25 / 49

第26話 早く明日にならないかな

「また、一緒にここに来ような」 「そうだな。その時は夕日見ながら束縛セックスしたいな」 「お前なっ!いい雰囲気だったのに!」 「柵に旭の手首固定させて、バックから突くの夢なんだけど、ダメか?」 「こんな誰が見てるか分からないところで、ダメに決まってるだろ!」 「えーっ。エレベーターと同じようなもんだと思うけど」 「全然違う!ここは外だろ」 「まぁ、旭と一緒に夕日見られるならいいか」  そう言って笑う敦を見て、本当にこいつには敵わないなと旭は思ったのだった。 「なぁ、敦。もう一回キスしたい」 「いっ、いいのか!?」 「舌は入れたらダメだからな」  旭が目を閉じて待っていると、敦はゆっくりと顔を近づけていく。  二人は夕焼けに染まった街を背景に、長くとろけるような甘い口付けを交わした。  階段を降りながら、屋上を後にする。 ビルから出ると、再び恋人繋ぎをしながら繁華街を歩く。  夜に近づいているからか、街はさっきよりも人出が多く賑わっていた。 「人多いし、ちょっと手繋ぐの恥ずかしいかも……」  旭が恥ずかしそうに俯くと、敦は繋いでいた手に力を込めた。 「誰も見てないから、気にするなって」 「でも、敦は目立つしその……」 「その?」 「イケメンだから声かけられる事もあるし」  恥ずかしそうに言う旭に対して、敦は嬉しそうに笑みを浮かべる。 「へぇ。そういう風に思っててくれたのか。めちゃくちゃ嬉しい」 「そうじゃなくて、恥ずかしいって……」 「俺がイケメンか。まぁ、確かにモテるしモデルにスカウトされる事はあったけど、旭にそう言ってもらえるなんてな」  デレデレとした顔をしながら頭を掻いている敦を、旭は呆れた顔で見つめた。 (完全に人の話聞く気ないな)  そう思いながらも嬉しそうに喜んでいる敦を見て、自分も嬉しくなってしまうのだからしょうがないなと、旭は諦める事にした。 「分かった。手繋いだままでいいよ」 「えっ!やった」  旭が手を握ると、敦は子供のようにはしゃぎながら手を握り返してくる。  その姿に思わず笑みが溢れてしまう。 「本当は今日の夜も一緒に居たいんだけどな」 「明日、仕事だろ。それに、もう体力も残ってないからな」 「襲わないって約束するから。なっ」 「絶対襲うだろ。それに今日は自分のベッドで寝たい」 「じゃあ、俺が旭の家行く」 「ダメ」 「ちぇっ。じゃあ今のうちに旭のこと堪能しておこう」 「ちょっと!?近いって」  突然、肩がくっつくほど近くに引き寄せられて驚く。 「いいだろ、これ以上の事はしないからさ」 「な、ならいいけど」  そう言うものの、満更でもない旭は顔が赤くなっていくのを感じた。 そんなやり取りをしているうちに、あっという間に駅に着いてしまう。 「また、後でLINEするから」 「分かった。明日は仕事場で一緒だけどくっつくなよ」 「分かったよ。人が居ない時はいいんだよな」 「まぁ、人が居ない時はな」 「やった!」 「じゃあ、俺こっちだからまた明日な」  改札の前で別れようと旭が手を離そうとすると、敦は手を握り返して引き止める。  振り返ると真剣な表情をした敦と目が合って、旭はドキッとしてしまった。  そのまま手を引かれて駅のホームの端の方へと連れていかれると、そのまま強く抱きしめられる。 「しばらくこうしてていいか?」  耳元で甘く囁かれた旭は心臓が高鳴るのを感じると、頷いて背中に手を回した。 「今日は本当に楽しかった。こんなに楽しいデート初めてだ」 「俺も楽しかったよ。お互い初めてだらけだな」 「あぁ。俺さ、今まで生きてきた中で今が一番幸せかも」 「大袈裟だな」 「そうかな。本当に好きな人と両思いになって初めてのデートしたんだからそう思うだろ」  敦の言葉に胸がキュンとなって切なくなった旭は、回している腕に力を込めた。 「そんな事されたら、離れたくなくなるだろ」  敦も同じように強く抱きしめると、二人の鼓動が重なり合う。 「じゃあ、キスしたら離れような」  旭が顔を上げると、敦の顔が近づいてくる。  ゆっくりと目を閉じると、唇に柔らかい感触が伝わってきた。  啄むようなキスを何度もされる度に、だんだんと体が熱くなっていく。  このまま時間が止まればいいのにと思いながら、敦のキスを受け入れていると、電車が到着するというアナウンスが聞こえてきた。  名残惜しそうに唇を離すと、お互いの額をくっつける。  そして、最後にもう一度だけ触れるだけのキスをした。 「それじゃあ、また明日な」 「あぁ。おやすみ」  そう言うと、敦は手を振りながら改札へと歩いて行った。  その後ろ姿を見送った後、旭も自分の最寄りの路線の改札に向かって歩き出す。  さっきまで隣に居たのに、もう逢いたくて仕方がない。 (早く明日にならないかな)  そんな事を考えながら歩く足取りはとても軽かった。

ともだちにシェアしよう!