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第11話
「ご馳走様でした!!」
「お粗末様でした。」
「皿洗いますよ!」
「んー、大丈夫。ゆっくりしてて。」
お客さんにわざわざ皿を洗わせるものかと、そそくさと皿をキッチンまで運ぶ。
はぁ。俺ちゃんといつも通りやれてるかな。
チラッと、リビングの方を覗くと、百合斗くんが本棚をまじまじと眺めている。
彼が手に取った1冊がどんな小説なのか、作者の俺には一目瞭然。
ニヤリと口角を上げ、音を立てず、百合斗くんの背後に近づく。
「どれ見てんの?」
「!!!?!!!?」
声をかけると、百合斗くんは声にならない叫びを起こす。
なんてからかいがいのある子なんだろうか。
「あー。それね。読んじゃった??」
「えーと、あのいや、サラッとしか。」
そんな焦っちゃって。かーわい。
「ふーん。えっち。」
「えっ...!?いやいや!違います!たまたま、手に取ったのがこれってだけで!!」
「はははっ!!わかってるわかってる。それ持って帰んな。官能だけど内容はなかなかよく書けてると思うからさ。ね?」
「..........はい。読ませていただきます。」
また、頬を赤く染め、少し俯きがちに返答する彼が、どこかとても愛おしく、心が落ち着かない。
百合斗くんが、帰ったあとの部屋は、いつも通りの静けさに戻る。
いつも通りのはずなのに、どこか寂しい気もする。
「百合斗くん読んでくれるかな。」
百合斗くんにさっき、貸した小説は、濡場が結構生々しく、少しSNSでも話題になったやつだ。
なんか、いきなり恥ずかしくなってきた。
いやいや、今まで何人の人に見てもらってきたか...。
一小説家として、自分の作品をもっと沢山の人に呼んでもらえることは、誇りだろう。
考えを振り払うように、頭を振り、浅い深呼吸をする。
*
小鳥のさえずりと共に目を覚ます。
ググッと伸びをして、完全に覚めていない体に喝を入れる。
今日は、特に用事もないので、一日中、仕事三昧かなぁ。
「腹が減っては戦ができぬ。」
そう言い、軽く食パンをトーストし、半熟目玉焼きを乗せる。
ブラックのコーヒーと一緒に、テレビ音をBGM代わりにし、朝食を済ます。
今日は早起きしたのでまだ、時間は8時。
仕事柄昼夜逆転がしょっちゅうな俺にとって、朝に寝ることも少なくない。
たまには、早起きも悪くないな。
朝から日光を浴びたおかげか、頭が冴え、仕事をする手は時間を忘れ、動き続ける。
「ぐぅぅ。」
昼ご飯にしようと立ち上がり、時計を見る。
時計はちょうど1時を指していた。
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