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汎愛《洸弍side》3
ある日、いつも通り兄貴が大学から帰ってきた。
でも様子がおかしかった。
「ただいま」も言わずに、部屋に籠って。
しばらくして、綾くんが血相変えてうちに来た。
「愁弥はっ!?」
「部屋だよ」
慌てて階段を駆けて兄貴の部屋に向かう綾くん。
その時はとても状況を聞ける雰囲気じゃなかったけど、1週間後にどうしたのか聞いたら、大学で兄貴が犯されかけたらしい。
「そいつ…前に俺が手を出した女の彼氏で色々あった奴だったよ。もちろん半殺しにしてきたけどな」
その時の綾くんの目が、兄貴しか見ていない感じがした。
このままの距離でいいと思ったはずなのに、凄く嫉妬してる自分がいる。
兄貴を見ないで、
俺も見て、
兄貴なんて―…
綾くんを独占してる兄貴なんて嫌い。
犯されてしまえばよかったのに。
傷ついて、消えない傷を作ればよかったのに。
ハッと我に帰り、無意識に兄貴を憎んでいることに気が付いた。
最低なことを思った。
俺は綾くんが好きで、
でも綾くんが兄貴のモノって考えるだけで兄貴を憎んでしまう。
兄貴は何も悪くないのに。
怖くなった。
自分がこれからどうなってしまうのか不安になった。
最低な人間になってしまうのが怖かった。
だから、離れたんだ。
綾くんをこれ以上求めないように。
これ以上、兄貴を憎みたくなかったから
だから、逃げるって決めたんだ。
「編入?MY学園って全寮制の名門だろ?」
「そう。前に父さんに勧められてて、進学校だし…行こうと思って」
離れたくないんだよ、本当は。
でもそうしないと俺は最低な人間になってしまうから。
これ以上、ここに居れない。
「そっか…頑張れよ」
「うん」
綾くんに頭を撫でられる度に、泣きそうになった。
離れたくないんだよ。
綾くんと一緒に居たい。
本当に大好き。
でも、もう決めたから
「頑張る」
忘れる為には、ここには居れないんだ。
MY学園に編入してからも、俺の愛用していた香水は綾くんと同じモノだった。
温もりは忘れても、記憶は忘れたくない自分がいた。
だから無意識に買っていた香水は、俺から綾くんを思い出させてしまう。
でも離れたくないから、忘れたくないから、ずっとこの香水をつけていた。
結局、それじゃ離れたところで何も変わらないって気付いた。
気付くまでに2年かかった。
忘れよう。
これじゃ何の為に離れたんだか分からねぇだろ。
香水も、手離さないと意味がない。
捨てろ。
捨てないと意味がない。
そして俺は焼却炉に行き、香水を捨てることにした。
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