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第10話
引き止めるつもりもなかった俺の口から、苦し紛れに出たのは夕食のお誘いだった。
いや、でももっと感想聞きたいし。
久しぶりに会えたし、もう少しくらいね。
「いや、そこまで空いてないっす...。」
いや、ここで負けちゃいけない。
「そっかぁ。残念。今日の夜ご飯、特製カレーライスなんだけどなぁ...。1人で食べ切れるかなぁ。明日も明後日も明明後日もカレーかぁ。」
「.......食べます。」
勝った。
百合斗くんを夕食に誘うことに成功し、家の中へ招く。
「ちょっと、散らかってるかも。適当にずらしていいよ。」
突然誘ってしまったので、家の中は汚いとまではいかないけど、綺麗ではない。
普段から片付けとかなきゃなぁ。
普段、人を家に招くことが滅多にないので、自分の空間に、他の人がいる今の状況に、少し心が浮つく。
「今温め直すから、ちょっと待っててね。」
こくんとただ頷き、静かに椅子に座っている、百合斗くんが可愛くて、頬が緩む。
温まったカレーを、2つ分皿に盛り、テーブルまで運ぶ。
何をしたらいいのか分からないのか、ただただ当たりを見回している彼の前に、お手製カレーライスを置くと、キラキラと目を輝かせ、無邪気な笑顔で笑う。
「いただきます。」
「うん。召し上がれ。」
いただきます、か。久しぶりに聞いたな。
「んっっっっっま!!!!!!!」
一口食べて、少し固まっていたかと思えば、突然大声を出す。
少し驚きながらも、俺の心は嬉しさで満たされる。
「はははっ。だろ??カレーはこだわりあるからね。」
つい大声が出てしまったのか、たちまち百合斗くんの頬は赤く染っていく。
「んで、読んでくれたんだ。それ。」
テーブルに置かれた、小説に目線が集まり、彼がまた語り出す。
「はい。最高でした。てか、やっぱり漱石さんって小説家さんだったんですね。」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「っす。」
「あらま。わざわざ、買ってくれてありがとね。」
「表紙、綺麗すぎてつい買っちゃったんですけど、内容もめっちゃ素敵でした。」
「あー。表紙拘ったからね。」
「漱石さんは、恋愛小説家なんですか?」
恋愛、、まぁ、純愛も官能も大元は恋愛だしな。うん。
「うん。まー。そうだね。」
「他にありますか?今までの作品とか...」
「あるよ。そこに入ってるから好きなの持ってってもいいよ。」
そう言いながら、本棚の一角を指さす。
「ありがとうございます!」
眩しい笑顔を向けてくる。
おじさん、胸焼けしちゃいそうだよ...。
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