンンムムッ」  嘘だろッ、ここは、キスするとこだろッ! っていう言葉は、くぐもって台詞にならない。 「ハハッ、何言ってんのか解んね~しッ」 「……ッ、言わせなかったんだろッ!」  プハッと手から逃れて言う俺に、一瞬後には遼平の表情も笑いから真剣なものになって 「俺もしたいけど、折角郁哉が提案に乗ってくれたし……今日は我慢な? 明日からはキス出来るから明日、一杯しようぜ?」 「ぅンム~……」  最後にニコリと笑顔で言われてしまえば、俺に拒否る事なんて出来ない。遼平に言われて素直に従う俺に、スススと手の平が伸びて俺の背中を優しく上下に撫でると 「今日は沢山話して、郁哉の体をナデナデしたいなぁ~」  甘えた声で囁かれ、ボッと自分の顔が赤くなるのを感じるが、俺も遼平の体に手を伸ばして 「俺も堪能するからなッ!」  少しの恥ずかしさをそう言う言い回しで誤魔化し、遼平の肩口に手をあてる。そのまま逞しく張った胸筋へと滑らせてまた元の肩口まで戻ると、今度は首筋から顔に指先で辿って遼平の顔をマジマジと見詰める。  高校生の時の遼平はまだ幼さを残した顔立ちだった。顎も今よりは細く頬も少しふっくらしていた。けれど今はもうその面影は無い。  何時の間にかしっかりと髭も生えるようになった顎は細くは無いし、頬もふっくらよりはシュッとしたって表現の方が似合う。垂れ目気味の奥二重に長い睫毛、筋の通った鷲鼻。唇は俺よりも厚く、キスすると弾力が気持ち良い。  眉毛は一体いつ整えているのか細くも太くも無い一本眉で、綺麗に切り揃えられている。 「……………、男前だよなお前……」  こんなにもマジマジと見詰める事も無かったから、改めて恋人の顔を見て溢れた台詞に、遼平は嬉しそうに口元を歪めて 「郁哉のタイプの顔で良かった」  と、背中に回した手を俺の頬に持ってきてスリッと撫でる。  ウン。タイプなんだよな、お前の顔。それに性格だって俺好みだしさ、言う事無いんだよ……。 「俺も郁哉の顔、タイプだよ。綺麗だし」 「女顔って言いたいんだろ?」  俺は遼平とは違って女顔だ。  顎も細ければ鼻筋も通っているとは言え少し小ぶりだ。目も一重のくせにデカくて睫毛が下向いてるから、よく目の中に入って悶絶する。眉毛も半月形。格好良い遼平みたいな眉毛が良かったが、この顔に遼平みたいな眉毛も変だろ? 唇は小さいし薄い。 「女顔かぁ? 綺麗系だろ?」 「体だって、お前みたいに筋肉付かないし……」  言いながら再び胸筋から腹筋へと手を滑らせていくと 「それだって体質だろ? 俺は好きだけどなぁ」  俺同様に遼平も俺の胸から腹にかけて手をあてて撫でると、プニッと腹の肉を摘んで 「太っても痩せても無い、良い体じゃん?」  と言ってるが、摘んでんだよ。俺の腹をッ!!  バシッと摘んでいる指を払い落としキッと睨み付けるが、睨んだ先の顔はへニャリと嬉しそうな顔で……。 「なんつ~顔してんだよお前……」  遼平のそんな顔を見ては、睨む事も出来ずに呟くと 「イヤ~、本当久し振りだからさこうやって郁哉とイチャイチャ出来るの」 「まぁ……そうだな」  気不味そうに呟く俺に苦笑いを浮かべて 「嫌味じゃ無くてさ。プロジェクトチームに入って忙しそうだったし、後半は繁忙期と被って更に大変そうでさ……体壊すんじゃ無いかって結構ヒヤヒヤしてたし」 「けど……お前に甘えて家事とか諸々任せっきりだったし……構って、やれなかったし?」  モゴモゴと口の中で呟いた俺に遼平は再び手の平で俺の体を撫でながら 「ン~~、ケド頑張ってんのにさ、色々しろとは言えないし。それに俺がしたかったから……。まぁ結局不安になってたんだけど……」 「ごめんな……」 「も~~~、謝るのは止めよ?」  グリグリと俺の肩口に額を押し当てて首を振る恋人の頭を、俺も手の平で優しく撫で返し心の中で沢山のありがとう。を呟く。

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