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第10話 後は好きって言ってもらうだけだな。

 唇が離され、目が合う。  吸い込まれそうなほど透き通っている敦の目に旭が釘付けになっていると、そっと背中を撫でられた。 「旭と両思いだったなんて、俺本当に嬉しい」  これまで見たことがないくらいとろけそうな笑みを浮かべる敦に、旭も本音が溢れてしまう。 「俺も。もうダメだと思ってたから」 「もう、ダメって?」  涙目になっている旭に、敦は優しく問いかけた。 「昨日、気になる人いるって言ってただろ」 「あぁ、気になる人って旭のことだけど。もしかして、昨日様子がおかしかったのそれでか?」 「そうだけど……」 「普段酔ったりしない旭が酔うくらい呑むから何があったのか心配してたら、そういう事か。俺も旭が気になる人がいるって言うから焦ったよ」  敦の体温と背中を摩る手が気持ちよくて、旭は目を細める。  出した液体を拭いていないのにまだ抱き合っていたくて、旭はずっと疑問に思っていた事を質問した。 「それにしてもこれまで全然俺の事好きそうな素振り見せなかったのに、いつから俺の事好きだったんだ?」 「いつからって仲良くなってすぐくらいから。ずっとアタックし続けてきたのに旭気付かないし」 「え!?俺、敦に何かされたっけ」  必死に過去の記憶を遡ったが、思い当たるふしがなかった。  必死に思い出している旭に、敦は呆れ気味に答える。 「あのなー。普通、好きでもない人と二人っきりで家でご飯食べないだろ。ましてや手作りなんかしないし。それに泊まりで寝る時も一緒のベッドでくっついて寝るなんて恋人じゃなきゃしないだろ」 「え、あぁそうなのか。てっきり誰とでもやってるのかと」 「するわけないだろ。旭にだけだ。そこまで許してるのにキスしようとすると不思議な顔するし」 「って事は、俺が勘違いしてなければこんな悩む事もなかったのか」  落ち込んでいる旭の頭を敦は撫でる。 「まぁ、遠回りはしたけど両思いにはなれたしいいってことにしような」 「そうだな」  旭が敦にぎゅっと抱きつくと、敦は腰に手をまわした。 「後は好きって言ってもらうだけだな」 「それは、恥ずかしいから嫌だ」 「えーっ。もっと恥ずかしいこと言ってたのに」  理性が飛んでいた時の事を思い出した旭の顔が、一瞬にして赤くそまっていく。 「それはそれだって言ってるだろ!」 「照れて怒ってる旭も可愛いな。旭はいつから俺の事意識し始めたんだ」  敦は旭を宥めるように腰を撫でた。 「はっきりと意識し始めたのは、初めてプランニングした時に緊張してたのを和らげてもらった時だけど」 「旭は色々考えすぎるからな」 「失敗しない人間なんていない。大事なのは失敗から何を学ぶかだって言われて、なんか気が楽になったんだ」  旭は顔を赤くしながら、昔の事を思い出して幸せそうな顔をした。  それを見て、敦も幸せな気持ちになっていく。 「そうか。役に立ててよかった。そういえば、その辺りから旭と目が合う回数増えたし、誘いにもすぐ乗ってくれるようになったな」 「よく覚えてるな。なんか恥ずかしい」  旭は真っ赤になった顔を隠すために、敦の肩に顔を埋めると、頭を撫でられる。  大きくてあったかい手が、たまらなく愛おしい。

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