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第26話 旅立ち前

 九龍での極秘裏の会合から一週間が経った。  街に変わったところはない。少なくともユーシーにはそう見えた。  相変わらず日暮れとともにネオンは眩く輝き、夜の街を賑やかに照らしていた。  地下闘技場の面子には早々に挨拶をした。  支配人のウェンは大層残念がった。賞金額を上げるからと言われたが、香港を出ることを伝えるとがっくりと肩を落とした。  ハオランをはじめ、よく顔を合わす連中からは口々に勝ち逃げするなと言われたが、皆祝福してくれた。  シン婆にも会いに行った。香港を出ることを伝えると、寂しくなるわね、と言って餞別までくれた。  ディアーナは大層寂しがったが、ルイの元に行くことを伝えると祝福してくれた。  そうやって馴染みの一人一人に挨拶を済ませていくと、一週間はすぐ過ぎ去った。  ユーシーは部屋を引き払うため、ジンと部屋の片付けを始めた。 「お前、結局口座作ってねーのかよ」 「めんどくせーんだもん」  そんな会話をしながら、ユーシーはベッドの下に溜め込んでいた報酬やら賞金やらの封筒の山を一つずつ確認していく。空いた封筒をゴミ袋に放り込み、紙幣はボストンバッグとリュックに詰め込んでいく。  銀行へ行くのを面倒がっているうちにこんなに溜まってしまっていた。今更だが、さっさと口座を作っておけばよかったと思う。 「荷物、それだけか」 「うん」  ユーシーの持っている服は少なく、クローゼットに入れていた服は数えるほどだった。そこから古くなったものを処分すると、残った服はリュックに半分ほどしかなかった。それに先日の会合に着ていったスーツが加えても大した量ではなかった。  無造作に放った封筒の山を崩していくと、紙ではない何かが指先に触れた。 「あ」  出てきたのは埃まみれの十センチほどのシリコン製のディルドだった。  随分前にジンに貰ったが、何度か使ってすぐ飽きてしまったものだった。どこかにやってしまったと思ってすっかり忘れ去っていた。こんなところにあったのかと眺めていると、ジンの声が降ってきた。 「持ってくのか?」 「いや、いい」  ユーシーは躊躇いなくゴミ袋に放り込む。  他にも出てきた使いかけのコンドームやらローションのボトルやらも出てきたが全部ゴミ袋に突っ込んだ。 「これで全部かな」  大きめのゴミ袋で二つほど。一人暮らしの引越しで出たゴミにしても少なかった。 「これ、あげる」  ユーシーがジンに差し出したのはローターだった。 「おい、いらねーよ」 「一回しか使ってない」 「使用済みじゃねーか」  ジンはユーシーの手からむしり取ると容赦なくゴミ袋に投げ込んだ。 「あと、これ」  ユーシーはジンに茶封筒を差し出した。 「刺青の金。出世払いするって言っただろ」  ユーシーは真っ直ぐにジンを見上げた。  色白で細身、身長もそれほど高くないユーシーは、地下闘技場でバカにされるのを嫌がった。  実力はついても、体躯の大きさはそう簡単には変わらない。筋肉がつきにくい体質でもあったユーシーは、箔をつけるためにジンに紹介された彫り師ディアーナに刺青を彫ってもらった。まだそれほど収入源もなかったユーシーの代わりに、費用はジンが立て替えてくれていた。  殺し屋の仕事を始めてから、ユーシーは何かあるごとに金を払おうとしたが、ジンはいつも何かしら理由をつけて受け取ろうとはしなかった。 「覚えてたのかよ」  ジンは笑って、漸く茶封筒を受け取ってくれた。  部屋の片付けが終わり、ユーシーはジンとともに部屋を出た。ジンの呼んだタクシーがユーシーの部屋のあるマンションの前に到着した。残りの手続きは、ジンがしてくれるらしい。 「ジン、元気で」 「お前もな。なんかあったら連絡しろよ」  タクシーに乗り込みながら、短い挨拶を交わす。ジンとはここでお別れだ。ユーシーが手を振ると、ジンは笑ってを手を振り返してくれた。  タクシーが走り出す。  まだ明るい街をタクシーで走り、ルイのホテルに着く。  もう何度も訪れた、ルイのいるホテル。  部屋に着くと、スーツ姿のルイが出迎えた。 「いらっしゃい。ユーシー、荷物それだけ?」 「服、あんまりないから」  ユーシーの持つ荷物の少なさにルイが首を傾げるので、ユーシーは肩をすくめてみせた。 「あとは全部、金」 「えっ、あ、そう、か」  ルイは何かに納得したようだった。 「そのまま持って行ってもいいけど、セキュリティがよくないから、銀行に行こう」 「銀行?」  まさかルイにも勧められるとは思っていなかった。セキュリティがよくないと言われれば、確かにそうだと思う。現金で持っていたらすぐに盗られてしまいそうだ。 「そう。いったことは?」 「……ない」 「じゃあ、一緒に行こうか」  ルイは咎めるでもなく優しく笑ってくれた。  銀行に行ったことのないユーシーを、ルイは銀行までエスコートしてくれた。  銀行で、初めての口座を作り、出した現金に驚かれた。同年代が持つ金額にしては多いそうだ。  同年代の収入のことなど知らないユーシーはそういうものかと思った。  書類は担当が付きっきりで書き方を教えてくれて、身分証明書はレイが準備してくれたもので無事に作ることができた。  持っていた現金は全て銀行口座に入れたのでボストンバッグは空になり、リュックの中身も半分ほどになった。空になったボストンバッグはリュックの中に突っ込んだ。  銀行からの帰りのタクシーの中。  ルイはまたユーシーの手を握っていた。 「今夜は僕の部屋でいい?」  ユーシーは窓の外に投げていた視線を、隣のルイに向けた。 「ん、いいよ」  住んでいた部屋は引き払ったが、帰る場所が無くなったわけではない。だから、不安はなかった。  ずっと触れたかったルイに、ようやく触れられる。手だけでなく、全身でその体温を感じられる。そう思うと、ユーシーの琥珀色の瞳はルイを映して甘く蕩けた。  二人がホテルに戻る頃には、陽が大きく西に傾いていた。  夕闇の迫るホテルの部屋に入るなり、灯りもつけず、ルイはユーシーを抱き締めた。  ルイとこうするのは久しぶりだった。顔を合わせるのはあの夜の会合以来だし、最後に触れ合ったのはもっと前だった。  久しぶりに触れるルイの温もりに、ユーシーの胸は甘く満たされる。なのに、湧いてくるのは渇きや飢えに似た感覚だった。 「ユーシー、レイさんは、どういう関係?」 「ジンの兄貴分、かな。俺にとっても兄貴みたいな人」 「その、君と、キスするような……?」  ルイが言っているのは、あの会合の夜のことだった。あの場でリアクションがなかったので何も気にしていないと思っていたが、そうではなかったらしい。 「血が繋がってる訳じゃねーし」  レイのことは兄のように思ってはいるが、血の繋がりはない。だから、ユーシーにとっては、レイとのキスは特に何か問題があるという認識はなかった。 「あぁ、うん、そうか……」 「ルイ?」 「これからは、僕だけにして。キスも、セックスも」  ルイはその独占欲を言外に伝えるようにユーシーを抱き締め、甘えるようにユーシーに頬を擦り付ける。  これが恋人、というものなのだろうか。誰かの恋人になったことのないユーシーはぼんやりと考える。 「ん、いいよ」 「もう、びっくりした……」  やっぱり、自分といる時のルイは少し雰囲気が柔らかい。こっちが本当のルイなのだろうとユーシーは思う。そうであってほしい。ユーシーはこっちのルイの方が好きだった。 「ルイ」  無防備なルイの唇に、ユーシーは唇を重ねた。優しく触れて離れると、ルイはきょとんとした顔でユーシーを見ていた。 「もう、ルイとしかしねーよ」  ユーシーは指先でルイの唇をなぞった。ルイが自分を独占するように、自分もルイを独占できるのだ。そう思うと、胸には甘くどろりとした感情が溢れる。ルイを、独占したい。自分だけを見てほしい。 「あれから、レイさんと仲良くなれた?」  そんな胸の内をおくびにも出さず、ユーシーはその手のひらをルイの頬に滑らせた。  ユーシーは自分が帰った後のことを知らない。ジンからも聞かされていなかった。だから、あれからルイとレイが喧嘩をせずにうまく話ができたのか気になっていた。 「うん、ユーシーを攫う許可も貰ったし、これからも仲良くしましょうって約束したよ」  ユーシーの問いに、ルイは子どもに教えるように易しい言葉で教えてくれた。 「そっか」  ユーシーは嬉しいような、寂しいような、複雑な気分だった。ルイといられるのは嬉しいが、ジンやレイに会えないのは寂しく思う。でも、きっとその分も、ルイならたくさん愛してくれるだろう。ユーシーの胸に、温かいものが広がっていく。 「じゃあ、もう、ルイのものだ」  ようやく、だ。色々あったし迷うこともあったけれど、ユーシーはやっとなんの躊躇いもなくルイの胸に飛び込める。ユーシーの琥珀色の瞳が甘やかに揺れた。  温かなユーシーの頬を、ルイの手のひらが撫でた。 「言い方が悪かったね。ユーシー、君から自由を奪うつもりはないよ。そのままの君でいいから、僕と、ずっと一緒にいてくれる?」  その言葉には、ユーシーのことを想うルイの気持ちがそのまま込められていた。 「プロポーズみたいだな」 「そのつもりだよ」  どちらからともなく微笑み合って、触れるだけのキスをする。 「ふふ、いいよ。ルイとずっと一緒にいる」  ユーシーはルイを見上げ、ルイは甘やかな笑みを返す。 「嬉しい。ユーシー」  言い終わるや否や、ルイはユーシーを抱き上げた。 「っ、るい?」 「ごめん、嬉しくて。ユーシー、会いたかった」  恭しくベッドに降ろされたユーシーに、ルイが覆い被さる。 「俺も、会いたかった」  ルイに優しく唇を啄まれる。それはすぐに深く獰猛なものになった。  体温を、唾液を混ぜあって、舌を絡める。  唇が離れると、唾液が糸を引いて唇を繋いだ。  銀糸が切れ、熱を帯びた吐息が混ざり合う。 「ユーシー、準備をしようか」 「ん」  抱き上げられてバスルームに運ばれる。  服を脱ぎ捨て、煌びやかなバスルームで身体を清め、腹の中を洗う。ローションを仕込む頃には、ユーシーの身体はすっかり熱に染まってルイを欲しがるようになっていた。 「ルイ」 「お待たせ。ベッドまで、待てる?」 「ん」  抱き上げて運ばれたベッドルームはすっかり暗くなって、ベッドサイドの照明だけが優しい金色の光を放っていた。  そろりとシーツの上に降ろされ、ユーシーの身体に沿って撓んだシーツが波打つ。  上気したユーシーの肌を、ルイが撫で、全身にキスが落とされる。全身に降り注ぐ愛情を浴びながら、ユーシーは肌を震わせるばかりだった。  首筋を舐めるルイの舌が鎖骨を辿って平らな胸にたどり着く。 「ルイ、擽ったい」  揶揄うように、ルイの舌先が胸の上でも一際色濃いその部分に触れた。それを待ち望んでいたかのように震える愛らしい色の尖りを、ルイの唇が捕まえる。 「っ、う、あ」  唇に挟まれたまま舌先で優しく捏ねられると、ユーシーは恥ずかしそうに控えめな声を漏らす。これでも懸命に声をこらえていた。胸をこうやって愛されるのには慣れていなかった。  胸を丁寧に愛されて、ユーシーは眉を寄せる。  弱い炎が心臓の裏を炙るような、感覚は物足りなさとともに焦燥を呼び起こす。貪欲な身体はより濃い快感を求めてしまう。  刺青の隙間に息づいた幼い色の肉粒は丁寧に舐められ、硬くしこっていた。 「ここも喜んでるみたいだよ」 「っう」 「ふふ、かわいい色」  舌先で器用に捏ねられると全身を甘い痺れが駆ける。  右も左も丁寧にかわいがられるうちに、ユーシーはすっかり蕩けてしまっていた。気持ちがいい。もっと欲しい。  無意識に、ユーシーはルイの頭を抱き込む。  濡れた音を立てて、ルイがユーシーの胸の尖をきつく吸った。 「っ、あ!」  頭に混じって、鋭い快感が身体を駆け抜ける。 思わず身体を反らし、胸を突き出してしまう。  ルイの唇から解放されたユーシーの胸の愛らしい肉粒は唾液に濡れ、てらてらといやらしく光っていた。  ユーシーは熱い吐息を吐く。  蕩けた琥珀色が気怠げにルイを見上げる。ユーシーを映すアイスブルーは火傷しそうな熱量を孕んで、獰猛さを隠そうともしない。 「るい」  胸が震える。食われそうな、獰猛な欲が自分に向いているのを肌で感じる。怖いのではない。与えられるものへの期待と、愛しさとでユーシーの胸は漣立った。  腹の奥が、熱を帯びてざわめく。 「はやく」  逸る気持ちが、甘い声を溢す。  ルイの熱い手のひらがユーシーを宥めるように頬を撫でる。  ルイは微笑んで、身体を下にずらした。 「るい?」  ルイの笑みの形の唇を目で追う。  それは、すっかり勃ち上がり震えるユーシーの性器の、先端に触れた。  それだけでユーシーの身体はびくりと震えた。 「あ、う」  既に先走りをいく筋も垂らすそこに舌が這わされ、かと思えば根本まで咥え込まれる。 「っ、ルイ、だめ、だっ、て」  熱い粘膜に包まれる。震える幹を舌で撫でられると、腰が揺れる。  ルイは口を離すと、唾液で濡れて震えるユーシーの性器を指先でなぞった。 「どうして? ここは喜んでるよ」  ルイは全部お見通しだった。 「あ、う」  ユーシーは上手く言葉にできない。気持ちいいのは好きだ。でも、すぐいってしまいそうで、ルイに口でされるのは恥ずかしかった。ルイなら喜んで口でしそうだが、その口に出すのは躊躇いがある。 「飲ませて、ユーシー」  そんなユーシーの胸中まで見透かすようようなルイの言葉は、ユーシーの頬を熱くした。  名前を呼ばれ、喜びで胸が締め付けられる。本当の名前を呼んで愛されるのは、堪らなく気持ちがいい。  そんなふうに言われてしまっては、ユーシーは拒絶することもできず、小さく頷いた。 「あ……」  ルイは震えるユーシーの性器を口に含むと、その粘膜と舌で丁寧に愛撫した。  幹をやんわりと揉み、舌先で先端を撫で、裏筋をくすぐる。  ルイの温かな粘膜に包まれて、ユーシーはすぐに達した。 「っい、ぁ」  華奢な腰が跳ねる。ユーシーの性器は何度も脈打って、熱い白濁がルイの口の中に放たれる。  ユーシーは薄い胸を大きく喘がせ、熱に染まった息を吐く。  呼吸は乱れ、静かな部屋にはユーシーの呼吸の音が響く。それに混じって、こくんとルイの喉が鳴った。  ルイの唇から、芯を失ったユーシーの性器がそっと抜けて薄い腹に横たわる。 「っあ、飲んだのかよ」 「うん、おいしい」 「バカ……」  ユーシーを何もかも受け止めてくれるのが嬉しくて、なのに素直になれず、ユーシーは掠れた声で悪態をつく。  ユーシーがルイの腕を引っ張ってねだると、ルイはそっと触れるだけのキスをしてくれた。  自分の出したものを飲んだ唇でも構わなかった。  もっとルイに触れていたくて、ユーシーは名残惜しげにルイの唇に歯を立てた。 「もう、入れろよ」 「ふふ、いいの?」 「ん、はやく」  ユーシーの素っ気ないおねだりにも、ルイは笑みを返す。  身体を離したルイは投げ出されたユーシーの脚を持ち上げ、大きく拡げる。  ユーシーは溜め息のように小さく息を吐く。  全部ルイから見えている。粘膜に愛された性器も、これからルイを受け入れる窄まりも。  そしてユーシーの目に入ったのは、まだ触ってもいないのにすっかり反り返ったルイの性器だった。  何もしていないのに、ルイはこんなに興奮している。それが嬉しくて、ユーシーは喉を鳴らした。  ルイは手を伸ばしてベッドサイドの照明の側からローションのボトルを取り上げた。  その逞しい屹立に手を添えてたルイは、ローションをたっぷりと垂らすと期待にひくつくユーシーの窄まりに先端を押し当てた。  ルイの怒張が窄まりにキスすると、そこは甘えるようにしゃぶりつく。  押し付けられた先端を、ユーシーの窄まりはゆっくりと飲み込んでいく。ルイは時間をかけてユーシーの中を進んでいく。 「っあ、ルイ、やだ、はやく、奥」  待ちきれないユーシーは泣きそうな声を上げる。 「ごめんね、もうちょっとだけ」 「っう、あ、はぁ」  ずっと気持ちが良くて、頭がおかしくなりそうだった。  早く奥に欲しいのに、ルイはユーシーの中をじっくり味わうように緩く腰を動かす。脳髄まで突き抜けるような快感ではなく、じわりじわりと全身を蝕むような気持ちよさだった。  不規則に戦慄きルイを締め付けてしまうのが恥ずかしい。ユーシーの中が戦慄く度に、ルイは息を詰めた。  ユーシーは波打ったシーツに爪を立てる。上擦った喘ぎが止まらない。  全身が熱を帯び、汗が滲んでいた。  ルイの楔は奥から浅瀬まで、ゆったりと往復を繰り返す。形を覚えさせるように、段差が肉壁を押し拡げ、こそいでいく。  熟れた前立腺をゆっくりと潰され、腰が勝手に震える。勃ち上がった性器がルイの引き締まった腹に擦れ、とろとろと白く濁った体液を溢す。  持ち上げられた脚をルイの腰に絡める。  ルイの身体の下に閉じ込められるように抱かれたユーシーは、逃げ場がないせいでルイにしがみつくことしかできない。  そうしていないと、飽和しそうな快感でどうにかなりそうだった。  だらしなく開いた唇からは、熱い吐息の合間に、殺しきれない甘ったるい声が漏れる。  ユーシーは自分がどんなふうに乱れているかわかっていない。ただ、ルイに与えられる快感を享受していた。 「ユーシー、奥、入らせて」  奥の襞を、ルイの先端が捏ね、小刻みに突き上げる。奥の襞は、甘えるように緩み、ルイにしゃぶりつく。 「っあ、るい、きて」  ユーシーは上擦った声でルイを誘う。  一番奥でルイを、その熱を感じたくて、ユーシーはルイにしがみつく腕に力を込めた。  すっかり緩んだ襞にルイの先端が押し付けられたかと思うと、そのまま最奥へ潜り込んだ。  ぐぽ、とユーシーの薄い腹の奥が鳴った。 「っひ、ぅ」  ユーシーはその華奢な身体を弓形にしならせた。刺青が彩る白い喉を晒し、引き攣った声が漏れる。呼吸が上手くできず、ユーシーは力無く口を動かして空気を求めるしかできない。脚はピンと伸ばされ、震えながらシーツを掻く。  見開かれた琥珀色の双眸は生理的な涙で濡れて、その定まらない視線は虚空を彷徨う。  嵐のような快感が絶えず腹の奥から生まれてくる。それは容赦なくユーシーを高みへと押し上げた。 「ふ、入ったよ、ユーシー」  ルイが薄く笑い、僅かに眉を寄せて何かを堪えるような表情を見せた。  ユーシーの腹から胸に、温かな液体が散った。潮を吹いていた。 「ユーシー、気持ちいいね」  勝手にびくびくと跳ねる身体を自分の下に閉じ込めたまま、ルイはユーシーの頬を撫でた。 「んあ、るい、るい」  ユーシーが舌ったらずにルイの名を呼ぶと、ルイは情欲に濡れた目を細めた。 「かわいいよ、僕のユーシー」  嵌まり込んだ奥の襞で、ルイが楔を扱く。  その度に襞が捲れ、最奥を突かれて、ユーシーは何度も潮を噴き上げ絶頂する。  絶え間なく与えられる快感で、ユーシーは高みから降りてこられないでいた。  中が、ずっといっている。熱くうねり、喜ぶように戦慄いてはルイをきつく締め上げる。 「もう、いってもいい? 君の中で」 「ん、だし、て」  ユーシーの絶え絶えな声に、ルイは返事の代わりに食らいつくようなキスをして、ユーシーの最奥を小刻みに突き上げる。  はらわたを捏ね回されるような苦しさも、すぐに濃厚な快感に塗りつぶされる。  ルイが腰を引くと襞が雁首の段差で捲れ、突き入れれば最奥部の柔らかな肉壁を膨らんだ先端が小突く。  ユーシーの中はしきりに戦慄き、ルイを締め上げて射精を促す。  ルイが息を詰める。  最奥目掛け、ルイは熱い白濁を放った。  ルイの昂りが脈打ち、迸る熱い白濁が何度もユーシーの柔い最奥を叩く。  ユーシーに、また絶頂が訪れた。  視界が白飛びして、脚ががくがくと震え、熱を帯びた腹の中がきゅうきゅうと疼く。  甘い余韻に蕩けた琥珀色の瞳を細め、ユーシーは笑う。熱を孕んだ美しいアイスブルーの双眸に見守られながら、ユーシーは意識を手放した。

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