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「僕ね、八岐大蛇がお兄さんのアパートに来た時からずっと見てたよ。そしたら平ノ将門や九尾までいるし。安倍晴明まで加わってさ、僕が欲しいのばかりいるな~て思ってたら、今度はニギハヤヒも連れてくるんだもん。でも疑問も生じたんだよね。出かけて行った時には無かったのに、戻ってきたお兄さんのお腹の中には光る玉が沢山あった。てっきりニギハヤヒと契約した時に取り引きでもしてたんだと思ってたよ。お兄さんの頸にある紋様も変化したんじゃない? お兄さんの力の質も変わってしまっているしね。それね、知ってた? 体の中に十種神宝があるからだよ。なのに知らないと言う事はお兄さんの意思を無視して、勝手に十種神宝を埋め込まれたって事になるよね?」
少年の目がうっそりと細められる。
言わんとする事が分からず、朝陽は一時も視線を逸らさずに見つめ返す。
「さっきから一体何を言っている?」
早鐘を打つ心臓の音がやけに煩く聞こえた。
聞いたら彼らとはもう今のままの関係では居られない。そう直感が告げているのに少年の言葉に耳を傾けてしまう。
「もしかして本当に気がついてなかったの? うわー、ニギハヤヒって酷い事するんだねぇ。人の体の中に無断で十種神宝を埋め込むなんてさ。それに、九尾も安倍晴明もその事に気がついていて、知らないフリをしてる。この様子じゃ、他の番達も知ってたりして? お兄さんさ、手っ取り早く代わりの神を生ませる為にみんなに利用されているだけなんじゃない? そんな嘘だらけの関係、本当に番って言えるの?」
朝陽は弾かれたように目を瞠り、少年を見つめていた。
少年の言った言葉全てを鵜呑みにした訳ではないが、実際、朝陽の霊力は質が変わっている。頸にある紋様も変わってしまった。
疑いもしていなかった彼らとの関係に小さな綻びが出来て、そこからひび割れ始めていく。
——だからと言って、コイツは信用出来ない!
ニギハヤヒが本当に十種神宝を己の体に移動させているのなら、その理由も分からない。何の得があると言うのだろうか。
十種神宝を手放すという事は、自分自身の霊力を削るのと同意義だ。己の霊力を落としてまで得たい物が思い浮かばない。
味方でさえ笑いながら消すような奴の言葉なんて信じられなかったが、気持ちを揺さぶられている。
己の持ち得ている物が、こんなにも脆いものだったという事実が不安を煽って仕方ない。
嘘だらけの関係という言葉が、朝陽の心に重くのし掛かっている。
皆んなに会いたかった。
何だそれは、と言って笑って欲しかった。
利用する為だけに番ったんじゃないと、そう言って欲しかった。
直接三人に確認してそれから決めたい。
でも全て肯定されてしまったら、どうしたら良いのだろう。己はまた一人になってしまう。朝陽はそれがとても怖かった。
「僕の名前は、物部《もののべ》。物部アマヤ。今日は帰してあげる。それにそろそろ体に帰らないと本当に死んじゃうよ。人間て脆弱だね」
真正面に居た筈の少年の姿が視界から消える。かと思った直後、背を押されて朝陽はまた落下する様な浮遊感にみまわれた。
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