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第11話 再会

 トーナメントの後も、単発の試合が組まれていた。  賞金を受け取り、シャワーを浴びて着替えを終えたユーシーは客席の奥にあるベンチからリングを眺める。  ウェンリーから受け取ったドリンクとフライドチキンを持って適当なベンチに座る。  緊張感が抜けたところで、腹が減った。  まだ熱いチキンを齧り、リング上で繰り広げられる試合を眺めていると声をかけられた。 「ヘイティエ」  聞き覚えのある甘い低音に心臓が跳ねた。その甘い声は、忘れるわけがない。振り向くとそこにはルイの姿があった。 「ルイ」  こんな所で会うとは思いもしなかったユーシーは、驚きを隠せない。 「また会えて嬉しいよ」  柔らかく笑う色男。上品そうな印象のルイがこんなところにいるのは意外だった。 「なんで、こんなとこ」 「好きでよく観にくるんだ」  あの後、結局ルイには連絡していなかった。  まだ返事も考えていなかったし、ジンたちの許可もなく返事をすることは出来なかった。  なんとなく気まずかったが、ルイはそんなことは気にしていないようだ。 「かっこよかったよ、ヘイティエ」 「観てたんだ」 「うん」 「あんたにそう呼ばれると照れるな。シャオユーでいいよ」 「ふふ、僕もそっちの名前が好き。隣、座っていい?」 「うん」  ルイは嬉しそうにユーシーの隣に座った。  そんなルイの横顔を見上げ、ユーシーはおずおずと口を開いた。 「なあ、まだ、あの返事は……」 「うん、大丈夫。急がなくていいから。大事なことだし、ゆっくり考えて」 「ありがとう」  ユーシーは胸を撫で下ろす。 「シャオユー、まだ試合があるの?」 「試合はもう終わり。ちょっと見てただけ。腹も減ったし」  ユーシーは食べかけのチキンに齧り付く。 「そっか。ねえシャオユー、よかったらこの後、祝勝会をしない?」 「祝勝会?」 「そう。僕の部屋で。どうかな」  甘い記憶しかないルイの部屋を思い出して、腹の奥が疼く。 「いいの」  声が震えた。 「いいよ。シャオユーさえよかったら、ね」  ルイの大きな手のひらが、ユーシーの頬を撫でる。  ひりつく闘いの後、昂ったままの身体に、擦り傷の残る頬に、ルイの指先が触れただけで、もうだめだった。  触れられた場所から、甘い痺れを伴った熱が全身にまわっていく。毒のように、自由が効かなくなっていく。  期待に鼓動が早まる。  ルイの柔らかな微笑みに、腹をすかせた獣のように喉が鳴った。  澄んだ音を立てて、グラスがぶつかる。 「シャオユーの勝利に乾杯」 「ふふ、ありがとう」  ソファに並んで座り、グラスを傾け合う。  磨き上げられた細身のグラスに注がれたシャンパンは、口に含むとフルーティな香りが広がり、舌の上で泡が弾けた。 「おいしい」 「ならよかった」  ユーシーはまた一口、シャンパンを喉に流し込む。 あまり飲んだことはなかったが、美味しいと思った。 「十日くらい前だったかな、君の試合を初めて見て、一目惚れだったんだ」  十日くらい前と言われてユーシーは記憶を探る。十日。ルイに会う少し前。  ハオランとの試合だ。打ち合いがメインで、楽しい試合だったのを覚えている。 「あの試合、見てたんだ。ここ最近のベストバウトだよ」  ここ半年で一番良い試合だったと思っていたので、ルイに言われて少し嬉しかった。 「気高い獣みたいで、美しいと思ったんだ。あの姿が、ずっと頭から離れなくて」  ルイのアイスブルーの瞳が、熱を孕んで揺らめいた。 「だからあの日、君に会えて、嬉しかった」  あの夜、ルイに出会って、一千万を渡されて。  ユーシーにしてみれば、殺しの後の熱を治めるのに相手をしてくれるだけでよかったのに、どういう訳が口説かれて、持て余すほどの金を渡されて。  それもこれも彼の一目惚れのせいだったのかと思うと少し納得した。 「ありがとう。そんなふうに言われたことないから、嬉しい」  自分はいずれどこかで野垂れ死ぬのだと思っていた。ジンたちには必要とされているのはわかる。しかしながらそれ以上に求められることなどなかったし、ないと思っていた。  かつてユーシーを抱いた男の中にも、こんなに求めてくる奴はいなかった。  だから、こんなに熱量をぶつけられると、どうしたらいいのかわからない。 「シャオユー」  ルイの甘い声に、胸が締め付けられる。  その声で呼ばれて愛されるのは快感だと、身体が覚えていた。 「ヘイティエの君も、今の君も、どっちも素敵だよ。もっと君のことを教えて」  ルイの言葉が、すべてリップサービスだとしても構わなかった。その先にある濃厚な快感への期待が、ユーシーを駆り立てる。 「ここで? それともベッドで?」  ユーシーは八割ほど残ったグラスをテーブルに置いた。  早く欲しい。  心臓が脈打ちながら、肉欲に染まった熱い血を全身に送っていく。  ユーシーが伸ばした熱い手のひらが、ルイの頬に触れる。  ルイは嬉しそうに目を細めた。その涼しげなアイスブルーの瞳を情欲に濡らして、ユーシーの手を、厚い手のひらで包んだ。 「ベッドに行こうか」  テーブルには、シャンパンの入った細身のグラスが二つ並んで置かれた。  シャンパンの注がれたグラスは半分も空いていないまま、テーブルに放置されていた。  細かな雫のついたグラスに、細かな炭酸の粒が音もなく躍る。  傍らのソファには誰の姿も無く、既に二人の姿はベッドの上だった。  ユーシーは一糸纏わぬ姿でルイに組み敷かれ、波打つシーツの上に縫い止められている。  アルコールで赤みの差した肌にはうっすらと汗が滲んでいた。  ユーシーの細い身体をシーツに押し付けるルイも服は着ていなかった。 「ルイ、ルイ」  ユーシーが腕を伸ばしてルイに甘える。  その声は甘く蕩け、見上げる琥珀色もすっかり情欲に濡れていた。  後孔にはルイの屹立が深々と埋められ、吐き出した白濁が刺青を汚していた。 「どうしたい? 教えて、シャオユー」  ルイが緩く腰を揺すり、とちゅとちゅと甘く粘ついた音を立てて奥を穿つ。熱い剛直に内臓を捏ねられ、ルイが動く度に快感が漣のように押し寄せてきた。無機物ではない、人の熱に中を埋められ熱い精液を注がれる快感を、ユーシーは与えられるままに堪能する。ユーシーは軽口を叩く余裕もなく、上擦った喘ぎを零すしか出来なかった。 「るい、ぅあ、なか、いっぱいだして」  既に何度も絶頂を迎えたユーシーは、すっかり蕩けた声で射精をねだる。 「シャオユーは、中に出されるのが好き?」  汗に濡れて額に張り付いた前髪を払い、ルイのアイスブルーの瞳が愛おしげにユーシーを見下ろした。 「ン、すき」  すっかり蜂蜜色に蕩けたユーシーの瞳には、涙の膜が張っていた。 「じゃあ、たくさん出してあげるね」  ゆったりと動かすルイの優しく大きなストロークで、前立腺を抉られ、奥の襞を捲られ、最奥の粘膜を捏ねられる。内臓を押し上げるような圧迫感にも、ユーシーの身体は快感を拾った。  奥の奥まで余す所なく蹂躙されて、意識は簡単に白飛びする。 「るい、るい」  揺すられ、ユーシーは舌足らずな声でルイを呼ぶ。 「ふふ、かわいいよ、シャオユー。僕がここまで入ってるの、わかる?」  臍の辺りを、トントンと中から突かれる。  震える指先で触れると、皮膚の向こうに肉を押し上げる何かを感じる。 「あ、う、入っ、て、ぅ」  腹の中を最奥まで突き上げるルイの逞しい肉茎を認識して、それだけでユーシーの中は不規則に締め付け、奥は物欲しげにしゃぶりつく。 「ふふ、こんなに甘えられたら、すぐいきそうだ」  荒い息を吐きながら、ルイが笑う。 「う、っく、るい、だして」 「いくよ、シャオユー」  遠慮のない、射精のための大きく荒々しいストローク。ルイの逞しい幹が、丸く張った先端が、張り出した段差が、ユーシーの絡みつく粘膜を擦り、抉っていく。奥襞を虐められる度に、ユーシーの揺れるばかりの性器からは透明な飛沫が散る。  ルイが息を詰めた。  最奥で楔が膨れ、熱が爆ぜる。ルイの逞しい肉茎が脈打ち、熱い奔流が放たれる。  中に吐き出される熱に酔いしれ、ユーシーは何度目がかの絶頂に上り詰めた。  腹の中に、熱いものが満ちていく。  ずっと待ち望んだ感覚に、圧倒的な多幸感が湧き上がる。意識が白く染まり、腹の奥が歓喜に熱く疼く。  中で何度も脈打つルイの逞しい幹を締め上げながら、ユーシーの記憶はそこでプツリと途切れた。

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