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第9話
「うん。お邪魔して悪かったね。咲蘭ちゃん。今度うち遊びにおいで。じゃあまた。」
「やっと見つけた。どこ行ってたんだよ、って、何ニヤけてんの?きもいんだけど。」
「うん。いとこだってさ。いとこ。」
「??何言ってんの?帰るぞ。」
「皐月。俺病気かも。」
「おう。お前は頭がおかしい。」
サラッと流され、俺たちは各々家へ帰る。
空には、満ちるにはまだ早い、半月が浮かんでいた。
家に着き、一息つく。
あ、そういえば百合斗くん俺の小説持ってたな。
良かった。前作、純愛系のやつで...。
初っ端から官能いかれたら流石にキツイだろ...。
いや、純愛も純愛で恥ずかしい気が...
考えんのやめよ。うん。
風呂に入り、歯を磨き、布団に入る。
寝る時には、疲れもモヤモヤもなにもかも取れていて、久しぶりに熟睡することが出来た。
*
ある日の休日、夕日が差し込み始め、烏が大群を生して帰っていく。
「ピンポーン」
プロット作りをしていた、手を止め、ドアを開けるとすごい勢いで俺の横をすり抜け、百合斗くんが入ってきた。
「!!??」
突然の出来事に、声が出ず固まっていると、百合斗くんもまた俯きながら玄関で止まっている。
「え?百合斗くん?なに??どうした??」
空白の時間が過ぎ、そろそろ声をかけようかと思った時、勢いよく彼は、こちらを見る。
「え、なんで泣いてるの??どうしたの?」
顔を上げたかと思えば、彼の目からは涙が溢れ、目元は赤く染っている。
「..............漱石さん。天才ですか。」
「........................」
「........え?」
泣きながら何かを訴えかけてくる百合斗くんを前にし、状況が読み込めず、立ち尽くす。
鼻水を啜りながら、感想を伝えてくれる百合斗くんを前にし、また、心がほんのりと暖かくなる。
「.....ッ....読みまじだ。恋いたほど飽いだ。」
「本当に....よがったでず...ッ......特にラストやばがったです.....ありがとうございまず......ッ....。」
「...............あ。ありがとね。」
感想を言い終えたかと思えば、彼の頬はみるみる赤く染まっていく。
かわ.....。
「えっと、あのそれだけです。失礼します!」
感想だけ言って、そそくさと出ていこうとする百合斗くんの手を掴む。
いや、何、引き止めてんだ俺。
「えーと、あの、漱石さん?帰ります、俺、。」
「百合斗くん。」
「はい。」
「お腹空いてる?」
「.....え?」
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