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第3話 初めてのキスはたまご粥の味がしました。

「薬ここおいとくからな。ちゃんと水分も取るんだぞ」 「ありがとう。お粥もごちそうさま」  頭の痛みが引いてきた旭は、卵かゆを完食出来るくらいには体調が良くなっていた。  器を片付けようと立ちあがろうとするが、それを敦に肩を掴まれ止められて驚く。 「俺が片付けるから、病人はソファでゆっくりしてな」  敦は微笑みながら水の入ったコップを旭の前に置き、器を持つとキッチンへと行ってしまった。  あんなに酔って迷惑かけたのに、お粥を作って看病までしてくれる面倒見のいい敦を旭はますます好きになっていた。 (諦めるって決めてたのにどうしよう……)  思い出せば、これだけ長く片思いしているのは敦が自分に甘すぎるからで、諦めようと思っても諦められないように流されてきたからだ。  言われた通りに薬を飲み、ソファに寝っ転がった旭は窓の外に目をやる。  綺麗な雲が流れている穏やかな晴天だった。  夏休みに入っているのか、昼間から子供のはしゃぐ声が聞こえる。  ぼんやりしながら外を見ていると、洗い物を終えた敦が枕元に座った。 「具合どうだ?」  顔を覗き込まれながら上から見下ろされ、目が合い、胸がドキッと跳ねる。  昨日から敦と目があってばかりなのは気のせいだろうか。 「敦のおかげで、大分良くなったよ」 「良かった。あんな飲み方する旭初めて見たから驚いたよ」  ふと、酔った自分が何をしたのか気になり旭は敦にきく。 「ところで、酔って大変だったって俺、何かしたのか?」  敦の表情が一瞬固まる。  やっぱり何かしてしまったのかと旭が不安で顔を逸らすと、敦はため息を吐いてから口を開いた。 「あぁ、ずっとエロい話ししてた。これまで旭、全くそういう話しなかったから性欲あるんだってなんか感動したけど」 「え、エロい話……」  何もしてなくて良かったという安堵と、なんて話をしてしまったと言う恥ずかしさで旭は間抜けな声を出してしまった。 「エロい話って具体的にどんな?」  心配になり、敦の顔を見ながら眉を下げる。 「おっぱいは筋肉質な方がいいとか、ち◯ぽはデカイ方がいいとか」 「お、俺そんな事!?」  予想していたよりもずっとエッチな事を言っていて、旭は恥ずかしさで手で顔を隠した。  穴があれば入りたい気分だ。  敦はそんな旭を上から真剣な表情をしながら覗き込む。 「あぁ。ところで、ずっと男の体の話ばかりしてるから不思議に思ったけど、旭ってゲイなのか?」 「そっそれは……」  言ってしまってもいいはずなのにいざ、敦にカミングアウトするとなると旭は言葉に詰まってしまう。  敦は落ち着いた表情で、泣きそうな顔をしている旭の頭をゆっくり撫でながら口を開いた。 「その様子だとそうなんだな。大丈夫、俺もだから」  旭は目に涙を浮かべた。 「そうだったのか……良かった……」  敦はそれを指の腹でそっと拭う。 「打ち明ける時、やっぱり心配になるよな」 「あぁ」  敦がゲイであったからと言って自分が付き合える訳ではないが、隠していた事を敦に言えて旭は心が晴れた気分だった。 「で、旭がもし酔った勢いで俺のアナル傷物にしたとして、俺が責任取って付き合えって言ったら付き合う気だったのか?」  頭に置いていた手を離し、真剣な表情をしながら敦は問う。  もしもの話だがちゃんと答えなければいけないと、旭は上体を起こして真剣に答えた。 「もちろん、その気だけど」  敦は息を吐きながら旭と距離を縮めた。 「付き合うってどういう事か分かってるのか?」  顔を覗き込まれる。  目を合わせながら至近距離まで顔が近づいてきて、心臓がドキドキとうるさく鳴る。 「それくらい子供じゃないんだし分かってるよ。キスとかするって事だろ」  からかってるのかと旭は眉間に皺を寄せた。 「じゃあ……」  敦は旭の唇に指を置くとさらに距離を詰めた。  何が起こったか分からない旭は目を見開きながら敦を見つめる。 「俺とキス出来るって事か?」  一瞬にして旭の体が火照った。  キスどころかセックスも敦となら出来てしまえるが、そんな事は恥ずかしすぎて言えない。 「まあ、出来なくはないけど」  これ以上、敦に至近距離で見つめられたらどうにかなってしまいそうで目を逸らす。  敦に気持ちを伝えるせっかくのチャンスなのにこんな時まで素直になれない自分に嫌気がさした。 「じゃあ」  唇から指が離され今度は頬に手を置かれ息がかかる距離まで顔が近くなる。  あまりの顔の近さに恥ずかしくなり、旭はぎゅっと目を固くつぶった。  敦の普段使っている柑橘系のシャンプーの香りが鼻をくすぐる。 「試しにしてみるか?」 「えっまっ……んんっ……」  抵抗も虚しく、敦の柔らかい唇が自分の唇と重なる。 (どうしよう、俺、敦とキスしてる)  そっと目を開いて見ると敦の目と合う。  雄っ気のある獲物を狙うような眼差しに、旭は下半身を熱くさせてしまった。  ずっと敦とする事を妄想してオナニーをしていた旭だったが、それと比にならない快楽に戸惑う。  そっと唇を離され、息をする。 「どうだった?」 「嫌ではなかった」  本当はとても気持ちが良かったが、そんな事を旭は言えなかった。

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