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第8話
どこに売ってんだよ、と茶化した覚えがある百合斗くんの上着。
と、その隣には後ろ姿からでも分かる可愛らしい女の子。
百合斗くんと腕を組み、楽しそうに歩いている。
まぁ、大学生だし、彼女のひとりやふたりいるよな。
そう思いながらも、俺の心はなんだか締め付けられるような、息苦しいようなそんな気がした。
「はぁ。何やってんだか。」
自分の気持ちにストップをかけ、本屋へ向かう。
前回の作品が、どうにもウケがよく、いい感じで飾ってもらってるらしいと聞き、少し覗いてみると、そこには彼がいた。
体を反転させ、来た道を戻ろうとしたが、少し思いとどまる。
...........聞くか。
「百合斗くん?」
その声に反応した彼が、振り返り驚いた顔をする。
「...........え!?漱石さん!?」
百合斗くんの顔がどんどん明るく幸せそうになっていく。
そんな彼を見ながら、また俺の心臓は苦しくなる。
ふと彼の、右手を見ると1冊の小説が持たれている。
あ、それ、
「漱石さん、どうしました?」
「...................えーと、百合斗くんも買い物?」
「あー、まぁ、そんなとこです。」
「そうだよね。ごめんね。買い物の邪魔して。じゃあ、」
「!!!!!!イケメン!!美人!!」
突然の声にビクッと身体を震わせる。
そこには、あの時百合斗くんと腕を組みながら楽しそうに歩いていた女の子がいた。
こちらから質問する余裕もなく、怒涛の質問ラッシュが続く。
内容は名前や年齢、職業などよく聞かれるものばかりだったので、いつも通りの返しをする。
ひとつ今までと違うのは、職業をいつもは在宅系と答えるところを正直に小説家と答えたことぐらいだ。
百合斗くんは、マシンガントークに少し呆れたような表情をしていたが、小説家と聞いた時に、驚いたような顔をした。
質問が終わり、いよいよこちらから質問する番。
話を聞く限り、どうやら彼女の名前は咲蘭というらしい。
まず1番気になっていたことを聞く。
「咲蘭ちゃんは、百合斗くんの彼女さん??」
いつも通りの表情で、内心バクバクしながら、そう問うと、咲蘭ちゃんは、一瞬驚いたような顔をし、すぐに大爆笑が起こる。
「まっさかぁぁ!!やめてくださいよぉ!」
「ご紹介遅れました、百合斗くんのいとこの小鳥遊咲蘭です。」
「いとこ......。いとこか。なるほどね。」
いとこってあのいとこ?親戚ってこと?
え、めっちゃ恥ずかしいんだけど。
さっきまで、何をしても消えてくれなかったモヤモヤがスっと姿を消す。
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