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第26話 早く明日にならないかな
「また、一緒にここに来ような」
「そうだな。その時は夕日見ながら束縛セックスしたいな」
「お前なっ!いい雰囲気だったのに!」
「柵に旭の手首固定させて、バックから突くの夢なんだけど、ダメか?」
「こんな誰が見てるか分からないところで、ダメに決まってるだろ!」
「えーっ。エレベーターと同じようなもんだと思うけど」
「全然違う!ここは外だろ」
「まぁ、旭と一緒に夕日見られるならいいか」
そう言って笑う敦を見て、本当にこいつには敵わないなと旭は思ったのだった。
「なぁ、敦。もう一回キスしたい」
「いっ、いいのか!?」
「舌は入れたらダメだからな」
旭が目を閉じて待っていると、敦はゆっくりと顔を近づけていく。
二人は夕焼けに染まった街を背景に、長くとろけるような甘い口付けを交わした。
階段を降りながら、屋上を後にする。
ビルから出ると、再び恋人繋ぎをしながら繁華街を歩く。
夜に近づいているからか、街はさっきよりも人出が多く賑わっていた。
「人多いし、ちょっと手繋ぐの恥ずかしいかも……」
旭が恥ずかしそうに俯くと、敦は繋いでいた手に力を込めた。
「誰も見てないから、気にするなって」
「でも、敦は目立つしその……」
「その?」
「イケメンだから声かけられる事もあるし」
恥ずかしそうに言う旭に対して、敦は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「へぇ。そういう風に思っててくれたのか。めちゃくちゃ嬉しい」
「そうじゃなくて、恥ずかしいって……」
「俺がイケメンか。まぁ、確かにモテるしモデルにスカウトされる事はあったけど、旭にそう言ってもらえるなんてな」
デレデレとした顔をしながら頭を掻いている敦を、旭は呆れた顔で見つめた。
(完全に人の話聞く気ないな)
そう思いながらも嬉しそうに喜んでいる敦を見て、自分も嬉しくなってしまうのだからしょうがないなと、旭は諦める事にした。
「分かった。手繋いだままでいいよ」
「えっ!やった」
旭が手を握ると、敦は子供のようにはしゃぎながら手を握り返してくる。
その姿に思わず笑みが溢れてしまう。
「本当は今日の夜も一緒に居たいんだけどな」
「明日、仕事だろ。それに、もう体力も残ってないからな」
「襲わないって約束するから。なっ」
「絶対襲うだろ。それに今日は自分のベッドで寝たい」
「じゃあ、俺が旭の家行く」
「ダメ」
「ちぇっ。じゃあ今のうちに旭のこと堪能しておこう」
「ちょっと!?近いって」
突然、肩がくっつくほど近くに引き寄せられて驚く。
「いいだろ、これ以上の事はしないからさ」
「な、ならいいけど」
そう言うものの、満更でもない旭は顔が赤くなっていくのを感じた。
そんなやり取りをしているうちに、あっという間に駅に着いてしまう。
「また、後でLINEするから」
「分かった。明日は仕事場で一緒だけどくっつくなよ」
「分かったよ。人が居ない時はいいんだよな」
「まぁ、人が居ない時はな」
「やった!」
「じゃあ、俺こっちだからまた明日な」
改札の前で別れようと旭が手を離そうとすると、敦は手を握り返して引き止める。
振り返ると真剣な表情をした敦と目が合って、旭はドキッとしてしまった。
そのまま手を引かれて駅のホームの端の方へと連れていかれると、そのまま強く抱きしめられる。
「しばらくこうしてていいか?」
耳元で甘く囁かれた旭は心臓が高鳴るのを感じると、頷いて背中に手を回した。
「今日は本当に楽しかった。こんなに楽しいデート初めてだ」
「俺も楽しかったよ。お互い初めてだらけだな」
「あぁ。俺さ、今まで生きてきた中で今が一番幸せかも」
「大袈裟だな」
「そうかな。本当に好きな人と両思いになって初めてのデートしたんだからそう思うだろ」
敦の言葉に胸がキュンとなって切なくなった旭は、回している腕に力を込めた。
「そんな事されたら、離れたくなくなるだろ」
敦も同じように強く抱きしめると、二人の鼓動が重なり合う。
「じゃあ、キスしたら離れような」
旭が顔を上げると、敦の顔が近づいてくる。
ゆっくりと目を閉じると、唇に柔らかい感触が伝わってきた。
啄むようなキスを何度もされる度に、だんだんと体が熱くなっていく。
このまま時間が止まればいいのにと思いながら、敦のキスを受け入れていると、電車が到着するというアナウンスが聞こえてきた。
名残惜しそうに唇を離すと、お互いの額をくっつける。
そして、最後にもう一度だけ触れるだけのキスをした。
「それじゃあ、また明日な」
「あぁ。おやすみ」
そう言うと、敦は手を振りながら改札へと歩いて行った。
その後ろ姿を見送った後、旭も自分の最寄りの路線の改札に向かって歩き出す。
さっきまで隣に居たのに、もう逢いたくて仕方がない。
(早く明日にならないかな)
そんな事を考えながら歩く足取りはとても軽かった。
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