3 / 4

汎愛《洸弍side》3

ある日、いつも通り兄貴が大学から帰ってきた。 でも様子がおかしかった。 「ただいま」も言わずに、部屋に籠って。 しばらくして、綾くんが血相変えてうちに来た。 「愁弥はっ!?」 「部屋だよ」 慌てて階段を駆けて兄貴の部屋に向かう綾くん。 その時はとても状況を聞ける雰囲気じゃなかったけど、1週間後にどうしたのか聞いたら、大学で兄貴が犯されかけたらしい。 「そいつ…前に俺が手を出した女の彼氏で色々あった奴だったよ。もちろん半殺しにしてきたけどな」 その時の綾くんの目が、兄貴しか見ていない感じがした。 このままの距離でいいと思ったはずなのに、凄く嫉妬してる自分がいる。 兄貴を見ないで、 俺も見て、 兄貴なんて―… 綾くんを独占してる兄貴なんて嫌い。 犯されてしまえばよかったのに。 傷ついて、消えない傷を作ればよかったのに。 ハッと我に帰り、無意識に兄貴を憎んでいることに気が付いた。 最低なことを思った。 俺は綾くんが好きで、 でも綾くんが兄貴のモノって考えるだけで兄貴を憎んでしまう。 兄貴は何も悪くないのに。 怖くなった。 自分がこれからどうなってしまうのか不安になった。 最低な人間になってしまうのが怖かった。 だから、離れたんだ。 綾くんをこれ以上求めないように。 これ以上、兄貴を憎みたくなかったから だから、逃げるって決めたんだ。 「編入?MY学園って全寮制の名門だろ?」 「そう。前に父さんに勧められてて、進学校だし…行こうと思って」 離れたくないんだよ、本当は。 でもそうしないと俺は最低な人間になってしまうから。 これ以上、ここに居れない。 「そっか…頑張れよ」 「うん」 綾くんに頭を撫でられる度に、泣きそうになった。 離れたくないんだよ。 綾くんと一緒に居たい。 本当に大好き。 でも、もう決めたから 「頑張る」 忘れる為には、ここには居れないんだ。 MY学園に編入してからも、俺の愛用していた香水は綾くんと同じモノだった。 温もりは忘れても、記憶は忘れたくない自分がいた。 だから無意識に買っていた香水は、俺から綾くんを思い出させてしまう。 でも離れたくないから、忘れたくないから、ずっとこの香水をつけていた。 結局、それじゃ離れたところで何も変わらないって気付いた。 気付くまでに2年かかった。 忘れよう。 これじゃ何の為に離れたんだか分からねぇだろ。 香水も、手離さないと意味がない。 捨てろ。 捨てないと意味がない。 そして俺は焼却炉に行き、香水を捨てることにした。

ともだちにシェアしよう!